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夜明け前の曇天が、うっすらと紅く染まり始めていた。
南方の荒野では、すでに戦の鼓動が高鳴っている。
地を踏み鳴らす騎士団の馬の蹄、剣と剣の擦れる音、そして――冷たい風。
その最前線に、レオンは立っていた。
「……来るぞ」
低くつぶやいたその瞬間、暗闇の中から魔族の群れが姿を現した。
数十、いや――百は超えている。
鋭い牙と黒い瘴気をまとった影が、波のように押し寄せてくる。
騎士団が剣を構える音が一斉に響いた。
(……俺は帰る。湊のもとに)
その想いが、剣を握る手を強くする。
ただの責務ではない。
彼がこの世界に立つ理由は、すでにひとりの存在と結びついていた。
「総員――突撃!」
レオンの号令とともに騎士団が動き出した。
剣が閃き、鉄と魔のぶつかり合う音が荒野に響く。
刃が魔族の鎧を切り裂き、レオンの一撃は一閃で敵を薙ぎ払った。
その背中は、まさに「盾」ではなく「光」そのものだった。
「レオン団長! 敵、増援です!」
「構うな。突破する!」
レオンの剣筋は研ぎ澄まされ、まるで風そのもののようだった。
血と砂の匂いの中で、ただ一つ、心の奥で鳴り響く名前がある。
(湊……)
*
同じ頃、王城。
塔の上の窓辺から、湊は朝焼けを見つめていた。
胸の奥がざわついている。
まるで――遠い場所でレオンの鼓動を感じるような、不思議な感覚だった。
「……なに、この感じ」
手を胸に当てた瞬間、光がにじんだ。
金色の淡い光が掌から溢れ、床に描かれた防御陣が共鳴するように淡く輝き始める。
「湊さん……それ……!」
カインが驚きの声を上げた。
湊の光が、まるで王城全体に流れ込んでいくように、結界を強く、鮮やかに染めていく。
これはただの「来訪者」の力ではなかった――
まるで、誰かと想いを通わせるような力だった。
(レオン……今、戦ってるんだよね)
湊は静かに目を閉じた。
すると――
暗闇の奥に、レオンの声が確かに響いた気がした。
――「湊」
(聞こえる……?)
――「俺は、必ず帰る」
胸の奥が熱くなった。
光が一気に強くなり、城の結界を包み込む。
その光は王城だけでなく、遠い南方の戦場までも――まるで夜明けのように、空を渡っていった。
*
戦場のレオンがふと、剣を構えたまま空を仰いだ。
朝焼けの空に、金色の光がゆらりと流れていた。
その光は、誰よりも温かく、優しく、彼の胸の奥を満たしていく。
(……湊)
ただ一瞬、恐れも痛みも消えた。
彼の中に、確かな“帰る場所”がある。
その想いが剣をさらに鋭く、強くした。
「レオン団長! あの光は……!」
「……大丈夫だ。勝てる」
その声には、一片の迷いもなかった。
*
塔の上。
湊の頬を朝の風が撫でる。
結界の光が収まったあとも、胸の奥にははっきりとレオンの存在が残っていた。
(……届いた)
どんなに離れていても、想いは届く――
湊はそれを、はじめて確信した。
「待ってるから。ちゃんと、帰ってきて」
小さな声は、空の向こうへと流れていった。
南方の荒野では、すでに戦の鼓動が高鳴っている。
地を踏み鳴らす騎士団の馬の蹄、剣と剣の擦れる音、そして――冷たい風。
その最前線に、レオンは立っていた。
「……来るぞ」
低くつぶやいたその瞬間、暗闇の中から魔族の群れが姿を現した。
数十、いや――百は超えている。
鋭い牙と黒い瘴気をまとった影が、波のように押し寄せてくる。
騎士団が剣を構える音が一斉に響いた。
(……俺は帰る。湊のもとに)
その想いが、剣を握る手を強くする。
ただの責務ではない。
彼がこの世界に立つ理由は、すでにひとりの存在と結びついていた。
「総員――突撃!」
レオンの号令とともに騎士団が動き出した。
剣が閃き、鉄と魔のぶつかり合う音が荒野に響く。
刃が魔族の鎧を切り裂き、レオンの一撃は一閃で敵を薙ぎ払った。
その背中は、まさに「盾」ではなく「光」そのものだった。
「レオン団長! 敵、増援です!」
「構うな。突破する!」
レオンの剣筋は研ぎ澄まされ、まるで風そのもののようだった。
血と砂の匂いの中で、ただ一つ、心の奥で鳴り響く名前がある。
(湊……)
*
同じ頃、王城。
塔の上の窓辺から、湊は朝焼けを見つめていた。
胸の奥がざわついている。
まるで――遠い場所でレオンの鼓動を感じるような、不思議な感覚だった。
「……なに、この感じ」
手を胸に当てた瞬間、光がにじんだ。
金色の淡い光が掌から溢れ、床に描かれた防御陣が共鳴するように淡く輝き始める。
「湊さん……それ……!」
カインが驚きの声を上げた。
湊の光が、まるで王城全体に流れ込んでいくように、結界を強く、鮮やかに染めていく。
これはただの「来訪者」の力ではなかった――
まるで、誰かと想いを通わせるような力だった。
(レオン……今、戦ってるんだよね)
湊は静かに目を閉じた。
すると――
暗闇の奥に、レオンの声が確かに響いた気がした。
――「湊」
(聞こえる……?)
――「俺は、必ず帰る」
胸の奥が熱くなった。
光が一気に強くなり、城の結界を包み込む。
その光は王城だけでなく、遠い南方の戦場までも――まるで夜明けのように、空を渡っていった。
*
戦場のレオンがふと、剣を構えたまま空を仰いだ。
朝焼けの空に、金色の光がゆらりと流れていた。
その光は、誰よりも温かく、優しく、彼の胸の奥を満たしていく。
(……湊)
ただ一瞬、恐れも痛みも消えた。
彼の中に、確かな“帰る場所”がある。
その想いが剣をさらに鋭く、強くした。
「レオン団長! あの光は……!」
「……大丈夫だ。勝てる」
その声には、一片の迷いもなかった。
*
塔の上。
湊の頬を朝の風が撫でる。
結界の光が収まったあとも、胸の奥にははっきりとレオンの存在が残っていた。
(……届いた)
どんなに離れていても、想いは届く――
湊はそれを、はじめて確信した。
「待ってるから。ちゃんと、帰ってきて」
小さな声は、空の向こうへと流れていった。
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