『この想いは、君に届かないと知っていた。』

春夜夢

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最終話『君の名前を、世界に叫ぶ』

卒業式当日。
校庭は、春の陽に雪解けのきらめきが混ざっていた。

俺たちの制服は今日限り。
名札も、教室も、時間割も、もう過去になる。

「氷川、赤城……卒業おめでとうございます」

担任の声に合わせて、
拍手が響くなか、一真がふと俺の方を見た。

その目は、いつもの不器用な優しさをたたえていて、
小さくうなずいたあと――
静かに立ち上がった。

「先生、ひと言、いいっすか」

ざわめく教室。
一真は前を向いたまま、口を開いた。

「俺は、不器用で、バカで、ずっと人の顔色見て生きてきたけど……
 一人だけ、絶対に離したくないやつがいます」

皆の視線が一斉に注がれる。

「……氷川遥。俺は、こいつを好きになって、
 今日まで一緒に生きてきた」

「これからも、隣にいてほしい。
 だから、俺は今日、こいつの手をちゃんと取って、
 一緒に歩いてくって決めました」

誰かが、拍手をした。
空気が、ざわりと揺れて、
やがてクラス中から温かな音が響く。

俺は、涙を堪えきれなかった。

(こんなに、幸せな「好き」があるなんて)


---

放課後。
夕暮れの校庭を、ふたりで歩く。

「……ほんとバカだよな、俺。
 でも、ちゃんと伝えたかった」

「ありがとう。……あんなに大きな声で、
 俺の名前を呼んでくれたの、初めてだった」

手をつなぐと、指が優しく絡まる。

「……これからも、よろしくな、恋人」

「うん。一生、よろしく」


---

夜。
ふたりで予約していたアパートの契約を済ませて、
新しい鍵を手に入れた。

「この鍵、さ。なんか重く感じる」

「それ、“責任”ってやつだよ」

「……じゃあ、俺、おまえの責任取るわ。今夜から」

「バカ」

笑いながらも、
新しい部屋のベッドの上で、そっと抱き合う。

シャツを脱がせ、キスを落とし、
胸を舌でなぞる。

「なあ、氷川。俺たち……これから、何度こうして生きてくんだろうな」

「飽きるまで、何百回でも、して」

「じゃ、今日だけで三回な」

「……それは明日死ぬやつの勢い」

けれど、優しい夜がそこにあった。

愛して、触れて、名前を呼び合う。
何度も身体を重ねながら、
ふたりは“恋人”から“家族”へと変わっていく。


---

翌朝。
新しい部屋のカーテンを開けると、春の風が吹き抜けた。

「……おはよう、一真」

「おう、嫁」

「違うっつってんだろ……もう」

けれど、何度呼ばれても、嫌じゃないと思った。


---

【完】

『この想いは、君に届かないと知っていた。』
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