婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢

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第14話 胎動と陰謀、王宮に響く粛清の宣告

その夜、私は寝台の上で小さな胎動を感じていた。

(……動いた)

手のひらをお腹に当てると、ほんのわずかに――けれど確かに、小さな命が応えるように動いた。

(あなたが、いる)

私は、胸がいっぱいになった。
不安もある。でもそれ以上に、温かい希望に包まれていた。

「……どうした?」

寝室に入ってきたルシアス閣下が、私の傍に腰を下ろす。
彼の手が私の腹に添えられると、その指先がピクリと動いた。

「……今のは?」

「動いたの。あなたに、気づいたんじゃないかしら」

「……そうか」

ほんの少しだけ、彼の瞳が緩む。
いつも冷静なその人が、いまは一人の父として、
この命を守ろうと必死に向き合ってくれている。

「この子は、絶対に守る。……君も、何があっても」

「私も……あなたと、この子を守る」

ふたりだけの、ささやかな誓い。

けれどその直後、王宮では“それ”を嘲笑うような事件が起きた。

* * *

「王妃陛下が……倒れられました!」

急報が駆け込んできたのは、翌朝のことだった。

「毒です。おそらく、茶に混入されていたと思われます!」

「誰の手によるものか――」

宮廷医が診断し、すぐに治療が施されたため、王妃は一命を取り留めた。
だが、王妃が口にした一言が、すべてを変えた。

「私ではなく……本当は、エルネアを狙ったものだったのでは?」

王妃と私は、日替わりで使う同じ茶葉を分け合っていた。
もし偶然の順番が逆であれば――倒れていたのは、私だった。

(……お腹の子も、一緒に)

その事実に、私は震えた。

そしてその晩。
宰相執務室に、重く冷たい空気が流れ込んでいた。

「……関係者全員を洗え。
出入りした侍女、文官、使用人、厨房――すべてだ」

ルシアス閣下の声は低く、だが一切の情を許さぬ刃だった。

「やつらは、命ではなく“未来”を狙った。
これは、王政そのものへの反逆だ」

「証拠が集まり次第、“粛清”を行う。躊躇は要らない」

そのとき私は、彼が“冷酷宰相”と呼ばれていた本当の意味を初めて知った。

私を愛してくれる優しい夫は、
同時に“国を脅かす者”を決して許さぬ鉄の意志を持っていた。

そして三日後――

宰相命令のもと、旧貴族の残党と数名の王宮関係者が“極秘裏に拘束”された。
表沙汰にはならなかったものの、王城内では噂が駆け巡った。

「ついに……ディエンツ閣下が動かれた」
「王も王妃も、何も止められなかったらしい」
「粛清は、徹底的だったそうだ――」

私は、その一部始終を聞いたあと、ただ静かに、夫の背を見つめていた。

「……私のために、そこまで……」

「違う」

ルシアスは、振り向きもせずに言った。

「これは君と子の命を守るためであると同時に、
“俺の意志そのもの”だ」

「俺は、君の夫であり、
王国宰相である前に、“一人の男”として――
絶対に、二度と失いたくないものを守ると決めた」

私は何も言えず、ただその背に近づき、そっと手を重ねた。

そして、彼の肩越しに耳元で囁いた。

「私は……あなたが、何者であっても、
“私のために怒ってくれる”ことが、何より嬉しいの」

「だから、私もあなたの“力”になれるように、強くなるわ」

ルシアスは、初めてその夜、
私のことを“自分と並び立つ存在”として見つめてくれた気がした。

そして、その視線の奥には――

深い愛と、
これから生まれてくる命への、
果てしない決意があった。
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