Rain after Five

春夜夢

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朝の光が、
カーテンのすき間からやさしく差し込んでいた。
まだ部屋の空気は少しひんやりしているけれど、
布団の中はぬくもりに満ちている。

陽翔はぼんやりとした意識のなか、
胸元にある温度を感じ取った。
目を開けなくてもわかる――それは、蓮の体温。

「……ふふ」

小さく笑いながら、陽翔は寝返りを打った。
布団の中でからだを少しずらすと、
背中に蓮の腕が自然に回ってきて、
腰をやさしく包み込むように引き寄せられる。

「……まだ早ぇ」

「ん……おはよう……」

「起きんな」

「でも……」

「……」

蓮の低い声が、耳のすぐ後ろでかすかに響いた。
その声が心地よくて、
陽翔はまぶたを閉じたまま、ふわりと息を吐く。

(……この声、好き)



布団の中は、ふたりの呼吸の音だけ。
時計の針の音が小さく刻まれるなかで、
世界のスピードがほんの少しだけゆっくりになる。

陽翔はゆっくりと振り向き、
まだ眠たげな蓮の顔を見上げた。
目元は少しぼんやりしていて、
朝の柔らかい光に照らされたその顔は、
夜とは違うやさしさをまとっていた。

「……蓮さん」

「……ん」

「朝、やっぱり好き」

「……バカ」

「え~、なんで“バカ”なの」

「お前、毎朝言ってんだろ」

「だって……毎朝、ちゃんと好きなんだもん」

「……」

蓮は小さく息を吐いて、
陽翔の髪を指先でくしゃっと撫でた。
それだけで、陽翔の胸の奥がふわっとあたたかくなる。



「……今日も、仕事だろ」

「うん。でも今は、まだ朝」

「……あ?」

「“蓮さん時間”……あとちょっとだけ」

「……バカ」

「ふふっ」

陽翔は布団の中に顔を埋め、
蓮の胸元に頬を寄せた。
蓮は特に何も言わず、
ただその頭を軽く抱き寄せる。

外の世界は、まだ完全には目覚めていない。
この時間だけは、ふたりのものだった。



「……なぁ」

「ん?」

「朝、こうしてると……ずっとこのままでいいって思う」

「……そんなこと言っても、起きなきゃなんねぇだろ」

「わかってる。でも……」

陽翔は蓮の胸元に顔を押し付けたまま、
小さな声で続ける。

「……起きる前に“好き”って思える朝があるだけで、
 俺、頑張れるんだよ」

「……」

蓮はなにも言わなかった。
けれど、腕の力が少しだけ強くなって、
陽翔の腰をしっかりと抱き寄せた。

その無言の返事が、
言葉よりずっと甘くてあたたかい。



「……もうちょいだけ」

「……ああ」

蓮の胸元に包まれたまま、
陽翔はふたたびまぶたを閉じた。
朝のまどろみのなかで、
ふたりの呼吸が静かに重なっていく。

世界が目覚める前のこの時間。
それは――ふたりにとって、
いちばんやさしい朝だった。

🕊️ 第79話 予告:「朝の支度②」
朝のまどろみのあと、
ふたりで迎える朝の支度。
いつもの日常に、ほんの少し甘さがにじむ時間。
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