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靴を履く音が、
玄関に軽く響いた。
朝の光が差し込むドアの向こうには、
いつもの街の空気――仕事へ向かう時間が始まる。
蓮がコートの襟を整える横で、
陽翔は肩に鞄をかけながら小さく伸びをした。
「……今日、天気いいね」
「……それがどうした」
「こういう朝、気分いいなって思って」
「……バカ」
陽翔はくすっと笑いながら、
蓮の背中をちらりと見た。
この“出かける前”の数分が、
彼にとってはとても大事な時間になっている。
(……この時間があると、一日頑張れる)
*
「……なあ」
「ん?」
「行ってくる前に、ね」
陽翔は蓮のコートの裾を、
指先でそっとつまんだ。
それだけで、蓮がこちらに顔を向ける。
「……お前な」
「ダメ?」
「……ダメとは言ってねぇ」
「ふふ」
ふたりの視線が、静かな朝の空気のなかでふわりと重なる。
玄関先という狭い空間が、
まるでふたりの世界だけになるような瞬間だった。
*
蓮が一歩近づくと、
肩と肩がかすかに触れる。
息がふわりと重なって――
陽翔の心臓が跳ねた。
「……バカ、顔赤い」
「蓮さんのせいでしょ」
「知らねぇよ」
「……ねぇ」
「……ああ」
ゆっくりと顔が近づいて、
唇と唇が軽く触れ合う。
深くない、短いキス。
でも、それだけで胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
「……」
「……おはようの、続き」
「……ったく、毎朝よく飽きねぇな」
「飽きるわけないじゃん。これ、俺の元気の源なんだから」
蓮は小さく息を吐きながら、
陽翔の頬を指で軽くつついた。
ほんの一瞬の仕草なのに、
その指先のぬくもりが、心に深く残る。
*
「行ってきます」
「……行ってこい」
「蓮さんも、ちゃんとごはん食べてね」
「……ガキか」
「ふふ」
陽翔がドアを開けると、
外の朝の空気がふわりと流れ込んできた。
振り返ると、蓮がいつもと同じ場所に立っている。
でも、その光景を見るだけで胸がふわっと軽くなる。
「……なに笑ってんだ」
「ん、なんでもない」
「……変なやつ」
「好きな人が家で見送ってくれるんだよ? そりゃ嬉しいでしょ」
「……バカ」
蓮は照れ隠しのように目をそらした。
でも、その目元が少しだけやわらかく笑っているのを
陽翔はちゃんと見ていた。
「いってきまーす!」
「……ああ」
玄関のドアが閉まる音のあとも、
その笑顔とキスのぬくもりは、
ふたりの胸にしっかり残っていた。
🕊️ 第66話 予告:「午前の空」
外に出た陽翔が見上げる空と、
家の中で見送った蓮――
それぞれの場所で、同じ朝を感じるふたりの時間。
玄関に軽く響いた。
朝の光が差し込むドアの向こうには、
いつもの街の空気――仕事へ向かう時間が始まる。
蓮がコートの襟を整える横で、
陽翔は肩に鞄をかけながら小さく伸びをした。
「……今日、天気いいね」
「……それがどうした」
「こういう朝、気分いいなって思って」
「……バカ」
陽翔はくすっと笑いながら、
蓮の背中をちらりと見た。
この“出かける前”の数分が、
彼にとってはとても大事な時間になっている。
(……この時間があると、一日頑張れる)
*
「……なあ」
「ん?」
「行ってくる前に、ね」
陽翔は蓮のコートの裾を、
指先でそっとつまんだ。
それだけで、蓮がこちらに顔を向ける。
「……お前な」
「ダメ?」
「……ダメとは言ってねぇ」
「ふふ」
ふたりの視線が、静かな朝の空気のなかでふわりと重なる。
玄関先という狭い空間が、
まるでふたりの世界だけになるような瞬間だった。
*
蓮が一歩近づくと、
肩と肩がかすかに触れる。
息がふわりと重なって――
陽翔の心臓が跳ねた。
「……バカ、顔赤い」
「蓮さんのせいでしょ」
「知らねぇよ」
「……ねぇ」
「……ああ」
ゆっくりと顔が近づいて、
唇と唇が軽く触れ合う。
深くない、短いキス。
でも、それだけで胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
「……」
「……おはようの、続き」
「……ったく、毎朝よく飽きねぇな」
「飽きるわけないじゃん。これ、俺の元気の源なんだから」
蓮は小さく息を吐きながら、
陽翔の頬を指で軽くつついた。
ほんの一瞬の仕草なのに、
その指先のぬくもりが、心に深く残る。
*
「行ってきます」
「……行ってこい」
「蓮さんも、ちゃんとごはん食べてね」
「……ガキか」
「ふふ」
陽翔がドアを開けると、
外の朝の空気がふわりと流れ込んできた。
振り返ると、蓮がいつもと同じ場所に立っている。
でも、その光景を見るだけで胸がふわっと軽くなる。
「……なに笑ってんだ」
「ん、なんでもない」
「……変なやつ」
「好きな人が家で見送ってくれるんだよ? そりゃ嬉しいでしょ」
「……バカ」
蓮は照れ隠しのように目をそらした。
でも、その目元が少しだけやわらかく笑っているのを
陽翔はちゃんと見ていた。
「いってきまーす!」
「……ああ」
玄関のドアが閉まる音のあとも、
その笑顔とキスのぬくもりは、
ふたりの胸にしっかり残っていた。
🕊️ 第66話 予告:「午前の空」
外に出た陽翔が見上げる空と、
家の中で見送った蓮――
それぞれの場所で、同じ朝を感じるふたりの時間。
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