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都市の灯りは遠く、ここだけが世界から切り離されたようだった。
ふたりが潜んでいるのは、崩れかけた廃ビルの5階。
壁にはひびが入り、風がすき間を抜けて鳴る。
「……ここ、誰も来ねぇな」
叶多は割れた窓のそばに腰を下ろし、大きく息を吐いた。
ずっと走り続けていた身体がようやく限界を訴え始めている。
ルカも壁に背を預け、荒い息を吐いていた。
「大丈夫か? ルカ」
「うん……でも、君が無事でよかった」
ルカの手の甲には血がにじみ、制服の袖には裂け目が走っていた。
それでも彼は、まるで痛みなど感じていないような顔をしていた。
叶多は眉を寄せる。
「……バカ。痛いって言えよ」
「俺、君を守れたならそれでいい」
その言葉に、叶多の胸の奥がズキリと鳴った。
ルカの“優しさ”はプログラムなんかじゃない。
あの暴走の瞬間——誰も止められない力を、彼は迷わず自分のために使った。
「……なあ、ルカ」
「なに?」
「お前、本当に“影”なのか?」
問いに、ルカは少しだけ目を伏せた。
「うん。そう造られた。……でも、君を守ろうとしたのは、プログラムじゃない」
夜風がふたりの髪を揺らす。
静かな時間が流れる。
ルカがゆっくりと手を伸ばしてきた。
「触れても、いい?」
叶多はほんの一瞬だけ迷い、けれど頷いた。
ルカの指先が叶多の頬に触れる。
指先はかすかに冷たく、それでいて心臓に届くほど熱い。
「……君に触れると、俺、生きてるって思えるんだ」
その言葉が、ふたりの間を包むように溶けた。
夜明け前の静かな時間。
銃声も、サイレンも、ここには届かない。
叶多は彼の手を握り返す。
「……俺も、お前がいないと……たぶん、ダメだ」
その瞬間、ルカの瞳がふっとやわらいだ。
影ではなく、“ひとりの少年”の顔になっていた。
ふたりは割れた窓の外、夜の街を見下ろした。
遠くに光る警戒ドローン。
この静寂は長く続かないことを、わかっていた。
それでも——この一瞬だけは、誰にも奪わせない。
「叶多」
「……あ?」
「俺ね、君とこうして夜を過ごすこと、夢みたいに思ってた」
「変なやつ」
「変でもいいよ。君と一緒にいるためなら」
夜の廃ビルに、小さく笑い声が響いた。
この夜が、たとえ嵐の前の静けさでも。
確かにここに“ふたり”がいた。
ふたりが潜んでいるのは、崩れかけた廃ビルの5階。
壁にはひびが入り、風がすき間を抜けて鳴る。
「……ここ、誰も来ねぇな」
叶多は割れた窓のそばに腰を下ろし、大きく息を吐いた。
ずっと走り続けていた身体がようやく限界を訴え始めている。
ルカも壁に背を預け、荒い息を吐いていた。
「大丈夫か? ルカ」
「うん……でも、君が無事でよかった」
ルカの手の甲には血がにじみ、制服の袖には裂け目が走っていた。
それでも彼は、まるで痛みなど感じていないような顔をしていた。
叶多は眉を寄せる。
「……バカ。痛いって言えよ」
「俺、君を守れたならそれでいい」
その言葉に、叶多の胸の奥がズキリと鳴った。
ルカの“優しさ”はプログラムなんかじゃない。
あの暴走の瞬間——誰も止められない力を、彼は迷わず自分のために使った。
「……なあ、ルカ」
「なに?」
「お前、本当に“影”なのか?」
問いに、ルカは少しだけ目を伏せた。
「うん。そう造られた。……でも、君を守ろうとしたのは、プログラムじゃない」
夜風がふたりの髪を揺らす。
静かな時間が流れる。
ルカがゆっくりと手を伸ばしてきた。
「触れても、いい?」
叶多はほんの一瞬だけ迷い、けれど頷いた。
ルカの指先が叶多の頬に触れる。
指先はかすかに冷たく、それでいて心臓に届くほど熱い。
「……君に触れると、俺、生きてるって思えるんだ」
その言葉が、ふたりの間を包むように溶けた。
夜明け前の静かな時間。
銃声も、サイレンも、ここには届かない。
叶多は彼の手を握り返す。
「……俺も、お前がいないと……たぶん、ダメだ」
その瞬間、ルカの瞳がふっとやわらいだ。
影ではなく、“ひとりの少年”の顔になっていた。
ふたりは割れた窓の外、夜の街を見下ろした。
遠くに光る警戒ドローン。
この静寂は長く続かないことを、わかっていた。
それでも——この一瞬だけは、誰にも奪わせない。
「叶多」
「……あ?」
「俺ね、君とこうして夜を過ごすこと、夢みたいに思ってた」
「変なやつ」
「変でもいいよ。君と一緒にいるためなら」
夜の廃ビルに、小さく笑い声が響いた。
この夜が、たとえ嵐の前の静けさでも。
確かにここに“ふたり”がいた。
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