君に二度、恋をした。

第10話 “好き”って、こんなに苦しいんだな

会議室から出てきた遥と朝比奈が、ふたりで談笑しているのが見えた。

　「堂本さん、やっぱり頼りになりますね」
　「いや、君の資料も完璧だったよ」

　……なんなんだよ、それ。

　

　資料室の奥から見ていた俺は、胸の奥がチリチリと焼けるのを感じていた。
　理由なんて、わかってる。認めたくなかっただけだ。

　

　（俺は――嫉妬してる）

　

　朝比奈が微笑むたび、遥が応えるたび、
　自分の中の“なにか”が、確実に壊れていく。

　

　「……ああもう、クソッ……！」

　誰もいない廊下で吐き捨てるように呟く。

　

　（こんなに苦しいなら、あの夜なんてなかった方がよかった――）

　そう思いかけたとき。

　

　「春翔」

　背後から名前を呼ばれて、びくりと肩が跳ねた。

　振り返ると、遥がいた。
　さっきまで笑っていた顔とは違う、真剣な表情で。

　

　「……ついてくるな」

　「放っておけないだろ」

　「なんで。俺は別に、なにも……」

　

　言葉を遮るように、遥の手が俺の腕を掴んだ。
　強くはない。でも、簡単には振りほどけない温度だった。

　

　「どうして、そんなに怒ってる？」

　「怒ってない」

　「嘘つけ。……朝比奈のことか？」

　「関係ないだろ！」

　

　声が大きくなってしまった。
　自分でも驚くほど、感情が溢れていた。

　

　「……そっか」

　遥はふっと笑って、俺の頭に手を置いた。

　

　「悪い、俺、ちょっと嬉しかった。君がそんなふうに怒ってくれるなんて」

　「……は？」

　「だって、それって――俺のこと、ちゃんと好きってことだろ？」

　

　ずるい。そんなふうに笑うな。
　その一言で、俺の“理性”は粉々に砕けた。

　

　「……俺がどれだけ、お前のこと……っ」

　言いかけて、喉が詰まった。
　それでも、もう隠せなかった。

　

　「……好きだよ、バカ。ずっと、お前のことばっか……」

　

　次の瞬間、抱きしめられていた。

　「ありがとう。やっと言ってくれた」

　

　遥の声は、耳元で震えていた。
　俺の鼓動と同じリズムで――優しく、強く、響いていた。