38歳。B級。童顔おっさんの冒険しない冒険

双葉珠洲

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 小国ロイシン。
 大陸の西端にあり戦争や大魔獣といった世界の危機とは縁遠い平和な国。
 平和ならば技術や文化文明が発達しそうなのだけれど資源的にも恵まれていないのでそもそも人口が少ない。比較的平和という以外の理由では人を集められるほど魅力が無いのでそれも仕方がない。
 発展途上というよりは残された、遅れた国といった表現が正しいかもしれない。
 そんな国だから英雄英傑たる同窓が手を着けていない国でもある。
 そしてそんな国だからオレのような凡人がお使いとして使われる訳でもある。
 お使いといってももちろん買い物などではない。
 その地域の地形や生態系、魔獣の分布や発生頻度などの確認が主な目的。要するに師匠の趣味である情報蒐集のお手伝い。

 師匠は人間社会を嫌っており距離を置いている。
 凡人の感覚からすれば師匠は魔獣などよりも危険。けれどその危機察知能力すらもぶっ壊れている人間もいるわけで支障を自分のモノにしようとする阿呆が後を絶たない。そこから生まれる面倒な結末は言うに及ばず。
 そういった経験から師匠は例外を除いて山奥の僻地や湖の中などに引きこもっている。
 師匠は人間社会を嫌い世捨て人になっているくせに世界への好奇心は無くならない。寧ろそれは年々強くなっている。それはおそらく師匠には終わりが無いからなのだろう。
 そうして興味関心を繋ぎ止めなければいよいよ人間ではないナニカになってしまうと考えているのだろう。
 凡人たるオレには師匠の心内など計り知れないけれど。
 それはそれとして。

 今回やって来たのはスレオンという名のロイシン3番目の都市。3番目といってもロイシン国内に都市と呼べるのは5つもないというので規模はかなり小さい。それでも最低限の防壁がありそれなりの数の集落がある。
 スレオンには冒険者組合の出張所があるので最低限は整った街であるとはいえる。

 冒険者組合とは非政府的な軍事組織。
 ざっくり言えば軍隊のような職業を好まないならず者に面倒な仕事をこなさせて平和を作ろうという組織。報酬だけでいえば軍隊よりも良いが諸経費は自分持ちであり支援や保証が無いので一概に良い組織とは言えない。
 それでも力があれば稼げるという事で一部の子どもには人気のある職業だったりする。
 その人気の一因は同窓たちが冒険者として活躍しすぎているという事もあるのだが、 オレとしてはおすすめしない職業だ。


 旅路をともにした少年と分かれてひとり冒険者組合所に立ち寄る。
 少年からは次の移動も一緒にと懇願されたが丁重にお断りした。あてもなく目的の無い旅がオレの旅の目的なのでね。
 組合所の受付嬢に冒険者証を提示して手続きをしてもらうとやや怪訝そうな顔をされた。


「レイデさんですね。お歳は、……38歳ですか。随分、随分と、お若く見えますね。てっきり私の弟と同じくらいかと」
「それはどうも。おじさんとしては軽く見られるからもう少し年老いた感じになりたいのだけれどねぇ」


 組合の受付嬢と軽い雑談をしながら手続きを待つ。
 冒険者組合の発行する証明書は小国が持つ戸籍などよりも確かだったりする。保有魔力で個人の特定するような技術は世界最高峰のものでそれなり程度の人々では改ざんはおろか破壊も出来ない。
 開発運用には同窓が携わっているので性能は保障されている。
 そんなわけでロイシンのような小国では組合の証明書の方が身分証明書としてかなりの効力を持っている。小国の中には組合の証明書を国の身分証としているところもあるくらい。
 なのでどれだけ見た目で侮られてもオレは38歳のおじさんなのである。


「レイデさんはB級冒険者様なんですよね。私、B級の方は初めて見ました」
「それはそれは、こんなおじさんが初めてで悪いね。この辺りは比較的平穏だから英雄様や英傑様はなかなか来ないからね」
「スレオンでも平穏になるんですね。一応ロイシンでは危険地域都市になっているんですが」
「ま、そこは生まれの違いかな。おたくらも必死だろうから平穏なんて言ったおじさんが悪かったね」


 受付嬢は複雑そうな表情を浮かべるがこればかりは仕方がない。

 確かにスレオンに生まれ育った人々からすれば危険のある生活と考えるのは間違っていない。真面な力を持たない人を簡単に屠れる獣はそこらへんにいる。それらは冒険者でいえばD級が対応するもので安全に対処できるであろうC級以上の冒険者はロイシン国内に数えるほどしかいない。そのためロイシン国内ではD級案件でも被害が出ている。
 実際に町村が滅んだという報告はある。
 とはいえD級の案件は放置しておいても国は落ちない。大量発生していてもA級以上一人が出張ってくれば簡単に終わる。A級とはそういった力の持ち主。あるいはB級でも無茶をすれば対処できなくもない。
 詰まる所、世界的には対処が簡単な部類になる。魔獣などの被害が酷い国ではB・C級が都市周辺に跋扈しD級は見習いの仕事として扱われる。
 良くも悪くも師匠や同窓たちの価値判断に影響されているのでオレでもロイシンは安全な場所と思ってしまう。
 そんな状況なのでスレオンの住民と認識がずれるのは仕方がない。
 そしてそれを埋めることはできないので関わらないことを選択する。

 とりあえず当たり障りのない雑談を続けて受付嬢から期限付きの市民権を受け取る。
 これで色々と仕事がしやすくなる。

 さて、これからどうしたものか。

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