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第7話 妃教育と、冷酷宰相が見せた独占欲の夜
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「エルネア嬢。そなたには本日より、王妃直属の“妃教育”を受けてもらいます」
王妃陛下の言葉に、私は姿勢を正して深く頭を下げた。
「……はい。謹んで、お受けいたします」
宰相との正式な婚約が公になった翌朝――
私は王宮へと招かれ、王妃陛下からの“教育”を直々に受けることとなった。
それはつまり、私が“王政の中核たる伴侶”にふさわしいと王家が認めたということであり、同時に、王都全体が私の言動一つに注目する立場になったことを意味していた。
(……やっと、ここまで来た)
地味令嬢と呼ばれた私が、今では王政の頂点に立つ男の隣に立ち、王妃陛下の教えを受けている。
それだけで胸がいっぱいになる。
けれど――現実は甘くなかった。
「立ち居振る舞いが甘い。上流貴族の視線に耐えるには“怯え”を消しなさい」
「視線を下げる癖は、“弱さ”とみなされます」
「言葉遣いは洗練されていますが、声に芯がない。もっと遠くまで通る声で」
(……わかってる。わかってるのに)
王妃陛下は決して意地悪ではなかった。
けれど、そのご指導は容赦がなく、私の至らなさを一つひとつ突きつけてくる。
何度も、心が折れそうになった。
だが――
そのたびに、脳裏に浮かぶのは、あの人の声。
『君を選んだのは、国のためでも、家のためでもない。……“私が望んだから”だ』
(……私も、“応えたい”)
自分を選んでくれた人に、恥じないように。
私は懸命に学び、動き、整えていった。
* * *
そして迎えた、社交界での“正式お披露目の日”。
大臣級の貴族たちが一堂に会する晩餐会。
その中で、ルシアス閣下が私を公の場で“婚約者”として正式にエスコートするのは、これが初めてだった。
「……お美しい」
静かに差し出された彼の手を取ると、彼がぽつりと呟いた。
「え?」
「……いや、なんでもない。……行こう」
少しだけ赤くなった耳に、思わず微笑みそうになる。
会場の視線は一斉に私たちに集まった。
その多くは驚きと、そして納得だった。
“地味”と揶揄された私が、いまや堂々と宰相の隣を歩いている。
ただの飾りではない、言葉を交わせばしっかりと返し、振る舞いは控えめで品がある。
王妃教育の成果――それ以上に、私が本当に変わろうとしていた証だった。
* * *
夜。
帰邸後、私はいつも通り自室へ向かおうとした。
「……待て」
背後から声がして、振り返れば、ルシアス閣下がいた。
「……どうかされましたか?」
彼は珍しく、何も言わずに近づいてきた。
そして、ぐいと私の手首を引き寄せ、ドアの内側へと連れ込んだ。
「か、閣下……?」
背後で扉が閉まり、ふたりきりの空間になる。
彼の瞳は、夜よりも暗く、熱を帯びていた。
「……今日、見ていて思った」
「……何を……?」
「……あまりに、他の男たちの目に“君が映りすぎる”ことが」
一言ひとことが、低く、震えていた。
「……私が育てて、磨き上げた君を……誰もが“美しい”と口にしていた。
笑って、敬意を向けて、……まるで、君が“誰のものでもない”かのように」
(――あっ)
私は、ようやく気づいた。
これが、この人の“嫉妬”だ。
「……私のものだと、知らしめたい」
そして、閣下の指が私の顎に触れ、ゆっくりと上を向かされた。
「……エルネア」
名前を呼ばれた直後。
額でも、頬でもなく――
その唇が、私の唇に、触れた。
熱くて、真っ直ぐで、…けれど恐ろしく不器用な、
“感情だけが先に走った”ようなキスだった。
「……っ」
ほんの数秒。
されど、世界が塗り替わるほどの衝撃。
離れた彼の瞳に、私を見つめる切なさが浮かんでいた。
「……怖がらせたなら、すまない。
けれど……どうしても、我慢ができなかった。……誰にも、渡したくなかった」
「……閣下……」
私の胸は、張り裂けそうだった。
今までずっと、淡々と、冷静で、感情など持ち合わせていないかのようだった人が、
こんなにもわかりやすく、こんなにも真っ直ぐに――
私だけに、執着してくれている。
「……私は、あなたのものです。……ずっと前から、そう思ってました」
囁いた私の言葉に、閣下はそっと目を閉じた。
そして次の瞬間、もう一度、今度は柔らかく、長く――
優しさを込めたキスが、私の唇をさらっていった。
静かに、夜がふたりを包み込む。
