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午前10時。
オフィスには、パソコンのキーボードを叩く音と、
コピー機の稼働音が重なっていた。
陽翔はデスクに向かい、
資料の確認をしながら軽くペンをくるくると回す。
仕事のスイッチは入っている。
けれど、心のどこかにまだ“朝の空気”が残っていた。
(……朝、蓮さんとキスしたんだよな)
思い出すだけで、
胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
もちろん、職場でそんなことを考えている場合じゃない。
それでも、頭の片隅に自然と浮かんでしまう。
「……ふふ」
知らずに小さく笑ってしまった陽翔に、
隣の席の先輩が怪訝な顔を向けた。
「なに笑ってんの?」
「えっ、な、なんでもないです!」
「怪しい~~~」
「ち、違いますって!」
必死にごまかしながらも、
胸の奥の“あの人”のぬくもりは、消えなかった。
*
その頃、蓮のオフィスでも――。
「……ここ、修正入れるか」
資料を前にしていた蓮は、
ペンを走らせる手を一瞬だけ止めた。
何気なく、朝、陽翔が結んでいたネクタイの形を思い出してしまったのだ。
あのとき、うるさく笑って、
勝手に抱きついてきた顔。
目を細めて笑うときの、ちょっと情けない顔。
「……ったく」
ため息をひとつ。
でも、それは呆れたようでいて、
どこかやわらかい音だった。
「蓮さん、どうかしました?」
「……いや。なんでもない」
部下に軽く首を振って、
ペン先をまた資料に戻す。
表情はいつも通りの“クールな先輩”のまま。
でも胸の奥では、
朝の“あいつ”の声が、まだ小さく鳴り続けていた。
(……ったく、仕事中に思い出させんな)
*
昼前。
会議室に移動する途中、
陽翔はスマホをちらりと見た。
もちろん、通知はなにもない。
でも、そこに蓮の名前を見ただけで、
なんとなく笑みがこぼれる。
「……ん」
スマホの画面を指先で軽くなぞる。
ただ名前を見るだけで、
一瞬、空気がやわらかくなる気がした。
(……きっと、蓮さんも今、仕事してるよね)
同じ時間を過ごしている、というだけで
少しだけ胸が温かくなる。
*
一方、蓮も会議の資料を抱えたまま、
廊下でふとポケットのスマホに視線を落とした。
なにか連絡があるわけではない。
けれど、その中に“陽翔”という文字があるだけで――
知らずに口元が少しだけ緩んだ。
(……ほんと、手がかかる)
でもその“手がかかる”が、
今は悪くないと心のどこかで思ってしまっている。
「……っ」
自分で気づいて、小さく咳払いをひとつ。
いつもの顔に戻して、会議室へ足を進めた。
*
別々の場所。
別々の仕事。
でも、心のなかではちゃんと“隣にいる”。
そんな一瞬が、
ふたりの一日を少しだけ優しくしていた。
🕊️ 第54話 予告:「昼休みのメッセージ」
仕事の合間の昼休み。
ちょっとしたメッセージのやりとりが、
お互いの気持ちをふわりと軽くする――そんな昼の時間。
オフィスには、パソコンのキーボードを叩く音と、
コピー機の稼働音が重なっていた。
陽翔はデスクに向かい、
資料の確認をしながら軽くペンをくるくると回す。
仕事のスイッチは入っている。
けれど、心のどこかにまだ“朝の空気”が残っていた。
(……朝、蓮さんとキスしたんだよな)
思い出すだけで、
胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
もちろん、職場でそんなことを考えている場合じゃない。
それでも、頭の片隅に自然と浮かんでしまう。
「……ふふ」
知らずに小さく笑ってしまった陽翔に、
隣の席の先輩が怪訝な顔を向けた。
「なに笑ってんの?」
「えっ、な、なんでもないです!」
「怪しい~~~」
「ち、違いますって!」
必死にごまかしながらも、
胸の奥の“あの人”のぬくもりは、消えなかった。
*
その頃、蓮のオフィスでも――。
「……ここ、修正入れるか」
資料を前にしていた蓮は、
ペンを走らせる手を一瞬だけ止めた。
何気なく、朝、陽翔が結んでいたネクタイの形を思い出してしまったのだ。
あのとき、うるさく笑って、
勝手に抱きついてきた顔。
目を細めて笑うときの、ちょっと情けない顔。
「……ったく」
ため息をひとつ。
でも、それは呆れたようでいて、
どこかやわらかい音だった。
「蓮さん、どうかしました?」
「……いや。なんでもない」
部下に軽く首を振って、
ペン先をまた資料に戻す。
表情はいつも通りの“クールな先輩”のまま。
でも胸の奥では、
朝の“あいつ”の声が、まだ小さく鳴り続けていた。
(……ったく、仕事中に思い出させんな)
*
昼前。
会議室に移動する途中、
陽翔はスマホをちらりと見た。
もちろん、通知はなにもない。
でも、そこに蓮の名前を見ただけで、
なんとなく笑みがこぼれる。
「……ん」
スマホの画面を指先で軽くなぞる。
ただ名前を見るだけで、
一瞬、空気がやわらかくなる気がした。
(……きっと、蓮さんも今、仕事してるよね)
同じ時間を過ごしている、というだけで
少しだけ胸が温かくなる。
*
一方、蓮も会議の資料を抱えたまま、
廊下でふとポケットのスマホに視線を落とした。
なにか連絡があるわけではない。
けれど、その中に“陽翔”という文字があるだけで――
知らずに口元が少しだけ緩んだ。
(……ほんと、手がかかる)
でもその“手がかかる”が、
今は悪くないと心のどこかで思ってしまっている。
「……っ」
自分で気づいて、小さく咳払いをひとつ。
いつもの顔に戻して、会議室へ足を進めた。
*
別々の場所。
別々の仕事。
でも、心のなかではちゃんと“隣にいる”。
そんな一瞬が、
ふたりの一日を少しだけ優しくしていた。
🕊️ 第54話 予告:「昼休みのメッセージ」
仕事の合間の昼休み。
ちょっとしたメッセージのやりとりが、
お互いの気持ちをふわりと軽くする――そんな昼の時間。
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