伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第6話:女帝との対面

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社交界の女帝――その異名を持つのは、侯爵未亡人にして老舗サロンの主、アグネス・グランセイル。
 年齢を重ねながらもその威厳は衰えず、若き令嬢たちにとっては畏敬と恐れの象徴だった。

「アグネス様が、私を?」

 クラリスは目の前の招待状を見つめ、静かに息を吐いた。
 それは“紅茶と薔薇の午後”と銘打たれた、限られた者しか招かれない名物サロン会。
 クラリスが政略婚を断った直後のタイミングで届いたことに、意図を感じざるを得なかった。

「行くしかないわね。私が“選ばれる側”でいるつもりはないから」

 当日、クラリスは淡い藤色のドレスを選んだ。控えめでありながら上品で、貴婦人の眼にもかなう仕上がりだ。

 屋敷に入ると、すでに数名の令嬢たちが集まっていた。
 その中央にいるのが、灰色の瞳に髪を高く結い上げた婦人――アグネスだった。

「ようやくお見えになったのね、クラリス・エルフォード嬢」

 その声音は静かで優雅、しかし芯の強さが滲み出ている。

「ご招待に感謝いたします。お会いできて光栄ですわ」

 クラリスは恭しく一礼し、椅子に腰かけた。
 周囲の令嬢たちが、好奇と警戒の入り混じった目を向ける。

「あなたの噂、聞いておりますわ。元婚約者の失態を逆手に取り、社交界に堂々と戻ってきた令嬢。ですが……それが“実力”によるものか、“偶然”なのか、私自身で見極めたくなったのですのよ」

「そう仰ると思っておりました」

 クラリスは微笑み、紅茶に口をつける。

「ですので今日は、私の“真価”をご覧いただけるよう、喜んで参りましたわ」

 アグネスの口元がわずかにほころぶ。

「では、お手並み拝見とまいりましょう。テーマは『令嬢の品位』。さあ、語ってごらんなさい」

 突然の問いに、他の令嬢たちは困惑しながらも沈黙する。

 クラリスは数秒だけ考え、そして言った。

「“品位”とは、選ばれた血筋を誇るものではなく、“何を守り、どう在るか”を自ら定め、実行する姿勢そのものですわ」

 その言葉に、周囲の空気が変わった。

「たとえ泥を被ろうと、笑われようと、自分の信じた道を背筋を伸ばして歩ける者。それが“本物の貴族”――いえ、“真に品位ある令嬢”だと、私は考えております」

 サロンに静寂が落ちる。

 やがて、アグネスがゆっくりと拍手をした。

「……ふふ、見事。久方ぶりに面白い若手を見た気がいたしますわ」

 令嬢たちの目が一斉に揺れ動く。

「エルフォード嬢。あなたには、私が主宰する“薔薇の円卓会”への出席を許可いたしましょう」

 “薔薇の円卓会”――それは、名だたる貴族の令嬢でもごく一部しか参加できない、選ばれし者の集まり。

 社交界で真の影響力を持つ婦人たちから後継者として認められた証でもある。

「ありがたく、お受けいたしますわ」

 クラリスは再び礼をとる。
 その瞬間、彼女の逆転劇はひとつの節目を超え、真の頂点へと足を踏み入れたのだった。
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