伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第5話:公爵令息の思惑

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ルーベルト公爵邸、白亜のサロン。
 選ばれし三名の令嬢のうち、中心に据えられたのは、明らかにクラリス・エルフォードだった。

「お話とは、どのようなことでしょうか、公爵閣下」

 クラリスは落ち着いた声音で問いかける。ユリウス・ルーベルトは微笑を浮かべ、まるで商談を持ちかける商人のように、慎重に言葉を選んだ。

「この数日、君の名が私の耳に何度も届いている。的確に動き、冷静で、決して感情に流されない。貴族として理想的な振る舞いだと」

 誉め言葉――だが、それにこめられた意図を見抜けるクラリスは、あえて目を細めて返す。

「過分なお言葉ですわ。ですが、私を“試す”ために招かれたのではなくて?」

「察しがいい」

 隣席に座っていた金髪の令嬢・セレナが、目に見えて不機嫌そうに眉をひそめる。

「お兄様、あまりにあからさまではありませんの? たった数日の噂で、彼女を特別扱いなさるなんて」

 セレナはユリウスの妹にあたり、自他ともに認める令嬢界の“女王蜂”だった。

「クラリス嬢がどう振る舞うか、それを見たいのは我々だけではない。社交界そのものが、君の動向を注視している。……だが、それだけではない」

 そう言って、ユリウスはクラリスの瞳をまっすぐに見据えた。

「私は、君と“共に歩めるか”を判断したいのだ」

 一瞬、サロンの空気が凍った。
 共に歩む――それはつまり、将来を見据えた意味を含んでいる。

「……まぁ」

 セレナが静かにティーカップを置いた音が、やけに大きく響いた。

「閣下、それは“政略結婚”の打診と受け取っても?」

 クラリスの問いに、ユリウスは肯定も否定もせず、ただ静かに頷いた。

 だが彼女は微笑を浮かべたまま、ゆっくりと首を横に振る。

「残念ですが、今の私にはまだそのお話に応じる資格はないと思っております」

「理由を聞いても?」

「私には“果たすべき復讐”と“守るべき名誉”が残っておりますゆえ。誰かの傘の下に入るには、まだ早すぎますわ」

 毅然とした言葉に、サロン全体が再び静まりかえる。

「……なるほど。やはり、噂通りの方だ」

 ユリウスは深く頷き、クラリスに対して明確な敬意を示した。

 一方、セレナは怒りを飲み込むように、そっと目を伏せる。

(面白くなってきたわね。ならば、あなたがどこまで這い上がれるか、私が見てあげますわ)

 その日の茶会は、波乱の種をいくつも残したまま終わった。

 帰りの馬車のなかで、クラリスは窓の外を眺めながら、小さく息をついた。

「……私を“選ぶ”というなら、その覚悟も試してもらいましょう。中途半端な関わりでは、振り回されて終わるだけ」

 逆転劇の幕は、まだ上がったばかり。
 次なる標的は――社交界の頂点に立つ“ある人物”。

 その名前を、彼女はすでに心の中で定めていた。
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