番ではなく、あなたを選ぶと決めた──王太子と平民の契約から始まる恋

春夜夢

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第22話「国を変える声」

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数日後。王都の中央広場。
 石造りの階段の上に設けられた特設演台から、セイルは眼下の群衆を見下ろしていた。

 人の波が、ざわざわと揺れている。
 王家からの新たな布告、それも“番制度見直し”に関わるとあって、民衆の関心は高まっていた。

「……手が、震える」

 セイルは自嘲ぎみに呟いた。

 けれど、その手をそっと包み込む温もりがある。
 振り向けば、レイグランが変わらぬ眼差しで微笑んでいた。

「君はここに、選ばれて立っている。自分の意志で。誇れ、セイル」

 正午、鐘の音が鳴り響き、群衆がざわめきを飲み込んだ。
 レイグラン王太子が先に壇上へ上がると、堂々と布告を読み上げる。

「本日より、王政は“番制度”の見直しに着手する。
 血に縛られぬ愛、制度に従わぬ契りが存在することを、我々は認める」

 ざわ……と広場が波立った。

「我が隣にいるのは、平民の青年、セイル・アーデル。
 だが彼は、私が生涯をかけて守ると決めた“伴侶”である。
 私はこの国の王太子として、“番だからではなく、彼だから選んだ”ことをここに宣言する」

 その言葉のあと、セイルが壇上へ招かれた。

 一瞬、足がすくんだが――
 民衆の顔を見つめたとき、自分の言葉が必要とされていることを悟った。

「……僕は、ただの一市民です。血統も、名家の出でもない。
 でも、彼に“選ばれた”ことで、たくさんのことを考えました。
 制度の重さも、伝統の誇りも、そして“選ぶ”ということの重みも」

 広場の空気が、静かに変わっていく。

 人々が、耳を傾けてくれている。

「僕は“番”ではないけれど、彼と生きたいと思った。
 だからこそ、僕のような人間でも誰かを愛し、選ばれ、愛する自由があるんだと……
 国に証明したいと思った」

「それは、王族の特権ではない。
 どんな身分でも、“誰かを選ぶ権利”は、誰にだってある。
 だから、僕は……この国を信じたい。皆さんと一緒に、この未来を信じたい!」

 一瞬の沈黙のあと、拍手が広がっていった。

 最初はためらいがちだったが、それはやがて波のように膨らんで、
 広場全体を包み込むような歓声へと変わった。

「セイルー!」「王太子ー!」「よく言った!」

 演台の下で、見守っていた王妃ユリエルが、静かに目を細めた。

 その隣では、かつて彼女と契りを交わしたレオヴィルが呟く。

「……あれは、真実の声だな。
 “制度”ではなく、“意志”に動かされた国の、始まりの声だ」

 その夜、王政は正式に発表した。

 『次期王太子妃の選定にあたり、番制度によらず、意志と契約に基づいた選択も認める』と。

 長く続いた血の制度に、ついに風穴が開いたのだった。

 そして、レイグランはセイルの前で、ひとつの誓いを立てる。

「この国を、君とともに歩む。
 制度を変えただけでは終わらせない。
 ……“君がいたから変われた国”を、永遠に記録として残す」

 セイルは、その手を取り、笑みを浮かべて答えた。

「うん。変えてくれてありがとう。……選んでくれて、ありがとう」
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