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夜が、ゆっくりと事務所を包み込んでいた。
窓の外は静かで、昼の明るさがすっかり消えている。
ランプの灯りが柔らかく揺れて、ふたりの影を壁に伸ばしていた。
ソファの上。
陽翔と蓮は、昨日の夜と同じように、指先を重ねて座っていた。
だけど、昨日と違うのは――もう何も言い訳がいらないこと。
「……今日、ずっと変だった」
陽翔がぽつりと呟いた。
それは独り言のようでいて、ちゃんと蓮に向けられた声だった。
「俺さ、人のこと、こんなに気にしたことないんだ」
「……」
「ちょっと触れただけで、頭がまっしろになるとか……
そんなの、ドラマの中だけだと思ってた」
陽翔の指が、ぎゅっと蓮の指先を握る。
その温度が、夜の空気をすぐに塗り替えていく。
心臓が“そこ”にあるみたいに、指先が熱かった。
「……俺も」
蓮が静かに答えた。
陽翔が驚いたように顔を上げる。
その瞳が、まっすぐに蓮の瞳と重なる。
「俺も、こんなふうになるとは思わなかった。……正直、戸惑ってる」
「戸惑っててもいいよ」
陽翔は、笑った。
それは無理に作った笑顔じゃなく、まっすぐで、優しい笑顔。
「俺も、戸惑ってるし」
その笑顔に、蓮の胸の奥が――また、鳴った。
最初に“触れた”夜よりもずっと強く。
*
沈黙。
でも、苦しくない。
互いの息づかいが部屋を満たして、外の音なんて一切届かない。
指先の力が、少しだけ強くなった。
陽翔の身体がわずかに近づく。
その距離は、あとほんの少しで胸が触れ合うほど。
蓮は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
逃げたくなかった。
この夜だけは――この気持ちを、ちゃんと認めたかった。
「……陽翔」
名前を呼んだ声は、低く、熱を帯びていた。
陽翔がびくりと肩を震わせる。
その表情は、恥ずかしさと嬉しさと、少しの緊張が入り混じったものだった。
「……なに」
「ちょっと来い」
蓮は陽翔の肩を軽く引き寄せた。
その瞬間、ふたりの身体がぴたりと重なる。
胸の鼓動がぶつかって、空気が一瞬止まる。
「……っ」
陽翔は言葉を失ったまま、蓮の胸元に包まれていた。
力強くもなく、乱暴でもなく、ただ“そこにいてほしい”という抱きしめ方。
静かな夜のなかで、互いの心音がひとつに重なって響く。
「……蓮さん」
「……ああ」
「心臓、うるさい……」
「お前のもな」
ふたりの胸の奥で鳴る音が、まるで会話をしているみたいだった。
抱きしめる腕の中で、陽翔の身体が小さく震える。
それは恐怖ではなく――確かな、恋の震えだった。
「……離れたくない」
「……俺も」
蓮がその言葉を返したとき、陽翔の指が背中をそっと掴んだ。
抱きしめる力が、少しだけ強くなる。
ふたりの体温が溶け合って、夜の空気が甘く、重たくなる。
*
時間の感覚なんて、もうなかった。
触れる指先も、腕も、息も、すべてが“相手”の輪郭になっていく。
ただ抱きしめるだけなのに――まるで深くキスをしているみたいに、息が熱い。
「……陽翔」
「……ん」
「お前、ほんとうるさいのにな」
「……なにそれ」
「……こうやって抱いてると、静かになる」
陽翔は小さく笑い、蓮の胸元に額を押し当てた。
その笑い声が、夜の空気に溶けて、静かに消えていく。
もう言葉はいらなかった。
互いの温度と、呼吸だけで――全部、伝わっていた。
🕊️ 第11話 予告:「壊したくない夜」
初めて抱きしめ合った夜。
まだ恋人ではない。けれど、確かに「特別」になったふたり。
この夜が壊れないように――そっと、静かに時間が流れる。
