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濡れた路面に、まだ雨のしずくが残っている。
キスの余韻が胸の奥で熱を残し、息がうまく整わなかった。
――これは冗談じゃない。
――これは、舞台のネタでもない。
雨の夜、あのキスがすべてを変えた。
吉岡は、桐生と向き合ったまま、一歩も動けなかった。
桐生は額を吉岡の額に軽く押し当て、濡れた髪がふたりの頬をくすぐる。
吐息と吐息が混ざり、鼓動が重なっている。
「……震えてんじゃん」
桐生の声が低く落ちる。
耳に直接囁き込まれるようで、吉岡の体がびくりと跳ねた。
「……震えてねぇし」
「じゃあ……俺のせいだな」
そう言って桐生が小さく笑い、吉岡の頬に触れる。
雨で冷たくなった頬を、指先がなぞるたび――その部分だけが熱くなる。
「桐生……」
「なに」
「……こんなこと、しちゃだめだろ」
「なんで?」
即答だった。
あまりにも自然で、迷いのない声。
吉岡の中の“言い訳”が、簡単に崩れていく。
「俺たち、芸人だぞ。コンビだぞ。仕事だって……」
「それが、なんだよ」
桐生が、まっすぐな目をした。
舞台上で見せる鋭い眼じゃない。
笑いの裏に隠してきた、真っ裸の本音の瞳だった。
「お前が、俺のこと好きじゃなかったら……今、逃げてるはずだろ」
「……っ」
図星だった。
反論できない。
足元が少しだけぐらついた気がした。
桐生がゆっくりと距離を詰めてくる。
濡れたTシャツの肩口が触れ合い、微かな体温が混ざり合う。
雨の冷たさが、逆に肌の熱を浮き立たせていた。
「お前、さっきキス……逃げなかったじゃん」
「……」
「逃げられなかった、だろ?」
桐生の手が、吉岡の首筋にそっと回る。
濡れた髪を掬い上げるように撫でながら、親指が喉仏をなぞる。
そこは敏感な場所で、触れられた瞬間――吉岡の体がびくっと震えた。
「っ……やめろ」
「やめない」
「……バカ、ほんとに……」
桐生の指先が首筋から顎へ、顎から頬へと滑る。
そのまま顔を軽く上向かせられ、息が触れる距離になる。
桐生の唇が、ゆっくりと吉岡の下唇に触れた。
さっきよりも、ずっと深い。
湿った空気と、唇の温度と、心臓の音が混ざる。
桐生が少しだけ角度を変えると、唇が重なり、雨音が遠くへ消えていった。
「……ん、っ……」
思わず小さな声が漏れた。
それを聞いた桐生が、嬉しそうに息を混ぜる。
まるで確かめるみたいに、唇をなぞり、少し吸い上げるように甘く噛んだ。
その感覚に、吉岡の身体の芯が震えた。
「……っあ」
桐生の片手が吉岡の腰を引き寄せる。
互いの胸がぶつかるほど密着して、息が荒くなる。
吉岡は抗えないまま、桐生の胸元をつかんでいた。
「な……なんで、そんな顔すんだよ……」
「お前が、そんな声出すから」
桐生の囁きが耳に落ちる。
甘くて、低くて、ずるい。
一言で、心臓を溶かしてしまう声だった。
キスの合間に、桐生の指が吉岡の背中を撫でる。
服の上からでも分かるほど、優しく、熱い。
もっと深く、もっと近くに――そう思ってしまう自分が怖かった。
(俺……なにやってんだよ……)
頭では分かっているのに、体が離れようとしなかった。
むしろ桐生に縋るように、背中に自分の手を伸ばしてしまう。
「……なあ」
桐生が唇を離し、額を軽く合わせる。
互いの息が混ざる距離。
雨の冷たさなんて、もう感じなかった。
「俺、もう戻れねぇよ」
「……なに言ってんだ」
「お前に、触れたら……もう、ただの“相方”には戻れねぇって話」
息が詰まる。
でも、その言葉を聞いて胸が少しだけ痛くて――そして、嬉しかった。
「……俺も」
「ん?」
「……もう戻れねぇかもしんねぇ」
吉岡がかすかに笑った。
桐生がその言葉に少しだけ目を見開き、そして、静かに笑った。
ふたりは雨の中で、もう一度、静かに唇を重ねた。
今度は、迷いも抵抗もなかった。
たった数秒のキスが、まるで何年分もの想いを流し込むように、甘く深く、溶け合っていく。
