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第12話:番か、王座か──選ばされる運命
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朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
横になったまま、透真はゆっくりと目を開けた。
掛けられたシーツの中、まだ身体の奥に微かな余熱が残っている。
「……ん……」
寝返りを打とうとして、わずかに腰が軋んだ。
甘く痛む感覚。
昨夜、何度も繰り返された熱の記憶がよみがえる。
隣に目をやると、陽翔はまだ眠っていた。
その呼吸は静かで、普段の鋭さを感じさせない、穏やかな寝顔。
(……番、か)
まだその言葉には実感が持てなかった。
けれど、身体はもう、彼以外を受け入れられないことを知っている。
ふと、自分の首筋に手を当てた。
そこには、確かに残っていた。
──薄く浮かぶ、紅い痕。
“番の印”と呼ばれる、αにしか残せないキスマーク。
(……まじで、俺、こうなっちまったんだな)
思わず小さく笑ってしまった。
笑いながら、少し泣きそうにもなった。
昼前、ふたりは医師のもとを訪れた。
陽翔の手を離すつもりはなかった。
けれど、診察室の空気は、どこかひんやりとしていた。
「……確認したが、透真くんのフェロモン反応は完全に周期化している。
次の発情期は、おそらく二十日後だ。周期は安定していく」
「……二十日後、また……あんな風になるのか」
透真が目を伏せると、陽翔が静かに肩に手を置いた。
「いい。何度でも抱く。お前が苦しまないように、ちゃんとする」
「……ああ」
そのときだった。
診察室のドアがノックされ、学園長ともう一人──
陽翔の父親であり、現統領補佐官である**天瀬 壌一郎(じょういちろう)**が現れた。
「……久しぶりだな、陽翔」
「……父さん。どうしてここに」
「報告を受けた。
“ノンラベルと番になった統領候補”など、前例がない」
壌一郎の視線が、透真に向けられた。
冷ややかで、計算高い政治家の目だった。
「君に罪はない。だが──陽翔。
選べ。“統領の道”か、“番の男”か。両方は得られない」
「は?」
「王座に就く者に、異常体質の番は許されない。
君の番が透真であると正式に認定されれば、後継候補としての立場は失われる」
その言葉に、室内の空気が凍りついた。
「……それが、国の判断か?」
「ああ。最終通達だ。今週中に答えを出せ」
それだけを告げて、壌一郎は背を向けた。
残された沈黙のなか、透真は陽翔の手をそっと離した。
「……ごめん。俺、やっぱり……お前の足を引っ張ってるだけだ」
「透真」
「大丈夫。ちょっと……風、当たりに行ってくる」
陽翔は呼び止めなかった。
それが、優しさだと分かっていた。
けれど──
心の奥で何かがきしむ音がした。
横になったまま、透真はゆっくりと目を開けた。
掛けられたシーツの中、まだ身体の奥に微かな余熱が残っている。
「……ん……」
寝返りを打とうとして、わずかに腰が軋んだ。
甘く痛む感覚。
昨夜、何度も繰り返された熱の記憶がよみがえる。
隣に目をやると、陽翔はまだ眠っていた。
その呼吸は静かで、普段の鋭さを感じさせない、穏やかな寝顔。
(……番、か)
まだその言葉には実感が持てなかった。
けれど、身体はもう、彼以外を受け入れられないことを知っている。
ふと、自分の首筋に手を当てた。
そこには、確かに残っていた。
──薄く浮かぶ、紅い痕。
“番の印”と呼ばれる、αにしか残せないキスマーク。
(……まじで、俺、こうなっちまったんだな)
思わず小さく笑ってしまった。
笑いながら、少し泣きそうにもなった。
昼前、ふたりは医師のもとを訪れた。
陽翔の手を離すつもりはなかった。
けれど、診察室の空気は、どこかひんやりとしていた。
「……確認したが、透真くんのフェロモン反応は完全に周期化している。
次の発情期は、おそらく二十日後だ。周期は安定していく」
「……二十日後、また……あんな風になるのか」
透真が目を伏せると、陽翔が静かに肩に手を置いた。
「いい。何度でも抱く。お前が苦しまないように、ちゃんとする」
「……ああ」
そのときだった。
診察室のドアがノックされ、学園長ともう一人──
陽翔の父親であり、現統領補佐官である**天瀬 壌一郎(じょういちろう)**が現れた。
「……久しぶりだな、陽翔」
「……父さん。どうしてここに」
「報告を受けた。
“ノンラベルと番になった統領候補”など、前例がない」
壌一郎の視線が、透真に向けられた。
冷ややかで、計算高い政治家の目だった。
「君に罪はない。だが──陽翔。
選べ。“統領の道”か、“番の男”か。両方は得られない」
「は?」
「王座に就く者に、異常体質の番は許されない。
君の番が透真であると正式に認定されれば、後継候補としての立場は失われる」
その言葉に、室内の空気が凍りついた。
「……それが、国の判断か?」
「ああ。最終通達だ。今週中に答えを出せ」
それだけを告げて、壌一郎は背を向けた。
残された沈黙のなか、透真は陽翔の手をそっと離した。
「……ごめん。俺、やっぱり……お前の足を引っ張ってるだけだ」
「透真」
「大丈夫。ちょっと……風、当たりに行ってくる」
陽翔は呼び止めなかった。
それが、優しさだと分かっていた。
けれど──
心の奥で何かがきしむ音がした。
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