僕は、君の“影”として生まれた

春夜夢

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倉庫の小さな窓から差し込む月明かりが、ふたりの影を細く照らしていた。
静かすぎる夜だった。
だがその静けさは、いずれ破られるとふたりとも分かっていた。

「……なあ、ルカ」
叶多が低くつぶやく。
「このまま逃げ続けても、終わりはねぇんだよな」

ルカはすぐに頷かなかった。
代わりに、外の闇をじっと見つめている。
瞳の奥は、燃えるような光を宿していた。

「追ってくる限り、俺たちは“獲物”だもんね」
「そうだ。だったら……“獲物”のままで終わる気はねぇ」

叶多は拳を握った。
恐怖もある。震えもある。
それでも、いま胸の奥にあるのは逃げたい気持ちじゃなかった。

「俺たちを壊そうとするこの世界を……今度は、俺たちが壊す」

その言葉に、ルカはゆっくりと彼の方を向いた。
目が合った瞬間、彼の瞳の奥に“影”ではなく“意思”がはっきりと浮かんでいた。

「叶多……僕、君がそう言ってくれるの、ずっと待ってた」

「お前……」

「逃げることしかできなかった俺に、“戦う理由”をくれたのは、君だよ」

ルカは立ち上がる。
包帯代わりの布を握りしめ、その細い体に、覚悟が宿っていた。

「でも、どうやって戦う?」
「敵の中に……きっと、俺たちと同じ“影”がいる」
ルカの声は静かだった。
「俺たちだけじゃない。あいつらは、“誰かのための影”を何百体も造ってる。感情が芽生える前に、消してるだけ」

「……つまり」
「俺たちには、“仲間”になり得る存在がいる」

叶多の心に、雷が落ちたような感覚が走った。
逃げるだけじゃない。
隠れるだけじゃない。
自分たちの世界を、自分たちで奪い返す。

「……いいじゃねぇか」
叶多がニヤリと笑う。
「今度は、俺たちが“影狩り”をする番だな」

ルカも、小さく笑った。
その笑顔はもう、怯える少年のものじゃなかった。

ふたりは地図を広げ、廃棄された鉄道ルートの一点を指さす。
〈シーカーズ〉の実験中継施設。
影たちが運ばれ、制御される拠点だ。

「ここを、壊す」
「うん……あの檻を、全部」

夜明けが近づいていた。
風が倉庫を揺らし、薄暗い光が差し込む。
ふたりの影は、ひとつに重なっていた。

逃亡者ではない。
戦う者の影だった。
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