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「……そろそろ仕事行くか」
蓮がぼそりと呟く。
朝の光はすでに部屋を満たしていて、夜の影を完全に消し去っていた。
だけど――ふたりの身体の距離は、すぐには離れなかった。
「もうちょっとこのままでもいいのに」
陽翔が腕の中でぽつりと呟いた。
顔を上げると、まだ眠たげな瞳の奥に、昨夜の余韻がくっきりと残っている。
まるで、抱きしめ合っていた時間をまだ引きずっているみたいだった。
「……甘えんな」
「甘えてないもん」
「嘘つけ」
軽口を交わしながらも、ふたりの膝はまだ触れたまま。
ほんの少しの沈黙が、夜よりもずっと甘く、近い。
言葉を交わすよりも、触れているだけで充分だった。
*
事務所を出ると、空は高く晴れていた。
昨夜の雨が嘘のような澄んだ空気。
太陽に照らされた舗道はまだ少し湿っていて、足音がやわらかく響いていた。
「晴れてるの、ちょっと悔しいな」
「なんでだよ」
「……雨の日のほうが、蓮さんが優しいから」
陽翔の言葉に、蓮は思わず顔をそむけた。
まったく、あの夜からこいつはずっとこうだ――
まっすぐで、素直で、ためらいがない。
「……優しくなんてしてねぇ」
「うん、でもそういうとこ、優しいっていうんだよ」
陽翔がふわっと笑った。
その笑顔を見ていると、胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。
朝の光がまぶしいのか、それとも――こいつの笑顔のせいか。
(……ああ、ほんと。もう戻れねぇ)
*
駅までの道。
横並びで歩くふたり。
以前ならただの“職場のパートナー”として歩いていた距離が――
今はやけに近い。
肩が、何度も、かすかに触れる。
「……なあ」
蓮が不意に声を出す。
陽翔が振り向くと、その視線が思っていた以上に近くて、蓮の喉がかすかに鳴った。
「昨日の夜のこと……」
「ん」
「……変なことになったら、どうする?」
陽翔は少しだけ驚いた顔をして、それからゆっくりと微笑んだ。
いつもの明るい笑顔じゃなく、夜と同じ、少しだけ大人びた笑顔だった。
「変なことになってもいいよ。俺、もう戻る気ないし」
その一言で、蓮の足が一瞬止まった。
陽翔はそのまま前を歩きながら、ちらりと振り返る。
頬に朝の光が差していて、まぶしくて――ずるいくらいに、きれいだった。
(……ほんと、ずるい)
「……バカ」
「知ってるー」
そんな軽いやりとりなのに、胸の奥がずっと鳴っていた。
昨夜までは、触れることにドキドキしていた。
今は――たった一言で、息が詰まるほどに恋を自覚している。
*
事務所に戻るころには、互いの肩は自然と近づいていた。
陽翔がコーヒーを淹れ、蓮がそれを受け取る――
昨日までと同じ“朝のルーティン”のはずなのに、まったく同じには戻らない。
「……あのさ」
陽翔が蓮にマグカップを渡す瞬間、手がふわりと重なった。
短い一瞬。
でもその指先の温度で、昨日の夜が全部蘇る。
「……なんだ」
「……“おはよう”って言いたかっただけ」
「……今さらかよ」
「いいでしょ、なんか言いたくなったんだよ」
陽翔は照れ隠しみたいに笑った。
その笑顔が、やけに胸に響いた。
たった「おはよう」ひとつで、こんなに世界が変わって見えるなんて――思ってもいなかった。
蓮は何も言わず、受け取ったマグカップをひと口だけ飲む。
少し熱い。
でも、それ以上に胸の奥の温度のほうが熱かった。
(……こいつに、やられてんな)
「……おはよう」
蓮が低く呟くと、陽翔の目がぱっと輝いた。
たったそれだけのやり取りで、事務所の空気が少し甘くなる。
曖昧な関係のまま、ふたりの恋は――はっきりと形になろうとしていた。
🕊️ 第14話 予告:「ふたりの日常が始まる」
曖昧な関係のまま、少しずつ“恋人のような”時間が日常に混ざっていく。
視線・手・声――何気ない瞬間に、想いは深まっていく。
