Rain after Five

春夜夢

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駅へ向かう道は、朝の光で満ちていた。
車の音、信号の点滅、すれ違う人々の気配。
街全体が一斉に動き出している――そんな時間。

陽翔は肩に鞄をかけながら、
空を見上げて深呼吸をした。
昨日までと同じ空なのに、
今朝は少しだけ違って見える。

(……蓮さんと朝、過ごしたからかな)

胸の奥にまだ残っている、
キスの感触と、ぬくもり。
指先にほんのりとした温度が残っていて、
それだけで足取りが軽くなる。

「……ふふ」

思わず漏れた笑いに、
すれ違ったサラリーマンが怪訝な顔をした。
でも陽翔は気にしない。
誰かに見られなくても、
今この胸の中には、ちゃんと“彼”がいるから。



蓮もまた、別の道を歩いていた。
いつもと同じ時間、同じ景色。
でも、今日は心の奥に小さな熱が残っている。

(……朝っぱらから、あいつ……)

頭に浮かぶのは、陽翔の顔。
少し寝癖のついた髪と、
笑いながら近づいてきたときの、あの表情。

「……バカ」

小さく呟いて、ため息をつく。
それでも、口元がわずかに緩むのを止められなかった。
周囲には誰も気づかない。
でも、本人は気づいている――
その笑みが、自分にとって特別なものだと。



駅前の雑踏に足を踏み入れる。
人の流れは早く、どこか急かされる空気。
けれど陽翔は、いつものようにバタバタと走る気にはなれなかった。

“急がなくてもいい”――そう思えるのは、
すでに一日のスタートが、十分にあたたかかったからだ。

(……今日、いい日になりそう)

胸の中で、そんな気持ちがふっと灯る。



蓮のスマホが、短く震えた。
ポケットから取り出すと、そこには
『今日もがんばろ~☀️』という、陽翔からの短いメッセージ。

たった一行。
それなのに、胸の奥に小さく残っていた温度が
じんわりと広がっていく。

(……ほんと、うるさいやつ)

蓮は短くため息をついて、
画面を閉じながら、ほんの少しだけ笑った。



陽翔も同じ頃、
改札を抜けながらスマホを見た。
そこには蓮からのシンプルな返信。

『ちゃんと歩け』

「……ふふ」

たったそれだけの言葉なのに、
胸が少し軽くなる。
彼の声が聞こえたような気がして、
朝の人混みのなかでも、ぽっと心が明るくなった。



ふたりは別々の道を歩いている。
けれど、空はひとつで、朝の空気も同じだ。
離れていても――ちゃんと“恋人”でいられる。

(……はやく、また会いたいな)

朝の光が、そんな気持ちをやさしく包み込んでいった。

🕊️ 第53話 予告:「仕事中の一瞬」
お互いに別々の場所で仕事をする日中。
ほんの少しの瞬間に、ふと思い出してしまう“恋人”の存在。
それは、ふたりにとって力になる時間――。
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