婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?

春夜夢

文字の大きさ
17 / 25

第十七話:聖女の椅子は一つで十分よ

しおりを挟む
政務補佐官として迎えられてから数日後。
王都の中央広場にて、“聖女による民への公開布施”が行われることになった。

本来、国政の表舞台に出るのはまだ先――
だが、王妃派は“早すぎる出番”を用意してきた。

「これは……完全に“公開処刑”の舞台ね」

私の隣には、あの女――リディア・ベネット。

「今日こそは、ちゃんとよろしくお願いいたしますわね、エリス様?」

「ええ。聖女同士、仲良くやりましょう」

微笑み合いながらも、内心は火花が散っていた。

ステージ上では、民衆に衣や食料を配りながら
“優雅に”微笑み、子どもたちの頭を撫でるリディア。

(完璧に仕込まれた所作。偽善に慣れてる証拠)

だが――彼女が布を差し出した相手が、
“王妃派が雇った”仕込みの暴徒だったとは。

「うそつき聖女が! お前なんかに助けられるか!」

男が突然リディアの衣を引き裂き、突き飛ばす。

キャッという悲鳴、地面に倒れこむ令嬢。
民衆はざわめき、すぐさま護衛が駆け寄る。

その瞬間、リディアは小さくつぶやいた。

「……お願い、“助けて”。あなたの力を、見せてみなさいよ」

(……なるほど。“私が動けば正義、動かなければ冷血”)

つまりこれは――二重の罠。

でも。

「いいわよ、助けてあげる。ただし」

私は静かに歩み出て、リディアに手を差し伸べた。

「二度と“私の椅子”に座ろうなんて思わないことね。
“聖女”は一人で十分。
もう一人は、ただの“使い捨て”の駒なんだから」

その声は、マジックのように広場に響いた。

騒動を鎮め、民の前で毅然と立ち、
エリス・アルメリアという名が、“真の聖女”として再び確立された瞬間だった。

リディアは助けられながらも、唇を噛みしめていた。

(……こんなはずじゃなかった)

そしてその夜。

神託庁へ戻る途中、エリスは裏路地で待ち伏せされていた。

「……っ、また刺客!?」

剣を抜く時間もない――その瞬間。

「エリス様ァ!!」

風を裂いて現れたのは、
ずぶ濡れのコートと、怒りの眼差しを持つ男――ユリウス。

一瞬で数人を薙ぎ払い、私の前に立った。

「……もう、限界なんです」

「え……?」

「貴女がどれほど強くても、
どれほど孤独でも、“一人で立ち続ける姿”ばかり見ていたら、
俺は……自分の無力さが、耐えられなくなる」

そして、彼は突然、私を抱きしめた。

「……次に何かあったら、躊躇なく抱き締めようって決めてたんです。
言葉じゃ間に合わないなら、行動で伝えようって」

心臓が跳ねる音が、彼の胸からも、私の胸からも聞こえていた。

「……今夜は、俺だけを見ていてください。
聖女じゃなくて――“エリス”として」

私は、逃げなかった。

その腕の温度を、
ようやく、誰かに委ねてもいいと思えたから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

【完結】婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...