伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第4話:公爵家からの招待

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クラリス・エルフォードの名は、再び社交界の話題の中心に戻っていた。
 アランとリリアの婚約披露の場で、その素性を暴いた一件は瞬く間に広まり、誰もが“元婚約者”の優雅かつ痛烈な一撃に舌を巻いた。

「……さて、これからが本番ね」

 書斎の机に並べられたのは、各貴族から届いた茶会の招待状。以前とは打って変わり、今や彼女を“見直した”という空気が明確に伝わってくる。

 中でもひときわ目を引くのは――金糸の封蝋が施された、一通の手紙。

「これは……ルーベルト公爵家から?」

 ルーベルト公爵家は、王家に次ぐ権威を持つ名門中の名門。その嫡男であるユリウス・ルーベルトは、次代の宰相候補とも噂される切れ者として知られていた。

 内容は、来週末に開かれる私的なお茶会への招待。参加者はごく少数の選ばれた貴族令嬢のみ。

「これは……私に“選別の機会”が与えられたということかしら」

 クラリスは書簡を静かに畳み、微笑を浮かべた。

 そのとき、部屋の扉がノックされる。

「クラリス、お邪魔する」

 銀髪の青年――ノア・ヴァレンティアが入室し、彼女の向かいに腰を下ろした。

「……ルーベルト公爵家から、招待状が来たんだって?」

「ええ。やはりあなたも、すでに把握していたのね。王宮近衛騎士団所属のあなたなら当然かしら」

 茶を一口飲み、クラリスは視線を外す。

「でも、これは“名誉”と同時に“試練”でもあるの。ルーベルト家は政治の中枢。その息子が開く私的な茶会というのは、社交の表に見せかけた裏の駆け引きの場。……たとえ令嬢同士の会でも、油断はできない」

「分かってる。だけど、君ならやれる」

 ノアの言葉は短く、だが力強かった。
 クラリスは静かに頷く。

「ありがとう、ノア。……この機会、逃す気はないわ」

 数日後――。

 クラリスは真紅のドレスを身にまとい、公爵家の私邸を訪れていた。

 豪奢な応接間には、彼女を含めて三人の令嬢だけ。いずれも名のある家系で、才色兼備と評判の者ばかりだ。

「本日はようこそお越しくださいました、エルフォード嬢」

 低く響く声に、クラリスはゆっくりと顔を上げた。

 そこに立っていたのは、漆黒の髪と鋭い瞳を持つ青年――ユリウス・ルーベルト。

「あなたと、少し話がしてみたかったのです」

 他の令嬢たちが軽く動揺する中、クラリスは一歩前に出て、優雅に一礼した。

「光栄ですわ、公爵閣下」

 彼女の逆転劇は、いま新たな舞台――政治と権力の渦巻く中心へと足を踏み入れる。
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