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しおりを挟む「お前には本当に才能がない」
「才能が無いなら無いなりに考えて行動しろ」
「出来ないなら出来るまで工夫しろ」
「気絶なんて怠けをするな」
「思考を止めるな」
「愚鈍で凡人なお前が思考を止めるのは怠慢だ」
「足掻け」
「もがけ」
「考えることすら出来なければお前に価値などない」
「貴様にやった私の知識は安いモノでは無い」
「お前のような凡人は己の命すら有効活用せねばならない」
「だから、死ぬなよ。師を残して先に逝くなど許さないからな」
そんな叱咤激励をしてくれた師匠の元を離れて20余年。
当時「このクソババアが」と何度心内で愚痴を吐いたことか。
そしてその心内を見透かされてひどい仕打ちを何度受けたか。
けれどその厳しくも優しい言葉が、指導が38歳となってもオレを護ってくれる。
30過ぎても親に護られているというのも恥ずかしい気もするが仕方がない。
この世界で英雄英傑と讃えられている同窓も基礎は師匠から学んだのだ。
根無し草の高々B級冒険者でしかないオレはそれを頼りにするほかない。
それにしても38歳か。
オレも歳を取ったものだ。
最近は簡単に息がきれるようになったし、膝や肩が痛くなることもある。
筋肉痛が二日後に現れる事だってある。
まさしくおじさんだ。
けれどオレの、オレたちの麗しの師匠様は相変わらず綺麗なのだろう。
世界を救うという身勝手な願いを押し付けるために異世界から拉致されたチュウガクセイ。
何度も世界の危機を、国家の危機を救った元勇者。
あまりにも長く生き過ぎた所為で人間という種族に嫌気をさした賢者様。
それでも個人には情を捨てきれない幼く可愛らしく可憐な天使のようで、凶暴な般若のような吾らがお師匠様は終わりのない生をただ消費しているのだろう。
「冒険者さん。そろそろ街に着きますよ」
久しぶりの回顧は御者の少年の声で遮断される。
別に感傷に浸っていたわけでも無いので気分は変わらない。どうせ師匠には会おうと思えばいつでも会える。そんなことよりは真面目に仕事をしている少年を見ている方が眩しくて力になる。
「そうかい。ありがとう」
「それにしても凄いですね。旅路がこれほど安全だったのは初めてですよ」
「これでも一応B級だからね。それにこの辺りは比較的安全のようだからね」
「そう、でしょうか。この道は魔獣が出るからと、ボクのような子どもしか使わないって」
「それについては比較対象の問題だね」
「ヒカクタイショウ?」
「ま、おじさんには色々とあるんだよ」
「おじさんって。……まあ、いっか」
もったいぶって言ってみせたものの特に何かをしたわけではない。ただ単純にここ一帯に生息するという魔獣の知識があったので周辺の情報から遭遇を回避しただけ。
ここら一帯は発展が遅れているので魔獣や生物の知識は広まっていない。少年の生まれた村では真面な教育も無かったという。そんな状況の少年からすれば何か特別なことをしたようにも思えるのだろう。が、実態は地味なだけなので言わぬが仏という奴だ。
少年が憧れを向けるべきは同窓たちの様に立派な気概を持ったもの。
オレのような落ちこぼれなど気にしなくていい。
何より面倒は困るのでね。
師匠が繰り返し諭したように平凡で愚鈍な人間。
我が身大事な小心者。
さて、今回ものんびりと出来ることだけをしていきましょうか。
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