この世界で、君だけが平民だなんて嘘だろ?

春夜夢

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第9話 「――それでも、俺は“君の隣”を選ぶ」

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春が過ぎ、魔導学園は新学期を迎えていた。

“ユリウス会長と契約を交わした平民”――
その噂は瞬く間に学園中へと広がり、いまやリオは完全に注目の的だった。

「ノーネームくん、会長と本当に契約したの?」
「てか、もう事実上“夫婦”ってことじゃん?」
「すご……平民が会長に愛されてるとか、まさに乙女ゲームの主人公……!」

リオ自身は「乙女ゲームってなに!?」と混乱しながらも、
そんなざわめきを黙って受け流していた。

(慣れたつもりだけど……やっぱりちょっと、落ち着かないな)

けれど。

その隣に、当たり前のように“彼”がいる。

「ユリウス……」

「ん?」

「……今日も、迎えに来てくれたんだ」

「契約者をひとりで歩かせるほど、俺は無用心ではない」

「過保護が過ぎるって何度言えば……!」

「リオが他のやつに笑いかけてるのを見るだけで、一日分の理性を使うんだ。
……過保護でなければ、何かを壊す自信がある」

「怖い発言をサラッとするなよ……」

そうやって会話を重ねるたびに、
リオの胸は、じんわりと熱を帯びていく。

(……この人の隣が、“俺の居場所”になってる)

しかし、平穏はそう長くは続かなかった。

* * *

ある日、学園の図書棟で――
とある古文書が発見された。

内容は、“失われた王族分家の血脈”に関するもの。

そこに記されていたのは、古代魔導因子を受け継ぐとされる少年の伝説と、
彼が“封印”された経緯、そして“現代にその因子が再び目覚めた兆候”があるという記述だった。

「……リオ、お前の魔力構成がこれに酷似している。
偶然にしては、出来すぎてる」

「……つまり、俺って……“王族の血を引いてるかもしれない”ってこと?」

「可能性としては、な」

「…………」

リオは、静かに俯いた。

そして、自嘲気味に笑った。

「皮肉だな……
ようやく“普通の自分”として生きられると思ったのに、
また“特別なもの”にされるかもしれないなんて」

「……リオ」

「俺、君の隣にいたいだけなんだよ。
誰かの“血”とか“力”とか、そんなのもういらないのに……」

その肩が、かすかに震えていた。

ユリウスは黙ってリオを抱き寄せる。

「――なら、選べ」

「え……?」

「王族になりたければ、俺は君を“正室の位置”に引き上げる。
だが、何者でもなくていいのなら、俺の隣で、“ただのリオ”として生きればいい」

「……いいの?」

「当然だ。君が何者であろうと、
俺にとっては――“俺のリオ”であることに変わりはない」

その瞬間、リオの瞳からぽろりと涙がこぼれた。

「ユリウス……ほんと、君って、ずるいよ……」

「君が惚れた男だからな」

「……うん、ずっと惚れてる。もっと惚れてく。
何度でも、“この人の隣にいたい”って思い直す」

静かに、ふたりの額が触れ合った。

「だから、俺は王族になんてならない。
“誰かの末裔”じゃなくて、“君の契約者”として生きていくよ」

「それが、君の選択なんだな?」

「……うん。“君の隣”が、俺の世界の全部だよ」

* * *

数日後。

古文書の件は、ユリウスの根回しによって“機密扱い”として封印され、
リオの血筋が表沙汰になることはなかった。

代わりに、王宮からはこう正式に通達された。

「リオ・ノーネームは、王国最上級魔導士として、
ならびにユリウス・ファルクレインの魔導契約者として、
いかなる階級・干渉からも独立した存在とする」

――それはつまり。

どこにも属さず、ただひとりの人間として、
“ユリウスの隣”に立つことを、国家が認めたという証だった。

リオは、静かに笑った。

(もう迷わない。俺は“選ばれた”んじゃなくて、“自分で選んだ”)

その夜、ふたりの部屋には優しい灯りがともり、
ベッドの上で重なり合う体温が、未来を誓うように溶け合っていった。
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