婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

文字の大きさ
15 / 70
第一部「ブレナード反逆編」

第15話:奪われた夜と、燃える誓い

しおりを挟む
夜は、あまりにも静かだった。

 それはまるで、嵐の前の“呼吸”のような沈黙。
 満月が屋敷を淡く照らすなか、私はアレクシスの私室の隣、仮設された警護室に身を置いていた。

 「護衛は二名、交代で常駐。部屋の外には私兵を配置済みです」

 執事のリュークが淡々と説明する。
 けれど、私はどこか胸騒ぎを拭えなかった。

 “この静けさは、不自然だ”。

 その違和感が的中したのは、深夜――午前二時を回った頃だった。

* * *

 部屋の外で、小さな物音がした。
 警備に就いていた兵の一人が、不自然に足音を響かせながら部屋の扉をノックする。

 「失礼いたします。巡回交代です」

 私はすぐに違和感を察した。

 この時間の交代は、“アレクシスの命で調整されたはずの時刻”ではない。

 扉を開ける前に、私は短く問いかけた。

 「あなたの所属と階級を、どうぞ」

 沈黙。

 それが答えだった。

 私はすぐさま扉を背に下がり、内鍵をかける。同時に、壁に仕掛けていた緊急ベルを鳴らす。

 だが、それよりも早く――扉が爆音と共に吹き飛んだ。

 視界が一瞬、白く焼ける。
 煙の中から、覆面を被った数人の影が現れた。

 「確保しろ。“生きていればいい”とだけ命じられている」

 男たちは訓練された動きで私に向かって突進してくる。
 私は咄嗟にテーブルの上にあった燭台を掴み、身を翻す。

 「簡単にはいかせませんわよ」

 その瞬間、窓の外から飛び込んできた影がひとつ。
 銀の剣が弧を描き、侵入者のうちのひとりが壁際へ吹き飛ばされる。

 「……無事か、レイナ!」

 アレクシスだった。

 黒い騎士服のまま、剣を片手に部屋へ駆け込み、次々と襲撃者たちを薙ぎ倒していく。

 「三人残っている、外にももう二人!」

 「下がっていろ、護衛が今追いつく!」

 彼の言葉通り、数秒後には館の私兵たちが突入し、襲撃者たちは制圧された。

 私はその場に崩れ落ち、ようやく息をついた。

 「……遅いですわ、アレクシス……」

 「すまない。だが、間に合った」

 彼は私を抱き寄せ、その腕が強く震えていた。

 「君に何かあったら、僕は……僕は、もう」

 私はそっと彼の背に腕を回す。

 「……無事です。あなたが、来てくれたから」

* * *

 数時間後、アレクシスの書斎。
 捕らえられた襲撃者たちは、自らの身元を明かさなかった。だが、持ち物や発言の端々から、やはり“ブレナード家”が背後にあることは明白だった。

 「これは宣戦布告だ」

 アレクシスは静かに言った。

 「僕たちが“過去の罪”に触れたから、“証人”であるレイナを排除しようとした。今後、よりあからさまな手が繰り出されるだろう」

 「……私はもう、守られるだけの存在ではいられませんわね」

 私の言葉に、彼は首を横に振った。

 「違う。“守る”のではない。“共に戦う”。それが、僕たちのこれからだ」

 その眼差しは、もはや冷徹な貴族でも、静かな政治家でもなかった。

 ――戦士の目だった。

 「王宮には、必ず“内通者”がいる。君の父の失踪も、今回の襲撃も、それがなければ成り立たない」

 「つまり、戦場はもう王都全体に広がっている……」

 「その通りだ。だからこそ、今、我々が先手を打たねばならない」

 私は深く頷いた。

 「……アレクシス様。お訊ねしますわ」

 「なんだ?」

 「この戦いに勝った暁には、私たちに“平穏”は訪れますか?」

 「約束しよう。君が安心して笑える未来を、必ず取り戻す」

 彼のその言葉が、今の私にとって何よりの救いだった。

 だから私は、彼にだけ見せる柔らかな微笑を浮かべて、こう答えた。

 「……なら、どこまでもついていきますわ。“夫”として、“信頼する人”として」

 そして私たちは、深く指を絡めて誓い合った。

 これより先は、剣と知略の世界。
 命を懸けて挑む、“過去の亡霊”との戦いが幕を開ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...