『悪役令嬢、鬼神の花嫁となる 〜政略結婚で嫁いだ先の旦那様が人外すぎて溺愛が過ぎる件〜』

春夜夢

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第13話『咲き誇るか、枯れるか──最終審判の日』

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それは、“天上の鐘”の音とともに始まった。

神界からの再審判通知。
それは、**「花を咲かせた者と、その契約者を天上の法廷へ召喚する」**という、神の名による強制命令だった。

「……拒否はできないの?」

私の問いに、朱煉は静かに首を振った。

「神界の審判は、拒否した時点で“存在の抹消”とみなされる。
行くしかない。だが、おまえは俺の後ろにいろ。決して一人にさせない」

「ううん、並んで歩くわ。あなたはもう、“盾”じゃない。私と並んで歩く、“伴侶”よ」

その言葉に、朱煉の目がわずかに潤んだ気がした。

天上の門は、光でできた巨塔の頂に存在した。
階段を一歩上がるたびに、身体が削られていくような感覚。
それは、魂そのものを“秤にかけられている”証だった。

「やはり来たか」

審判の座にいたのは、あの男――ル=フィーネ。
そしてその背後には、神界の最高権威たる**《三柱の審神(さにわ)》**が控えていた。

・“律(りつ)”を司る《白冠(しらかん)》
・“情(じょう)”を裁く《緋衣(ひごろも)》
・“命(いのち)”を量る《玄面(げんめん)》

その三柱が、私と朱煉を見下ろす。

「リリアーナ・アステラ。
貴女は人間でありながら“始まりの花”を咲かせ、
鬼神に契りを与え、
今や“神域”にすら干渉する存在と化している」

《白冠》が冷ややかに言い放つ。

「このまま存在を許せば、“理”そのものが崩壊する」

「それでも、私はここにいる」

私は一歩、前に出た。

「私は誰にも命じられて咲いたわけじゃない。
愛した人のために、力が目覚めただけ」

「ならば問う。“愛”とは、理より重いのか?」

今度は《緋衣》が囁いた。

「そうよ。“理”なんかじゃ測れない。
私が見て、触れて、確かに“この人”を愛しているって、そう思っただけで十分」

沈黙が落ちる。

やがて、最後の柱――《玄面》が口を開く。

「ならば、“花”に問う。
もし、契りを結んだ相手を失っても、貴女は咲き続けることができるのか?」

その瞬間、胸が締めつけられた。

──朱煉が、いなくなる未来。

想像しただけで、心が裂けそうになる。

けれど私は、真っ直ぐに答えた。

「咲くわ。たとえ彼がいなくなっても、私は誰かの心に“花”を灯せると信じてる」

「……っ」

横で、朱煉が拳を握るのが見えた。

「でも、それは……望まない。
私は、彼と一緒に咲きたい。
枯れるまで、ずっと」

長い沈黙の末、《三柱の審神》が一斉に立ち上がった。

「――裁定」

空に雷鳴が走る。
天上の光が降り注ぎ、審判が下される。

「リリアーナ・アステラ、及び朱煉に対し、存在の継続を“暫定的に許可”する」
「ただし――“世界を救う花”として、選択を委ねる」
「この先、彼女の力が再び均衡を崩すならば、裁定は覆される」
「未来は、“花自身”の在り方に委ねられる」

──猶予。

けれどそれは、罰ではなく“希望”の形をしていた。

裁定が下った瞬間、私たちは光に包まれ、元の地に戻されていた。

朱煉が、私の手を取って言った。

「これが終わりじゃない。……けど、今だけは、勝ち取った時間を祝おう」

私は頷いて、彼の胸に顔をうずめた。

「あなたと咲けるなら、私は何度だって立ち向かうわ」

こうして、鬼神と花嫁の物語は一つの終わりを迎えた。

だがこれは、“咲き誇る花”の始まりでもある。

誰かを照らし、時に抱きしめ、
時に戦い、
やがて“世界”さえ変えていく。

私は今日も、あなたの隣で咲いている――。

【完】
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