蓮がぼそりと呟く。
朝の光はすでに部屋を満たしていて、夜の影を完全に消し去っていた。
だけど――ふたりの身体の距離は、すぐには離れなかった。
「もうちょっとこのままでもいいのに」
陽翔が腕の中でぽつりと呟いた。
顔を上げると、まだ眠たげな瞳の奥に、昨夜の余韻がくっきりと残っている。
まるで、抱きしめ合っていた時間をまだ引きずっているみたいだった。
「……甘えんな」
「甘えてないもん」
「嘘つけ」
軽口を交わしながらも、ふたりの膝はまだ触れたまま。
ほんの少しの沈黙が、夜よりもずっと甘く、近い。
言葉を交わすよりも、触れているだけで充分だった。
*
事務所を出ると、空は高く晴れていた。
昨夜の雨が嘘のような澄んだ空気。
太陽に照らされた舗道はまだ少し湿っていて、足音がやわらかく響いていた。
「晴れてるの、ちょっと悔しいな」
「なんでだよ」
「……雨の日のほうが、蓮さんが優しいから」
陽翔の言葉に、蓮は思わず顔をそむけた。
まったく、あの夜からこいつはずっとこうだ――
まっすぐで、素直で、ためらいがない。
「……優しくなんてしてねぇ」
「うん、でもそういうとこ、優しいっていうんだよ」
陽翔がふわっと笑った。
その笑顔を見ていると、胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。
朝の光がまぶしいのか、それとも――こいつの笑顔のせいか。
(……ああ、ほんと。もう戻れねぇ)
*
駅までの道。
横並びで歩くふたり。
以前ならただの“職場のパートナー”として歩いていた距離が――
今はやけに近い。
肩が、何度も、かすかに触れる。
「……なあ」
蓮が不意に声を出す。
陽翔が振り向くと、その視線が思っていた以上に近くて、蓮の喉がかすかに鳴った。
「昨日の夜のこと……」
「ん」
「……変なことになったら、どうする?」
陽翔は少しだけ驚いた顔をして、それからゆっくりと微笑んだ。
いつもの明るい笑顔じゃなく、夜と同じ、少しだけ大人びた笑顔だった。
「変なことになってもいいよ。俺、もう戻る気ないし」
その一言で、蓮の足が一瞬止まった。
陽翔はそのまま前を歩きながら、ちらりと振り返る。
頬に朝の光が差していて、まぶしくて――ずるいくらいに、きれいだった。
(……ほんと、ずるい)
「……バカ」
「知ってるー」
そんな軽いやりとりなのに、胸の奥がずっと鳴っていた。
昨夜までは、触れることにドキドキしていた。
今は――たった一言で、息が詰まるほどに恋を自覚している。
*
事務所に戻るころには、互いの肩は自然と近づいていた。
陽翔がコーヒーを淹れ、蓮がそれを受け取る――
昨日までと同じ“朝のルーティン”のはずなのに、まったく同じには戻らない。
「……あのさ」
陽翔が蓮にマグカップを渡す瞬間、手がふわりと重なった。
短い一瞬。
でもその指先の温度で、昨日の夜が全部蘇る。
「……なんだ」
「……“おはよう”って言いたかっただけ」
「……今さらかよ」
「いいでしょ、なんか言いたくなったんだよ」
陽翔は照れ隠しみたいに笑った。
その笑顔が、やけに胸に響いた。
たった「おはよう」ひとつで、こんなに世界が変わって見えるなんて――思ってもいなかった。
蓮は何も言わず、受け取ったマグカップをひと口だけ飲む。
少し熱い。
でも、それ以上に胸の奥の温度のほうが熱かった。
(……こいつに、やられてんな)
「……おはよう」
蓮が低く呟くと、陽翔の目がぱっと輝いた。
たったそれだけのやり取りで、事務所の空気が少し甘くなる。
曖昧な関係のまま、ふたりの恋は――はっきりと形になろうとしていた。
🕊️ 第14話 予告:「ふたりの日常が始まる」
曖昧な関係のまま、少しずつ“恋人のような”時間が日常に混ざっていく。
視線・手・声――何気ない瞬間に、想いは深まっていく。
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