この夜、私は初めて知った。
“冷酷宰相”と呼ばれた男が、
どれほど優しく、どれほど激しく、私を想ってくれているかを――。
王妃陛下の言葉に、私は姿勢を正して深く頭を下げた。
「……はい。謹んで、お受けいたします」
宰相との正式な婚約が公になった翌朝――
私は王宮へと招かれ、王妃陛下からの“教育”を直々に受けることとなった。
それはつまり、私が“王政の中核たる伴侶”にふさわしいと王家が認めたということであり、同時に、王都全体が私の言動一つに注目する立場になったことを意味していた。
(……やっと、ここまで来た)
地味令嬢と呼ばれた私が、今では王政の頂点に立つ男の隣に立ち、王妃陛下の教えを受けている。
それだけで胸がいっぱいになる。
けれど――現実は甘くなかった。
「立ち居振る舞いが甘い。上流貴族の視線に耐えるには“怯え”を消しなさい」
「視線を下げる癖は、“弱さ”とみなされます」
「言葉遣いは洗練されていますが、声に芯がない。もっと遠くまで通る声で」
(……わかってる。わかってるのに)
王妃陛下は決して意地悪ではなかった。
けれど、そのご指導は容赦がなく、私の至らなさを一つひとつ突きつけてくる。
何度も、心が折れそうになった。
だが――
そのたびに、脳裏に浮かぶのは、あの人の声。
『君を選んだのは、国のためでも、家のためでもない。……“私が望んだから”だ』
(……私も、“応えたい”)
自分を選んでくれた人に、恥じないように。
私は懸命に学び、動き、整えていった。
* * *
そして迎えた、社交界での“正式お披露目の日”。
大臣級の貴族たちが一堂に会する晩餐会。
その中で、ルシアス閣下が私を公の場で“婚約者”として正式にエスコートするのは、これが初めてだった。
「……お美しい」
静かに差し出された彼の手を取ると、彼がぽつりと呟いた。
「え?」
「……いや、なんでもない。……行こう」
少しだけ赤くなった耳に、思わず微笑みそうになる。
会場の視線は一斉に私たちに集まった。
その多くは驚きと、そして納得だった。
“地味”と揶揄された私が、いまや堂々と宰相の隣を歩いている。
ただの飾りではない、言葉を交わせばしっかりと返し、振る舞いは控えめで品がある。
王妃教育の成果――それ以上に、私が本当に変わろうとしていた証だった。
* * *
夜。
帰邸後、私はいつも通り自室へ向かおうとした。
「……待て」
背後から声がして、振り返れば、ルシアス閣下がいた。
「……どうかされましたか?」
彼は珍しく、何も言わずに近づいてきた。
そして、ぐいと私の手首を引き寄せ、ドアの内側へと連れ込んだ。
「か、閣下……?」
背後で扉が閉まり、ふたりきりの空間になる。
彼の瞳は、夜よりも暗く、熱を帯びていた。
「……今日、見ていて思った」
「……何を……?」
「……あまりに、他の男たちの目に“君が映りすぎる”ことが」
一言ひとことが、低く、震えていた。
「……私が育てて、磨き上げた君を……誰もが“美しい”と口にしていた。
笑って、敬意を向けて、……まるで、君が“誰のものでもない”かのように」
(――あっ)
私は、ようやく気づいた。
これが、この人の“嫉妬”だ。
「……私のものだと、知らしめたい」
そして、閣下の指が私の顎に触れ、ゆっくりと上を向かされた。
「……エルネア」
名前を呼ばれた直後。
額でも、頬でもなく――
その唇が、私の唇に、触れた。
熱くて、真っ直ぐで、…けれど恐ろしく不器用な、
“感情だけが先に走った”ようなキスだった。
「……っ」
ほんの数秒。
されど、世界が塗り替わるほどの衝撃。
離れた彼の瞳に、私を見つめる切なさが浮かんでいた。
「……怖がらせたなら、すまない。
けれど……どうしても、我慢ができなかった。……誰にも、渡したくなかった」
「……閣下……」
私の胸は、張り裂けそうだった。
今までずっと、淡々と、冷静で、感情など持ち合わせていないかのようだった人が、
こんなにもわかりやすく、こんなにも真っ直ぐに――
私だけに、執着してくれている。
「……私は、あなたのものです。……ずっと前から、そう思ってました」
囁いた私の言葉に、閣下はそっと目を閉じた。
そして次の瞬間、もう一度、今度は柔らかく、長く――
優しさを込めたキスが、私の唇をさらっていった。
静かに、夜がふたりを包み込む。
この夜、私は初めて知った。
“冷酷宰相”と呼ばれた男が、
どれほど優しく、どれほど激しく、私を想ってくれているかを――。
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