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第7話:長屋に来た子守狐
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「うちの長屋に、知らんガキが紛れ込んでるんだが……」
夕方、八百屋の庄吉が焦った顔で綾太郎を呼びに来た。
「ふむ、捨て子ってやつか?」
「いや、なんか様子がおかしい。
ひとりで笑ってたり、空中になんか話しかけてたり……気味が悪ぃんだよ」
綾太郎はのっそりと立ち上がり、
尾を一振りしてその部屋へ向かう。
そこにいたのは、
五歳くらいの、ふわふわとした銀髪の男の子。
「……おい、坊主。ここでなにしてんだ?」
すると、男の子は綾太郎の姿を見るなり、
ぱあっと笑顔を見せた。
「にゃー!」
「……おいおい、猫扱いすんなよ」
桐子も後から部屋へ入り、呆然としたように声を漏らした。
「……この子、妖気をまとっています」
「やっぱり“化けモノ”か?」
「……違います。“狐”です。しかも、まだ子ども。……これは“子守狐”です」
【子守狐】とは?
人間の子に化けて町に紛れ込み、人の情やぬくもりを知りたがる妖狐。
ただし――「情が満たされないと発狂し、火を放つ」性質がある。
「つまり、こいつを“寂しくさせちゃいけない”ってことか」
「……はい。でも、私たちが四六時中面倒を見られるわけでも……」
そのとき、長屋の婆さまが声を上げた。
「ほう。狐の子? それなら、婆が一日くらい面倒みてやるよ」
「え?」
「昔、あたしにも“子”ってやつがいたもんでね。……懐かしいわい」
少年の姿の子守狐は、ぴたっとその婆さまの袖にくっついた。
「にゃー!」
「はいはい、はいはい。……まるで猫の子だわい」
綾太郎は、ぽつりと呟く。
「……俺も、ああやって拾われたのかもな」
数日後。
町で“原因不明の火の手”が相次いでいた。
「これ……もしかして」
桐子が不安そうに言うと、
綾太郎は首を横に振った。
「違う。あの狐の仕業じゃない」
「なぜ断言できるんですか?」
「――あいつ、今“本当に満たされてる顔”してるからさ」
綾太郎が指差した先。
婆さまの縁側で、子守狐がすやすやと寝息を立てていた。
小さな手に、折り紙の風車を握って。
「いずれ山に戻すことにはなるだろうが……
今だけは“江戸の子ども”でいさせてやるのも、悪くねぇか」
「……はい。わたしも、そう思います」
その夜。
子守狐は、夢の中で本来の姿――白くふわふわした小さな狐の姿になっていた。
そして、満月を見上げながら、静かに鳴いた。
「……キュー……」
それは、“ありがとう”にも似た音だった。
🌙次回:「妖刀と、猫又封印の真実」へつづく
夕方、八百屋の庄吉が焦った顔で綾太郎を呼びに来た。
「ふむ、捨て子ってやつか?」
「いや、なんか様子がおかしい。
ひとりで笑ってたり、空中になんか話しかけてたり……気味が悪ぃんだよ」
綾太郎はのっそりと立ち上がり、
尾を一振りしてその部屋へ向かう。
そこにいたのは、
五歳くらいの、ふわふわとした銀髪の男の子。
「……おい、坊主。ここでなにしてんだ?」
すると、男の子は綾太郎の姿を見るなり、
ぱあっと笑顔を見せた。
「にゃー!」
「……おいおい、猫扱いすんなよ」
桐子も後から部屋へ入り、呆然としたように声を漏らした。
「……この子、妖気をまとっています」
「やっぱり“化けモノ”か?」
「……違います。“狐”です。しかも、まだ子ども。……これは“子守狐”です」
【子守狐】とは?
人間の子に化けて町に紛れ込み、人の情やぬくもりを知りたがる妖狐。
ただし――「情が満たされないと発狂し、火を放つ」性質がある。
「つまり、こいつを“寂しくさせちゃいけない”ってことか」
「……はい。でも、私たちが四六時中面倒を見られるわけでも……」
そのとき、長屋の婆さまが声を上げた。
「ほう。狐の子? それなら、婆が一日くらい面倒みてやるよ」
「え?」
「昔、あたしにも“子”ってやつがいたもんでね。……懐かしいわい」
少年の姿の子守狐は、ぴたっとその婆さまの袖にくっついた。
「にゃー!」
「はいはい、はいはい。……まるで猫の子だわい」
綾太郎は、ぽつりと呟く。
「……俺も、ああやって拾われたのかもな」
数日後。
町で“原因不明の火の手”が相次いでいた。
「これ……もしかして」
桐子が不安そうに言うと、
綾太郎は首を横に振った。
「違う。あの狐の仕業じゃない」
「なぜ断言できるんですか?」
「――あいつ、今“本当に満たされてる顔”してるからさ」
綾太郎が指差した先。
婆さまの縁側で、子守狐がすやすやと寝息を立てていた。
小さな手に、折り紙の風車を握って。
「いずれ山に戻すことにはなるだろうが……
今だけは“江戸の子ども”でいさせてやるのも、悪くねぇか」
「……はい。わたしも、そう思います」
その夜。
子守狐は、夢の中で本来の姿――白くふわふわした小さな狐の姿になっていた。
そして、満月を見上げながら、静かに鳴いた。
「……キュー……」
それは、“ありがとう”にも似た音だった。
🌙次回:「妖刀と、猫又封印の真実」へつづく
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