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第1話『鬼神の花嫁』
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「貴族社会を乱した悪女には、相応の罰が必要だ」
──それが、王の裁定だった。
私は王太子との婚約を破棄された。
“平民出の聖女”とやらをいびった悪役令嬢として、社交界から放逐されたのだ。
だが、処刑ではなく――「鬼神・朱煉(しゅれん)」への嫁入りという、異常な決定が下される。
「これで平穏が戻るだろう」
人々はそう言った。
まるで私が捧げものにされる生贄であるかのように。
「……迎えにきた」
その男は、紅い瞳を細め、面倒そうに言った。
髪は漆黒で長く、肌は死人のように白い。
人ならざる気配を放つその存在は、人々から「鬼神」と恐れられる存在――朱煉。
「……嫁入り道具など不要だ。おまえだけいればいい」
「……失礼ですね。私は一応、元公爵令嬢です」
「元、な」
氷のような返しに、言葉が詰まった。
だが不思議と、その冷たさには底知れぬ“熱”を感じてしまう。
彼の住まう館は、人の気配が消えた山奥の旧社殿だった。
妖の気配が漂い、空気は澱んでいる。
「ここが……住まい?」
「怖いか?」
「……いいえ。誰もいないほうが気楽です」
「変わった女だ」
そう呟いた朱煉の瞳が、僅かに細められた気がした。
夜になり、私は眠る部屋へと案内された。
その途中、彼が突然立ち止まる。
「……一つだけ、確認しておく」
「……?」
「私と添い遂げる覚悟があるか?」
「政略結婚でしょう。あなたも嫌々なのでは?」
「違う」
「……は?」
「私は――おまえを選んだ」
低く、耳に落ちる声。
「最初から、“おまえ以外”など眼中にない」
その言葉に、胸が酷く痛んだ。
この人は、冷たい鬼じゃない。
ただ、愛し方を知らないだけ――
けれど私はまだ知らなかった。
朱煉が、千年前に“私の前世を喰らった”鬼であることを。
そして、彼がもう二度と、私を手放すつもりがないことを――
──それが、王の裁定だった。
私は王太子との婚約を破棄された。
“平民出の聖女”とやらをいびった悪役令嬢として、社交界から放逐されたのだ。
だが、処刑ではなく――「鬼神・朱煉(しゅれん)」への嫁入りという、異常な決定が下される。
「これで平穏が戻るだろう」
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まるで私が捧げものにされる生贄であるかのように。
「……迎えにきた」
その男は、紅い瞳を細め、面倒そうに言った。
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人ならざる気配を放つその存在は、人々から「鬼神」と恐れられる存在――朱煉。
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「元、な」
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彼の住まう館は、人の気配が消えた山奥の旧社殿だった。
妖の気配が漂い、空気は澱んでいる。
「ここが……住まい?」
「怖いか?」
「……いいえ。誰もいないほうが気楽です」
「変わった女だ」
そう呟いた朱煉の瞳が、僅かに細められた気がした。
夜になり、私は眠る部屋へと案内された。
その途中、彼が突然立ち止まる。
「……一つだけ、確認しておく」
「……?」
「私と添い遂げる覚悟があるか?」
「政略結婚でしょう。あなたも嫌々なのでは?」
「違う」
「……は?」
「私は――おまえを選んだ」
低く、耳に落ちる声。
「最初から、“おまえ以外”など眼中にない」
その言葉に、胸が酷く痛んだ。
この人は、冷たい鬼じゃない。
ただ、愛し方を知らないだけ――
けれど私はまだ知らなかった。
朱煉が、千年前に“私の前世を喰らった”鬼であることを。
そして、彼がもう二度と、私を手放すつもりがないことを――
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