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第9話:宵桜封解と、異形の影
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それは、月のない夜だった。
町のはずれ、かつて廃寺だった場所に――
“それ”はいた。
黒く、巨大で、形を定めない塊。
怨念そのものが具現化したような異形。
「……あれが、“封じられ損ねたもの”か」
綾太郎は、人の姿で屋根の上からそれを見下ろしていた。
手には、封印を解いたばかりの妖刀・宵桜。
刃は妖力に共鳴し、紫がかった光を鈍く放っている。
「気をつけてください。あれは、猫又の負の残滓……いわば、“お前自身”です」
桐子が背後から声をかける。
「……ああ。あれは、俺が“押し殺してきた力の末路”だ」
綾太郎は静かに跳び下りた。
「行くぞ、宵桜。……今度こそ、“俺の手”で片をつける」
地を這うような怨嗟のうねりが、綾太郎を襲う。
しかし、彼はそれを宵桜で受け流し、踏み込む。
斬った瞬間、異形が悲鳴のような叫びをあげた。
『なぜ なぜ おまえは 人の顔をしている』
「俺は……!」
綾太郎の目が燃える。
「“猫”として生きてきた。
“妖”として力を持った。
でも今は――“誰かを守りたい”って、思ってる!」
刃が、異形の核を穿つ。
怨念が爆ぜ、空間が揺らぐ。
『おまえが 望んだのは 孤独ではなかったのか』
「そうだ。……でも、“ひとり”と“ひとりぼっち”は違う」
異形が崩れ始める。
刃から溢れた妖力が、まるで花のように広がり――
辺り一面に、桜の光が舞った。
その光は、綾太郎の体をも包みこみ――
「っ……!」
力の奔流の中、綾太郎の足元に、ひとつの“影”が現れる。
それは、かつて彼を拾った“老婆の幻”。
『もう、さびしがるんじゃないよ』
「……ばあさん……」
涙が、一滴だけこぼれた。
そして異形は、完全に光の中へと消えていった。
しばらくして。
「……終わりましたね」
桐子が綾太郎の隣に立つ。
「……ようやく、“あの夜”に、終わりを告げられた気がする」
「お疲れさまでした、綾太郎さん」
綾太郎は小さく笑った。
「……ああ。ありがとうな。……お前がいなけりゃ、
俺はきっと、あれに呑まれてた」
桐子も笑う。
「じゃあ、次はちゃんと褒美をもらってくださいね。
団子三本くらい」
「贅沢だな、まったく」
ふたりの笑い声が、春の夜に溶けていった。
🌙次回:「怪異消失と、陰陽寮の疑念」へつづく
町のはずれ、かつて廃寺だった場所に――
“それ”はいた。
黒く、巨大で、形を定めない塊。
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でも今は――“誰かを守りたい”って、思ってる!」
刃が、異形の核を穿つ。
怨念が爆ぜ、空間が揺らぐ。
『おまえが 望んだのは 孤独ではなかったのか』
「そうだ。……でも、“ひとり”と“ひとりぼっち”は違う」
異形が崩れ始める。
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辺り一面に、桜の光が舞った。
その光は、綾太郎の体をも包みこみ――
「っ……!」
力の奔流の中、綾太郎の足元に、ひとつの“影”が現れる。
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「……ばあさん……」
涙が、一滴だけこぼれた。
そして異形は、完全に光の中へと消えていった。
しばらくして。
「……終わりましたね」
桐子が綾太郎の隣に立つ。
「……ようやく、“あの夜”に、終わりを告げられた気がする」
「お疲れさまでした、綾太郎さん」
綾太郎は小さく笑った。
「……ああ。ありがとうな。……お前がいなけりゃ、
俺はきっと、あれに呑まれてた」
桐子も笑う。
「じゃあ、次はちゃんと褒美をもらってくださいね。
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「贅沢だな、まったく」
ふたりの笑い声が、春の夜に溶けていった。
🌙次回:「怪異消失と、陰陽寮の疑念」へつづく
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