『悪役令嬢、鬼神の花嫁となる 〜政略結婚で嫁いだ先の旦那様が人外すぎて溺愛が過ぎる件〜』

春夜夢

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第12話『神界からの使者と、最後の試練』

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「来るぞ」

朱煉の声に、私は無意識に身を構えた。

黒の花嫁《リア》との戦いを終えたばかりの身体はまだ重い。
それでも、空気の“異様な気配”は、はっきりと感じられた。

──音もなく、空が割れる。

そこから現れたのは、まばゆい光に包まれた“白き衣の男”。

「ようやく目覚めたか。“花”よ」

男の瞳は、金色。
けれどその輝きは、あまりに冷たい。

「神界より参上した。“理の審判者”ル=フィーネと申す」

「神……?」

私が問いかけると、男はうっすらと笑った。

「正確には、“神域に属する存在”。
人でも鬼でもない、我らは“均衡”を守るために存在している」

「……その均衡って、まさか」

「そう。貴女の“花”は、もう許容限界を超えている」

ル=フィーネが右手をかざすと、空に**三つの環(リング)**が浮かび上がった。

「本来、“花”は人に咲くべきもの。
だが貴女は、それを鬼に向けて咲かせた。
その時点で、既に“人でも鬼でもない”存在となった」

「……っ」

「そして今、この世界において“あなた”のような存在は、存在が許されない」

「まさか……消しに来たの?」

私の声に、彼は頷いた。

「世界の均衡のため、貴女の“魂”を解体・分離し、再構築する。
“始まりの花”は、元あるべき場所へ還さねばならない」

「ふざけるな」

朱煉が前に出る。
その瞳には、もはや理など通じない炎が宿っていた。

「“始まりの花”は、俺の花嫁だ。誰にも指一本触れさせない」

「その所有宣言こそが、均衡を壊した証拠です」

ル=フィーネが手を振ると、空間に剣が出現した。
それは“秩序の剣”。
一振りで魂の繋がりを断ち切る、神々の法具。

「貴方には選択肢を与えましょう。
花を手放し、元の鬼神に戻るか――
あるいは、花と共に存在を消すか」

「どちらも選ばねえよ」

朱煉の言葉と同時に、氷と闇が炸裂した。

神と鬼――理と本能。

ふたつの力が、空を引き裂く。

私は声を上げる暇もなく、次元の裂け目に引き込まれそうになる。

「くっ……!」

「おまえは引いていろ!」

「……嫌よ!」

私は、手を伸ばす。

朱煉が剣を受け止めるその隙に、私は自らの“花”を発動させた。

「もう決めたの! 私は誰かの所有物なんかじゃない。
でも――私自身が選んだ相手と、咲きたいの!」

花が光を放ち、神の力と交錯する。

空間が震え、ル=フィーネの身体が弾かれた。

「花が……神の力を押し返した……?」

ル=フィーネは眉をひそめた。

「……そうか。
君はもう、“花”ではなく“樹”だ」

「樹?」

「咲くだけではない。根を張り、他者を繋げ、命を育む存在。
それは“神の予測を越えた存在”……つまり、“神域への侵食”」

ル=フィーネは剣を下げた。

「……これは、我らでは判断できない。
“天上”に持ち帰り、再審を求める」

そう言い残し、彼は光に包まれて消えた。

静寂が戻る。

私は、その場に膝をついた。

「……朱煉、大丈夫?」

「かすり傷だ。おまえこそ……すごいな。
もう、誰よりも強い」

朱煉の手が私の頬に触れた。
その温もりが、今は何よりも確かな“現実”だった。

けれど、私は知っている。

神が引いたのは、単なる猶予。
次に来るのは、“天上の裁定”――神すら恐れる、終末の判決。

それは私たちの愛が、この世界に許されるかどうかを決める、最後の試練。

次回:
第13話『咲き誇るか、枯れるか──最終審判の日』
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