婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢

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第19話 民意を武器に、誇りを背負って

「民から直接聞き取った上での提言――まさか、本当に“エルネア夫人”自らが村を回っていたとは」

「王妃陛下の指示だったそうです。……あれは、まさに“動く王政”」

私が提出した報告書と改革案が、貴族会議に上程されるや否や、
宮廷はざわついた。

それは貴族制の根幹、つまり“税徴収と特権”に一石を投じる内容だった。

・年貢率の見直し
・災害時の税猶予制度
・農地整理の補助金支給
・農民代表による定期的な意見聴取制度の導入

「……まるで平民の代弁者だな、あの宰相夫人は」

そう冷笑したのは、旧貴族筆頭・ドヴァリ侯爵だった。

「我らが代々築いた“秩序”を、女一人の感情論で崩す気か?」

「感情ではありません。これは、現実に耳を傾けた“報告”です」

私は席から立ち上がり、はっきりと彼の瞳を見据えて言った。

「……私が見たのは、涙を呑みながら子を抱える母でした。
朝も夜も働きながら、『このままでは冬を越せない』と怯える声でした」

「貴族として民を守ると誓った以上、
私はその声を“政”に届ける責任がある。
――それが私の、夫の隣に立つということです」

会場が静まり返る。

ドヴァリ侯爵は、鼻を鳴らして席を立った。

「では勝手に吠えていろ。
貴族に牙を剥く犬は、そのうち吠える声すら奪われることになるだろう」

その意味するものを、私は理解していた。

(……まさか)

* * *

数日後。
王都中心部にて、“暴動”が起きた。

正体不明の扇動者が“農民に成りすまし”、
「王宮に訴えるべし」と声を上げさせたのだ。

街に不安が広がり、物資の流通も一時止まった。
王宮は混乱しかけ、民と貴族の間に火種が撒かれたような空気が立ち込める。

「……これは偶然ではない。貴族内部に“裏の手”がある」

ルシアスの声は冷たかった。

「……ドヴァリ侯爵」

「状況証拠はそろっている。……あとは、誰が“動く”か、だ」

そのとき、私がそっと言った。

「私が、民の前に立ちます」

「危険だ」

「だからこそ。
このままでは“民の声”は扇動に飲まれ、
“王政を信じる理由”すら失ってしまう」

「私は民と直接話した。信じてくれる人たちがいる。
なら、言葉で、誇りで、この誤解を正してみせます」

一瞬の沈黙。

そして、彼は頷いた。

「……君が行くなら、私は護る。
“言葉”の背に、“剣”を置いておくのが、俺の役目だ」

* * *

数日後。
王都中央広場にて、私は民衆の前に立った。

一部は怒りの声を上げ、扇動に乗せられ、目の奥に怯えと憎しみが混じっていた。

けれど私は、逃げなかった。

「私は王妃の命を受け、摂政の妻として、
――そして、“この国に生きる一人の母”として、今ここに立っています」

「どうか、耳を貸してください。
貴族のための政ではなく、皆さんと共に歩む政を、私は届けたいのです」

「敵は皆さんではありません。
皆さんを“使い捨ての道具”にしようとする、嘘と傲慢です」

その言葉に、いくつもの視線が揺らいだ。

小さな子を抱えた母が、涙をぬぐいながら囁いた。

「……あのとき、村に来てくれた方……」

私が頷くと、その母は静かに言った。

「私は信じたい。
“この人が政に関わるなら、何かが変わる”って……本当に、そう思ったから」

拍手が、広がった。

静かに、だが確かに、“本物の声”が、広場に満ちていく。

* * *

暴動は沈静化し、王宮内の調査により、
ドヴァリ侯爵の資金が“扇動者の雇用”に流れていた事実が発覚。

王妃陛下は静かに宣告した。

「王命により、ドヴァリ侯爵家は爵位を剥奪。領地は国庫管理下に置く」

――粛清は終わった。

ルシアスは、その夜ふたりきりになった寝室で言った。

「君の言葉が、剣よりも強かった。……誇りに思う」

「私は……あなたが傍にいてくれたから、立っていられたのよ」

私は彼の胸に身を寄せ、耳元で囁いた。

「私の声が届く限り、あなたの創る“新しい政”に、この命を懸けるわ」

「……なら、その命も、未来も、俺がすべて守る」

ふたりの誓いは、剣ではなく“信頼”という盾に変わり――
王国に、もう一つの秩序が芽吹こうとしていた。
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