――もう、相方だけじゃいられない。
キスの余韻が胸の奥で熱を残し、息がうまく整わなかった。
――これは冗談じゃない。
――これは、舞台のネタでもない。
雨の夜、あのキスがすべてを変えた。
吉岡は、桐生と向き合ったまま、一歩も動けなかった。
桐生は額を吉岡の額に軽く押し当て、濡れた髪がふたりの頬をくすぐる。
吐息と吐息が混ざり、鼓動が重なっている。
「……震えてんじゃん」
桐生の声が低く落ちる。
耳に直接囁き込まれるようで、吉岡の体がびくりと跳ねた。
「……震えてねぇし」
「じゃあ……俺のせいだな」
そう言って桐生が小さく笑い、吉岡の頬に触れる。
雨で冷たくなった頬を、指先がなぞるたび――その部分だけが熱くなる。
「桐生……」
「なに」
「……こんなこと、しちゃだめだろ」
「なんで?」
即答だった。
あまりにも自然で、迷いのない声。
吉岡の中の“言い訳”が、簡単に崩れていく。
「俺たち、芸人だぞ。コンビだぞ。仕事だって……」
「それが、なんだよ」
桐生が、まっすぐな目をした。
舞台上で見せる鋭い眼じゃない。
笑いの裏に隠してきた、真っ裸の本音の瞳だった。
「お前が、俺のこと好きじゃなかったら……今、逃げてるはずだろ」
「……っ」
図星だった。
反論できない。
足元が少しだけぐらついた気がした。
桐生がゆっくりと距離を詰めてくる。
濡れたTシャツの肩口が触れ合い、微かな体温が混ざり合う。
雨の冷たさが、逆に肌の熱を浮き立たせていた。
「お前、さっきキス……逃げなかったじゃん」
「……」
「逃げられなかった、だろ?」
桐生の手が、吉岡の首筋にそっと回る。
濡れた髪を掬い上げるように撫でながら、親指が喉仏をなぞる。
そこは敏感な場所で、触れられた瞬間――吉岡の体がびくっと震えた。
「っ……やめろ」
「やめない」
「……バカ、ほんとに……」
桐生の指先が首筋から顎へ、顎から頬へと滑る。
そのまま顔を軽く上向かせられ、息が触れる距離になる。
桐生の唇が、ゆっくりと吉岡の下唇に触れた。
さっきよりも、ずっと深い。
湿った空気と、唇の温度と、心臓の音が混ざる。
桐生が少しだけ角度を変えると、唇が重なり、雨音が遠くへ消えていった。
「……ん、っ……」
思わず小さな声が漏れた。
それを聞いた桐生が、嬉しそうに息を混ぜる。
まるで確かめるみたいに、唇をなぞり、少し吸い上げるように甘く噛んだ。
その感覚に、吉岡の身体の芯が震えた。
「……っあ」
桐生の片手が吉岡の腰を引き寄せる。
互いの胸がぶつかるほど密着して、息が荒くなる。
吉岡は抗えないまま、桐生の胸元をつかんでいた。
「な……なんで、そんな顔すんだよ……」
「お前が、そんな声出すから」
桐生の囁きが耳に落ちる。
甘くて、低くて、ずるい。
一言で、心臓を溶かしてしまう声だった。
キスの合間に、桐生の指が吉岡の背中を撫でる。
服の上からでも分かるほど、優しく、熱い。
もっと深く、もっと近くに――そう思ってしまう自分が怖かった。
(俺……なにやってんだよ……)
頭では分かっているのに、体が離れようとしなかった。
むしろ桐生に縋るように、背中に自分の手を伸ばしてしまう。
「……なあ」
桐生が唇を離し、額を軽く合わせる。
互いの息が混ざる距離。
雨の冷たさなんて、もう感じなかった。
「俺、もう戻れねぇよ」
「……なに言ってんだ」
「お前に、触れたら……もう、ただの“相方”には戻れねぇって話」
息が詰まる。
でも、その言葉を聞いて胸が少しだけ痛くて――そして、嬉しかった。
「……俺も」
「ん?」
「……もう戻れねぇかもしんねぇ」
吉岡がかすかに笑った。
桐生がその言葉に少しだけ目を見開き、そして、静かに笑った。
ふたりは雨の中で、もう一度、静かに唇を重ねた。
今度は、迷いも抵抗もなかった。
たった数秒のキスが、まるで何年分もの想いを流し込むように、甘く深く、溶け合っていく。
――もう、相方だけじゃいられない。
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