5 / 13
第5話『前世の契りと、今夜の誓い』※R18回
しおりを挟む
「……なぜ、そんな顔をする?」
朱煉の声が、私の耳元に落ちる。
まるで囁きというより、呪文のように、熱く、深く染み込んでいく。
「怒ってると思った。都であんなことがあって……」
「怒っているさ。おまえがあんな連中の言葉に、また縛られていたからな」
「……!」
朱煉の手が、私の顎を掴んでぐっと上を向かせる。
その瞳は血のように濃く、私をまっすぐに射抜いていた。
「俺を見ろ。おまえの“今”を握っているのは、奴らではない」
「……あなただってわかってるでしょ? 私の中に……まだ思い出してない何かがあるって」
「だからこそ、おまえを“刻む”」
唇が、首筋に触れた。
そこは、かつて朱煉が封印を施したという、“花嫁の刻印”の場所。
「もう二度と、忘れられないように。身体ごと、魂ごと、俺のものにする」
言葉よりも先に、感触が追いついた。
鋭く、優しく、私の肌をなぞる彼の舌と指。
着物を脱がされたとき、私は羞恥よりも、妙な安堵を覚えた。
「やっと、来たんだ」と思った。
「花が咲くには、水と、陽がいる。……俺は、どちらも持っていないかもしれんが」
「十分、熱いです……」
私の言葉に、朱煉は少しだけ笑った。
人外の彼が笑うとき、ほんの一瞬だけ“人”に見える。
私はその笑みに、何度も心を持っていかれそうになる。
「もっと深く、刻ませろ」
唇が、肩から胸元へと降りていく。
朱煉の熱が肌に触れるたび、理性が溶けていく。
「声を出せ。俺に聞かせろ」
「だ、誰かに……っ、聞こえ、ちゃ……!」
「構わん。おまえが“俺の女”だと、知らしめてやる」
その瞬間、腰を打ちつけるような衝撃が走った。
涙がこぼれるほどに、強く、深く。
「……前にも、こうしてた。夢で、見たことがある」
「そうだ。前世の契りでも、こうしておまえを抱いた。何度も」
「私が……逃げようとしたのに?」
「だからこそ、縛りつけた。もう二度と、俺から離れられないように」
身体の奥の奥まで侵食されるような感覚。
それはまるで、魂の根っこにまで達していくようだった。
朱煉の瞳が、濡れた髪の間から私を見下ろしている。
「このまま、何もかも忘れて……俺だけを信じていればいい」
「……それは、独りよがりよ」
「それでも、俺はおまえを手放さない」
「……勝手な人」
「なら、嫌いになれ。憎め。何でもいい。だが、俺を忘れるな」
その言葉が、妙に切実で、私は返す言葉を失った。
「……私も、もう逃げない」
「誓うか?」
「ええ。私の今も、過去も、未来も――あなたにあげる」
「……上出来だ」
再び、口づけが落ちた。
もう、抗うことも、逃げる理由もなかった。
その夜、私は完全に“朱煉の花嫁”になった。
肉体も、記憶も、そして感情までも。
──だが。
その翌朝、目覚めた私の元に届いたのは、一通の文。
そこには、こう記されていた。
「花嫁は“穢れてはならぬ”。その儀に背けば、鬼神の座を剥奪される」
――鬼議会より通達。
朱煉は、私を抱いたことで──何か、重大な“掟”を破ったのかもしれなかった。
次回:
第6話『穢れの烙印と、朱煉の過去』
朱煉の声が、私の耳元に落ちる。
まるで囁きというより、呪文のように、熱く、深く染み込んでいく。
「怒ってると思った。都であんなことがあって……」
「怒っているさ。おまえがあんな連中の言葉に、また縛られていたからな」
「……!」
朱煉の手が、私の顎を掴んでぐっと上を向かせる。
その瞳は血のように濃く、私をまっすぐに射抜いていた。
「俺を見ろ。おまえの“今”を握っているのは、奴らではない」
「……あなただってわかってるでしょ? 私の中に……まだ思い出してない何かがあるって」
「だからこそ、おまえを“刻む”」
唇が、首筋に触れた。
そこは、かつて朱煉が封印を施したという、“花嫁の刻印”の場所。
「もう二度と、忘れられないように。身体ごと、魂ごと、俺のものにする」
言葉よりも先に、感触が追いついた。
鋭く、優しく、私の肌をなぞる彼の舌と指。
着物を脱がされたとき、私は羞恥よりも、妙な安堵を覚えた。
「やっと、来たんだ」と思った。
「花が咲くには、水と、陽がいる。……俺は、どちらも持っていないかもしれんが」
「十分、熱いです……」
私の言葉に、朱煉は少しだけ笑った。
人外の彼が笑うとき、ほんの一瞬だけ“人”に見える。
私はその笑みに、何度も心を持っていかれそうになる。
「もっと深く、刻ませろ」
唇が、肩から胸元へと降りていく。
朱煉の熱が肌に触れるたび、理性が溶けていく。
「声を出せ。俺に聞かせろ」
「だ、誰かに……っ、聞こえ、ちゃ……!」
「構わん。おまえが“俺の女”だと、知らしめてやる」
その瞬間、腰を打ちつけるような衝撃が走った。
涙がこぼれるほどに、強く、深く。
「……前にも、こうしてた。夢で、見たことがある」
「そうだ。前世の契りでも、こうしておまえを抱いた。何度も」
「私が……逃げようとしたのに?」
「だからこそ、縛りつけた。もう二度と、俺から離れられないように」
身体の奥の奥まで侵食されるような感覚。
それはまるで、魂の根っこにまで達していくようだった。
朱煉の瞳が、濡れた髪の間から私を見下ろしている。
「このまま、何もかも忘れて……俺だけを信じていればいい」
「……それは、独りよがりよ」
「それでも、俺はおまえを手放さない」
「……勝手な人」
「なら、嫌いになれ。憎め。何でもいい。だが、俺を忘れるな」
その言葉が、妙に切実で、私は返す言葉を失った。
「……私も、もう逃げない」
「誓うか?」
「ええ。私の今も、過去も、未来も――あなたにあげる」
「……上出来だ」
再び、口づけが落ちた。
もう、抗うことも、逃げる理由もなかった。
その夜、私は完全に“朱煉の花嫁”になった。
肉体も、記憶も、そして感情までも。
──だが。
その翌朝、目覚めた私の元に届いたのは、一通の文。
そこには、こう記されていた。
「花嫁は“穢れてはならぬ”。その儀に背けば、鬼神の座を剥奪される」
――鬼議会より通達。
朱煉は、私を抱いたことで──何か、重大な“掟”を破ったのかもしれなかった。
次回:
第6話『穢れの烙印と、朱煉の過去』
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました
蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人――
“赤い鷲”の女将軍イサナと、
“青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。
最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。
死を覚悟したその瞬間――
イサナは思わず、矢面に立っていた。
「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」
理由などなかった。
ただ、目の前の男を失いたくなかった。
その報告を受けた皇帝エンジュは、
静かに、しかし飄々とした口調で告げる。
「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」
「ただし、子を成すこと。それが条件だ」
敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。
拒否権はない。
こうしてソウガは、捕虜でありながら
《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。
武でも策でも互角に戦ってきた男が、
今は同じ屋根の下にいる。
捕虜として――そして夫として。
反発から始まった奇妙な同居生活。
だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、
じわじわと二人の距離を変えていく
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる