18 / 81
18
しおりを挟む
薄いカーテン越しに、やわらかな朝の光が差し込みはじめていた。
事務所の空気はまだ静まり返っていて、外の街も目を覚ましたばかり。
昨日と同じ空間なのに――世界が、少し違って見えた。
陽翔は、蓮の腕のなかで目を覚ました。
暖かい。
まだ夜の余韻が残っている。
身体を少しだけ動かすと、背中に回された腕がふわりと締まった。
「……おはよ」
囁くような声が、耳のすぐそばで響いた。
蓮の声は低くて、少し掠れていて、
まるでこの朝の空気そのものみたいに、やさしかった。
「……おはよ、蓮さん」
陽翔は振り向かずに答えた。
胸の奥に、ほんの少しの恥ずかしさと、じんわりとした幸福感が広がる。
昨日の夜、初めてキスをした。
それだけで、こんなに世界が柔らかくなるなんて、知らなかった。
「……寝相悪いな」
「え、俺? そっちでしょ。途中で腕、ぎゅーってしてたじゃん」
「……知らねぇよ」
「ふふ」
陽翔は、蓮の胸のあたりに額を押し当てた。
その拍子に、ふたりの呼吸が混ざる。
夜の熱はすこし冷めて、朝の空気と混じり合っていた。
それが心地よくて、安心できた。
*
「なあ」
「ん」
「昨日の夜のこと……」
蓮が、少しだけ喉を鳴らした。
いつもの無愛想な声じゃない。
少し迷いながら、それでも確かに“想い”を含んでいる声だった。
「……後悔してねぇか」
陽翔は一瞬きょとんとしたあと、すぐにくすっと笑った。
あまりに“蓮さんらしい”問い方で、ちょっと胸がくすぐったくなる。
「してるわけ、ないでしょ」
「……そうか」
「むしろ……うれしかったよ。初めてが蓮さんで」
蓮の腕がぴくりと動いた。
陽翔は振り向かない。
恥ずかしさで真っ赤になっているのは、自分の顔のほうだから。
(……今、たぶん、俺もすごい顔してる)
(でも……それでいい)
ほんの少し力がこもって、蓮の腕が陽翔をさらに抱き寄せた。
胸と背中がしっかりと重なって、心臓の鼓動がまるで一つになるみたいだった。
「……バカ」
「うん、言われなくても知ってる」
「……うるせぇ」
それでも、蓮の声は優しかった。
いつものぶっきらぼうの奥に、ちゃんと“好き”が混ざっていた。
*
朝の光が少しずつ強くなっていく。
二人はもうしばらくそのまま、何も言わずに抱き合っていた。
時間が止まったみたいに、穏やかで、やさしい空気が流れている。
陽翔がそっと顔を上げると、
蓮が真上から、まっすぐな目で自分を見下ろしていた。
その視線に、胸がきゅっと締めつけられる。
「……どうした」
「別に……なんか、かっこいいなって思っただけ」
「……朝から何言ってんだ」
「ほんとだもん」
「……バカ」
陽翔が笑うと、蓮も目を細めた。
その仕草は、いつもの彼からは考えられないほど柔らかかった。
昨日までだったら絶対に見られなかった顔。
陽翔だけに向けられる表情だと、直感でわかる。
(――好きだ)
言葉にはしなかった。
でも、胸の奥に確かな気持ちが生まれている。
昨日の夜のキスで始まった“何か”が、ちゃんと形になっていく。
*
「……そろそろ起きるか」
蓮が名残惜しそうに腕をほどいた。
陽翔もソファの上で身体を起こし、軽く伸びをする。
朝の光がふたりを包み込んで、事務所の空気が新しい一日を告げていた。
「……これ、慣れたらやばいね」
「何が」
「朝から一緒にいるの、幸せすぎて」
「……うるせぇ」
そう言いながらも、蓮の耳はほんのり赤い。
陽翔はそれを見て、そっと笑った。
ふたりの“日常”が、昨日までと違っていることを、もう誰も否定できなかった。
🕊️ 第19話 予告:「はじまりの日常」
初めて“想い”を知った朝。
ふたりはまだ恋人と呼べない関係だけれど、心はもう確かに重なっている。
日常の中に、恋が息づきはじめる――。
事務所の空気はまだ静まり返っていて、外の街も目を覚ましたばかり。
昨日と同じ空間なのに――世界が、少し違って見えた。
陽翔は、蓮の腕のなかで目を覚ました。
暖かい。
まだ夜の余韻が残っている。
身体を少しだけ動かすと、背中に回された腕がふわりと締まった。
「……おはよ」
囁くような声が、耳のすぐそばで響いた。
蓮の声は低くて、少し掠れていて、
まるでこの朝の空気そのものみたいに、やさしかった。
「……おはよ、蓮さん」
