Rain after Five

春夜夢

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朝のまどろみを抜けて、
布団から顔を出すと、
窓の外には柔らかい光が差し込んでいた。
鳥の鳴き声と、遠くの車の音が、
少しずつ世界が動き出す気配を運んでくる。

「……おはよ、蓮さん」

「……ん。おはよ」

まだ寝ぼけた声の蓮は、
目を細めながら片手で髪をかきあげた。
その仕草がなんでもないのに、
陽翔にはたまらなく愛おしい。

「ふふ……寝起きの顔、ちょっとかわいい」

「うるせぇ」

「褒めてるのに~」

「褒め方がキモい」

「ひどい!」

陽翔の笑い声が、
まだ少し冷たい空気のなかにやさしく響く。
こういうやりとりも、すっかり朝の一部になっていた。



ふたりはゆっくりベッドを出て、
寝室から洗面所へ向かう。
洗面台の鏡に並ぶ姿も、
もう見慣れた“いつもの朝”。

「ねぇ、今日も歯磨き一緒にできた」

「ガキかよ」

「だって朝のペアタイムだもん」

「……ペアタイムて」

蓮は呆れたように眉をひそめるが、
その口元はうっすらと笑っている。
陽翔はその顔を横目で見ながら、
ふわりと肩をぶつけた。

「ちょ……なに」

「うん、いつも通りの朝って感じ」

「……バカ」



洗面所を出ると、
キッチンにコーヒーの香りが広がる。
蓮が先にポットに火をかけ、
陽翔はトースターにパンを入れる。

どちらかが指示をしなくても、
自然と動きが合う――
暮らしが重なってきた証だった。

「……いい匂い」

「パンの匂いだろ」

「ううん、コーヒーの匂い。
 でも、これが合わさると“朝”って感じがする」

「……」

蓮はマグカップを差し出しながら、
ふと陽翔の方を見る。
寝起きの柔らかい笑顔。
どこにも派手さはないのに、
胸の奥が静かにあたたまる。

「……なんだよ」

「ん~、好き」

「朝からうるせぇ」

「でもほんとに」

蓮は返事をしないまま、
コーヒーをそっと陽翔の手に押し付けた。
指先がふれて、陽翔の心臓がちょっとだけ跳ねる。

(……この“ちょっと”が、朝のしあわせなんだよな)



「……いただきます」

「声でけぇよ」

「えへへ」

パンをかじる音と、
コーヒーをすする音。
ふたりの朝は、ほんの少しの会話と
小さな生活音で満たされていく。

「ねぇ、今日もがんばろ」

「……おう」

「帰ったら、また一緒にごはん食べよ」

「……バカ、当たり前だろ」

「ふふ、うん!」

朝の光が、ふたりの肩を包む。
何気ない朝――
でも、その何気なさこそが、ふたりにとって一番大切なものだった。

🕊️ 第80話 予告:「出勤前のキス」
朝食を終え、それぞれ仕事へ向かう準備。
玄関前の“いってらっしゃい”のキスは、
ふたりの一日をやさしく始める合図になる――。
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