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夜明け前、南方の荒野には冷たい風が吹いていた。
まだ薄暗い空の下、騎士団の旗が揺れている。
戦場特有の緊張と、張り詰めた空気。
その最前線に、レオンは静かに立っていた。
「……夜明けと同時に来る。偵察の報告では、魔族の群れはかなりの数だ」
副官の報告を受けながら、レオンは空を見上げる。
その瞳は冷静で、鋼のように強い。
けれど、胸の奥ではひとつの名前が何度も響いていた。
(……湊)
風が吹くたびに、あの夜の温もりがよみがえる。
寄り添った夜。交わした言葉。
「必ず帰る」と約束したあの朝。
それが今、剣を握る力になっている。
「レオン団長……?」
「何でもない。……全軍、配置につけ」
馬にまたがりながら、レオンは短く息を吐いた。
この戦いは国を守るため。けれど――それだけじゃない。
この剣は、たったひとりの人のもとに戻るための剣だ。
(俺は、帰る。――必ず)
*
同じ頃、王城。
湊は魔術師団の詰め所の奥、塔の上の部屋にいた。
昨夜現れた黒ローブの男の件で、城の警戒は一気に強まっている。
廊下を行き交う兵士たちの足取りも早く、空気に小さな波が立っていた。
窓から見える空は曇っていて、戦の気配を伝えている。
湊は胸の前で手を組み、静かに目を閉じた。
(……レオン)
離れていても、声をかけられる気がする。
彼の声、視線、温もり。
全部が心の奥に鮮明に残っていて、それが怖さを打ち消してくれていた。
「湊さん」
塔の外から声をかけてきたのは、魔術師団の青年・カインだった。
いつもはおどけた表情の彼も、今日は真剣な顔をしている。
「結界の点検、手伝ってくれる? あなたの力、あの“光”があれば……補強になる」
「うん、やるよ」
レオンに守られてばかりじゃなく、自分も“立つ”。
そう決めた湊は、迷いなくうなずいた。
魔術陣の光に手をかざすと、淡い金色の光が指先からにじむ。
この世界に来たときから湊の中に眠っていた力――
“来訪者”としての力が、確かにそこにあった。
「……やっぱり、すごい」
カインの驚きの声に、湊は少しだけ微笑んだ。
不安はまだある。でも、心の奥の中心にあるのは――レオンへの想いだった。
(俺は、ここで待ってる。ちゃんと、自分の足で)
*
風が強くなる戦場で、レオンが剣を抜いた。
夜明けの光が、鋼の刃を照らす。
魔族の軍勢が闇の向こうに姿を見せ始めた。
空気が震えるような緊張の中で、レオンは深く息を吸い込む。
(……湊。俺は、お前のもとに戻る)
同じ時間、王城の塔の上で、湊もまた風に髪を揺らしながら空を見上げていた。
遠く離れた空の下で――
ふたりは同じ空を見つめている。
「レオン……」
「……湊」
名前を口にした瞬間、胸の奥のざわめきが少しだけ静まった。
まるで互いの声が、距離を越えて届いたように。
嵐は、すぐそこに迫っている。
だが、ふたりの想いはすでに揺らがない。
恐れよりも強い“つながり”が、ふたりの心を結んでいた。
まだ薄暗い空の下、騎士団の旗が揺れている。
戦場特有の緊張と、張り詰めた空気。
その最前線に、レオンは静かに立っていた。
「……夜明けと同時に来る。偵察の報告では、魔族の群れはかなりの数だ」
副官の報告を受けながら、レオンは空を見上げる。
その瞳は冷静で、鋼のように強い。
けれど、胸の奥ではひとつの名前が何度も響いていた。
(……湊)
風が吹くたびに、あの夜の温もりがよみがえる。
寄り添った夜。交わした言葉。
「必ず帰る」と約束したあの朝。
それが今、剣を握る力になっている。
「レオン団長……?」
「何でもない。……全軍、配置につけ」
馬にまたがりながら、レオンは短く息を吐いた。
この戦いは国を守るため。けれど――それだけじゃない。
この剣は、たったひとりの人のもとに戻るための剣だ。
(俺は、帰る。――必ず)
*
同じ頃、王城。
湊は魔術師団の詰め所の奥、塔の上の部屋にいた。
昨夜現れた黒ローブの男の件で、城の警戒は一気に強まっている。
廊下を行き交う兵士たちの足取りも早く、空気に小さな波が立っていた。
窓から見える空は曇っていて、戦の気配を伝えている。
湊は胸の前で手を組み、静かに目を閉じた。
(……レオン)
離れていても、声をかけられる気がする。
彼の声、視線、温もり。
全部が心の奥に鮮明に残っていて、それが怖さを打ち消してくれていた。
「湊さん」
塔の外から声をかけてきたのは、魔術師団の青年・カインだった。
いつもはおどけた表情の彼も、今日は真剣な顔をしている。
「結界の点検、手伝ってくれる? あなたの力、あの“光”があれば……補強になる」
「うん、やるよ」
レオンに守られてばかりじゃなく、自分も“立つ”。
そう決めた湊は、迷いなくうなずいた。
魔術陣の光に手をかざすと、淡い金色の光が指先からにじむ。
この世界に来たときから湊の中に眠っていた力――
“来訪者”としての力が、確かにそこにあった。
「……やっぱり、すごい」
カインの驚きの声に、湊は少しだけ微笑んだ。
不安はまだある。でも、心の奥の中心にあるのは――レオンへの想いだった。
(俺は、ここで待ってる。ちゃんと、自分の足で)
*
風が強くなる戦場で、レオンが剣を抜いた。
夜明けの光が、鋼の刃を照らす。
魔族の軍勢が闇の向こうに姿を見せ始めた。
空気が震えるような緊張の中で、レオンは深く息を吸い込む。
(……湊。俺は、お前のもとに戻る)
同じ時間、王城の塔の上で、湊もまた風に髪を揺らしながら空を見上げていた。
遠く離れた空の下で――
ふたりは同じ空を見つめている。
「レオン……」
「……湊」
名前を口にした瞬間、胸の奥のざわめきが少しだけ静まった。
まるで互いの声が、距離を越えて届いたように。
嵐は、すぐそこに迫っている。
だが、ふたりの想いはすでに揺らがない。
恐れよりも強い“つながり”が、ふたりの心を結んでいた。
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