陽翔は振り向かずに答えた。
胸の奥に、ほんの少しの恥ずかしさと、じんわりとした幸福感が広がる。
昨日の夜、初めてキスをした。
それだけで、こんなに世界が柔らかくなるなんて、知らなかった。
「……寝相悪いな」
「え、俺? そっちでしょ。途中で腕、ぎゅーってしてたじゃん」
「……知らねぇよ」
「ふふ」
陽翔は、蓮の胸のあたりに額を押し当てた。
その拍子に、ふたりの呼吸が混ざる。
夜の熱はすこし冷めて、朝の空気と混じり合っていた。
それが心地よくて、安心できた。
*
「なあ」
「ん」
「昨日の夜のこと……」
蓮が、少しだけ喉を鳴らした。
いつもの無愛想な声じゃない。
少し迷いながら、それでも確かに“想い”を含んでいる声だった。
「……後悔してねぇか」
陽翔は一瞬きょとんとしたあと、すぐにくすっと笑った。
あまりに“蓮さんらしい”問い方で、ちょっと胸がくすぐったくなる。
「してるわけ、ないでしょ」
「……そうか」
「むしろ……うれしかったよ。初めてが蓮さんで」
蓮の腕がぴくりと動いた。
陽翔は振り向かない。
恥ずかしさで真っ赤になっているのは、自分の顔のほうだから。
(……今、たぶん、俺もすごい顔してる)
(でも……それでいい)
ほんの少し力がこもって、蓮の腕が陽翔をさらに抱き寄せた。
胸と背中がしっかりと重なって、心臓の鼓動がまるで一つになるみたいだった。
「……バカ」
「うん、言われなくても知ってる」
「……うるせぇ」
それでも、蓮の声は優しかった。
いつものぶっきらぼうの奥に、ちゃんと“好き”が混ざっていた。
*
朝の光が少しずつ強くなっていく。
二人はもうしばらくそのまま、何も言わずに抱き合っていた。
時間が止まったみたいに、穏やかで、やさしい空気が流れている。
陽翔がそっと顔を上げると、
蓮が真上から、まっすぐな目で自分を見下ろしていた。
その視線に、胸がきゅっと締めつけられる。
「……どうした」
「別に……なんか、かっこいいなって思っただけ」
「……朝から何言ってんだ」
「ほんとだもん」
「……バカ」
陽翔が笑うと、蓮も目を細めた。
その仕草は、いつもの彼からは考えられないほど柔らかかった。
昨日までだったら絶対に見られなかった顔。
陽翔だけに向けられる表情だと、直感でわかる。
(――好きだ)
言葉にはしなかった。
でも、胸の奥に確かな気持ちが生まれている。
昨日の夜のキスで始まった“何か”が、ちゃんと形になっていく。
*
「……そろそろ起きるか」
蓮が名残惜しそうに腕をほどいた。
陽翔もソファの上で身体を起こし、軽く伸びをする。
朝の光がふたりを包み込んで、事務所の空気が新しい一日を告げていた。
「……これ、慣れたらやばいね」
「何が」
「朝から一緒にいるの、幸せすぎて」
「……うるせぇ」
そう言いながらも、蓮の耳はほんのり赤い。
陽翔はそれを見て、そっと笑った。
ふたりの“日常”が、昨日までと違っていることを、もう誰も否定できなかった。
🕊️ 第19話 予告:「はじまりの日常」
初めて“想い”を知った朝。
ふたりはまだ恋人と呼べない関係だけれど、心はもう確かに重なっている。
日常の中に、恋が息づきはじめる――。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
カフェ・コン・レーチェ
こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。
背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。
今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる?
「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。
照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。
そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。
甘く、切なく、でも愛しくてたまらない――
珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる