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しおりを挟む市民権を得て自由になったオレはスレオンでのんびりと生活をしていた。
そもそもスレオン目的があったわけではない。ロイシン内で少し探索をしたかったので最寄りの冒険者組合の施設がある街に寄っただけ。市民権を得られれば留まる理由もない。
一応街の役場などに色々な資料があるのかもしれないけれどスレオン程度の行政が集めている情報を師匠が知らないわけがない。となれば自分の足で稼がなければならないのだけれどオレは勤勉ではないのでのんびりできるときはのんびりする。
という訳でおじさんは昼間から酒場に入り浸り夜には娼館をはしごしていた。
そんな堕落した生活をしているのだから当然というべきか組合から呼び出しを受けた。
「レイデくん。貴方は大人ですから私が言うようなことではありませんが、言わせていただきます。仕事をしてください」
「いやーおじさん平穏は久しぶりだからね、つい」
「ついじゃありません。もう、お酒はいいとしてもほぼ毎日しょ……なんて。不潔です」
「不潔て。まあ、おじさんだからね。それは仕方がないよお嬢さん」
最初に対応を受けた受付嬢、スレオンの組合所の看板娘であるマーサ嬢。
娘といっても不思議ではない程の年齢差で滔々と叱られるのは恥ずかしくないわけではないが見た目だけで言えば師匠の方が幼いのでそれほど気にもならない。それにオレの見た目もあって子ども扱いしてくるので背伸びしている様で可愛らしく思えてしまう。
娼館にうろたえているあたりが特に愛いらしい。
冒険者が活発に活動する街に娼館はつきもの。それは冒険者の大半が男性であることや仕事が長期にわたると色々と溜まり需要が上がることに由来している。
女性がそういう仕事に搾取されているかといえばそうでもない。街によっては男娼もいるし、やる気のない人は淘汰されていくので強制的な労働では効率が悪い。
特に娼館などは冒険者組合と提携しているところが多く、仕事を終えた冒険者がその店を利用してお金を落とすことまで考えた報酬が設定されていることがある。もちろん女性冒険者向けのお店だってある。
スレオンのそういったお店も当然冒険者組合と提携している店舗ばかりだった。
その中で初心な反応をするという事は崇拝対象として大事に扱われてきたのだろう。
まあ、それはおじさんには関係ない。
そこを弄る趣味もない。
「仕事をしろと言うのであればおじさんも吝かではないさ。けど、さ。ほらおじさんこれでもB級だろう。ここを拠点にしている冒険者の仕事を取るのも気が引けてね」
「それは、その、そうですが」
「それにこの国ではB級冒険者は珍しいのだろう。安く簡単に仕事を引き受けるとそれが前例になってしまいかねない。おじさん、同輩に迷惑をかけるつもりは無いんだよね。それにおじさんひとりではここを完全に平和にすることは出来ない。下手に力を尽くして慢心してしまうのもいけないだろう。これでも考えているつもりなんだよ」
少しばかり真面目な口調に変えて問いかける。
勿論内容はそれっぽい言葉を並べただけだ。
本心は無い。
真面目に真っ当に働く同輩B級冒険者。彼ら彼女らが不当な状況境遇を受け入れるはずがない。それが前例で決まりだからといっても自身が納得しなければ動かない。
冒険者はそれが出来る職業だ。
なのでこれはどちらかというか遊びというか嫌がらせというかだ。
箱入りなマーサ嬢がどうやって切り返すのかを見て楽しむためのものだ。
真面目で初心な娘がどうやって切り抜けるのかなと観察していると厳つい顔した男性がやって来た。
「あまりマーサを虐めてくれるな。この娘はこの街の看板なんだ」
「別にオレは虐めているつもりなんてないのだがね」
「そうかい。その気は無くとも怯えているので止めてあげて欲しい」
「それは失礼。部外者なんでな、過保護をしているとは知らなんだよ」
厳つい顔の男性の年の頃は40代半ばだろうか。
背丈はオレよりも頭一つ高く180センチくらい。
体つきは冒険者にしては細め。重戦士や盾役ではなく遊撃の手合い。戦法としてはオレに近いだろうか。とはいえ同輩のような厳しさやずる賢さ意志の強さは感じられない。
精々C級といったところか。身体が傾いていることから脚でも痛めて現役を退いたのだろう。身体に不安が無く努力を積み重ねられたらB級に上がれただろう。努力を積めばB級の上位、あるいはA級まで上がれた可能性はありそうだ。
少なくとも体格だけでいえばオレよりは恵まれているのだし。
B級を見たことが無いというのであればこの男性が能力的には街の最上位。現役を退いているとなればこの人物がこの組合所の所長になるのだろうが。
「それで、ここの所長さんはオレに何をさせたいんだ。それなりの金銭を使っているのだから街としても悪いわけではないだろう」
「……確かに街は随分潤っているらしい。が、俺たちは冒険者組合だ。冒険者としての仕事は別だ」
「仕事といっても所詮は冒険者だろう。仕事に対する規則はあるとしても仕事をすることに対する規則は無いはずだ。それはどの国にも共通する。そうでなければ冒険者ではない。違ったかな」
「……」
これくらいの切り返しで黙ってしまう所長。
やはりこの国この街は平穏なのだろう。この程度の人間力では魔獣の被害に悩まされている国は当然先進国の共和国や連邦では活動できない。
御嬢様や気の良い所長様のような人の方が人間としては良いのだろうけれど。
ひとまず交渉の席の格付けは出来た。
とはいえおじさんがおじさんと戯れても面白くは無いわけで条件を提示する。
「まあ、こちらも何が何でも嫌という訳ではない。お願いを聞いてくれるのであればこちらも冒険者の教導くらいはしましょう。なに、難しいことはない。情報が欲しいだけさ」
「……情報というのは何についてだ」
「取り敢えずはここ周辺に生息している動物の情報でいいかな。過去の情報ではなく今働いている農家の生の声が聞きたい」
「街がまとめている情報では駄目なのか?」
「それじゃあ面白いものはないだろうからね。それに現場の生の声というのは意外に馬鹿に出来ないのだよ。新種という概念がないだけで他と違う事を知っている、なんてことも往々にしてあるからね」
「分かった。直ぐに指示を出そう」
所長は意外にもあっさりと受け入れた。
まあ、情報収取だけでいえば手間がかかるだけで経費は掛からない。組合としては面倒な依頼を押し付けて解決してもらうのが理想ではあるのだけれどこちらが提示した教導というのが魅力的なのだろう。
結局この街を守るのはここにいるものたち。彼ら彼女らが強くなることこそが自分たちの平和を守ることになる。英雄英傑は常に傍にいてくれるわけでもないのだしね。
そんなわけで仕事が決まってしまったので暇があるうちに街の食堂と娼館を回り切ってしまおう。
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