Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい

春夜夢

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第44話:目覚めのとき、番の鼓動

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南方領の医療棟。
 窓から入る光は、透真の瞳に刺さるように白かった。

 そこに──
 無機質なベッドの上、静かに眠る陽翔の姿があった。


---

「……陽翔」

 呼びかけても、返事はない。
 けれど、透真はそっと手を伸ばす。

 温度がある。
 生きている。
 それだけで、胸が締めつけられた。


---

 医師がそっと告げた。

「──“拒絶反応”は、人工的な抑制剤が“番の存在”を身体が忘れまいとして起きた副作用です。
 彼の体は、貴方を求めていた。それが結果的に、反応を引き起こしたのです」


---

 つまり、透真の存在そのものが、陽翔の“命綱”になっていたということ。

「……ずるいな、陽翔。
 俺に“信じてろ”って言っといて──自分が倒れるなんて」

 そう言いながらも、透真は陽翔の手を握った。


---

 その瞬間。

 ピッ、ピッ……と一定だった心拍モニターの音が、わずかに跳ねた。

 ……ピッ、ピピッ。

 「……え?」


---

 陽翔のまぶたが、ゆっくりと震えた。
 そして──

「……透真……?」

 掠れた声。
 けれど、それは確かに、生きて、彼の名を呼んだ声だった。


---

 透真は、泣きそうになりながら陽翔に微笑んだ。

「……おかえり。ずっと、待ってたよ」

「……ごめん。
 でも……戻ってこれた。お前が呼んでくれたから……」


---

 陽翔は力ない笑みを浮かべながら、握り返してきた。

「……あったかいな。やっぱり、お前の手は──」

「俺のも、陽翔のじゃないとダメみたい。
 他の誰かじゃ、ここまで来れなかった」


---

 ふたりは、何も言葉がなくても、わかっていた。

 呼び合う声。
 重ねた手。
 すべてが、心と心を繋ぎとめる“番の証”だった。


---

 その夜。
 医師の許可のもと、透真は陽翔の隣の簡易ベッドで眠ることになった。

「……番って、便利だな」

「は?」

「声が聞こえただけで、目が覚めるんだ。──ほんと、ずるいよ」

 そう呟いて、陽翔は静かに眠りについた。
 安心したように、透真の手を握ったまま。


---

 ──それは、ふたりが“離れていた時間”に終止符を打った夜だった。
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