窓の外は静かで、昼の明るさがすっかり消えている。
ランプの灯りが柔らかく揺れて、ふたりの影を壁に伸ばしていた。
ソファの上。
陽翔と蓮は、昨日の夜と同じように、指先を重ねて座っていた。
だけど、昨日と違うのは――もう何も言い訳がいらないこと。
「……今日、ずっと変だった」
陽翔がぽつりと呟いた。
それは独り言のようでいて、ちゃんと蓮に向けられた声だった。
「俺さ、人のこと、こんなに気にしたことないんだ」
「……」
「ちょっと触れただけで、頭がまっしろになるとか……
そんなの、ドラマの中だけだと思ってた」
陽翔の指が、ぎゅっと蓮の指先を握る。
その温度が、夜の空気をすぐに塗り替えていく。
心臓が“そこ”にあるみたいに、指先が熱かった。
「……俺も」
蓮が静かに答えた。
陽翔が驚いたように顔を上げる。
その瞳が、まっすぐに蓮の瞳と重なる。
「俺も、こんなふうになるとは思わなかった。……正直、戸惑ってる」
「戸惑っててもいいよ」
陽翔は、笑った。
それは無理に作った笑顔じゃなく、まっすぐで、優しい笑顔。
「俺も、戸惑ってるし」
その笑顔に、蓮の胸の奥が――また、鳴った。
最初に“触れた”夜よりもずっと強く。
*
沈黙。
でも、苦しくない。
互いの息づかいが部屋を満たして、外の音なんて一切届かない。
指先の力が、少しだけ強くなった。
陽翔の身体がわずかに近づく。
その距離は、あとほんの少しで胸が触れ合うほど。
蓮は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
逃げたくなかった。
この夜だけは――この気持ちを、ちゃんと認めたかった。
「……陽翔」
名前を呼んだ声は、低く、熱を帯びていた。
陽翔がびくりと肩を震わせる。
その表情は、恥ずかしさと嬉しさと、少しの緊張が入り混じったものだった。
「……なに」
「ちょっと来い」
蓮は陽翔の肩を軽く引き寄せた。
その瞬間、ふたりの身体がぴたりと重なる。
胸の鼓動がぶつかって、空気が一瞬止まる。
「……っ」
陽翔は言葉を失ったまま、蓮の胸元に包まれていた。
力強くもなく、乱暴でもなく、ただ“そこにいてほしい”という抱きしめ方。
静かな夜のなかで、互いの心音がひとつに重なって響く。
「……蓮さん」
「……ああ」
「心臓、うるさい……」
「お前のもな」
ふたりの胸の奥で鳴る音が、まるで会話をしているみたいだった。
抱きしめる腕の中で、陽翔の身体が小さく震える。
それは恐怖ではなく――確かな、恋の震えだった。
「……離れたくない」
「……俺も」
蓮がその言葉を返したとき、陽翔の指が背中をそっと掴んだ。
抱きしめる力が、少しだけ強くなる。
ふたりの体温が溶け合って、夜の空気が甘く、重たくなる。
*
時間の感覚なんて、もうなかった。
触れる指先も、腕も、息も、すべてが“相手”の輪郭になっていく。
ただ抱きしめるだけなのに――まるで深くキスをしているみたいに、息が熱い。
「……陽翔」
「……ん」
「お前、ほんとうるさいのにな」
「……なにそれ」
「……こうやって抱いてると、静かになる」
陽翔は小さく笑い、蓮の胸元に額を押し当てた。
その笑い声が、夜の空気に溶けて、静かに消えていく。
もう言葉はいらなかった。
互いの温度と、呼吸だけで――全部、伝わっていた。
🕊️ 第11話 予告:「壊したくない夜」
初めて抱きしめ合った夜。
まだ恋人ではない。けれど、確かに「特別」になったふたり。
この夜が壊れないように――そっと、静かに時間が流れる。
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