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しおりを挟む「流石はB級冒険者だよ、レイデくん。あのブルボがこうも簡単に狩れるとはな」
「そっすね。すっげ楽でしたね。見た目はこんなちんちくりんで何を教わるんだよとは思ったすけど」
「おいおい、それは流石に失礼だぞカントル。見た目はこんなのでも歴としたおじさんらしいんだぞ。甥っ子より子供っぽいけどさ」
「随分と酷い言いざまだね。おじさんからすれば君たちが老け顔過ぎるのだよ。君たち実は40代なのだろ」
「「黙ってろよ(す)、子ども!!」」
スレオンの組合所長から教導の正式な依頼が来て数日後。
オレは真面目に教導の仕事をしていた。
生徒は2人。
まずスレオン単体最強のグロップ。
斧をメイン武器として使う個人冒険者。単体での性能はスレオン随一。32歳でC級というのは正直微妙。真面目で堅実な上にソロで活動しているためB級に上がるような活動をしていないためだろう。
真面目で実直であるため軍隊などの方が似合いそうなのだが妻子持ちで妻の実家を守るためにとスレオンに移住しているのだとか。現状の能力でもスレオン周辺では余程が無ければ危険はないので判断としては間違っていない。
もう一人はスレオンで集団戦最強班でまとめ役をしているカントルという男性。こちらは28歳でC級。メイン武器は槍で遊撃。飄々とした口調と軽薄そうな態度とは裏腹に槍捌きはそれなりに出来る。
こちらも冒険者が活発な地区では平均下の判断を受けるだろうがスレオン周辺で育ったにしては上々。言動からすると軽い印象を受けるがその実はかなりの真面目と見える。細かい気遣いや視野の広さもあり集団戦の長であることは納得できる。
ただ、その内心真面目さはスレオンでは知られていないようであまり評判が宜しくない。
花街でもあまり評判はよくなかったりする。
それはそれとして。
教導を2人に絞ったのはやる気のない多数に教えても無駄なため。さらに言えば長い間付き合うつもりはないのでお手軽に能力を引き上げれそうなものに絞りたかったため。
一応もう数名候補に挙がっていたのだけれど教導するのがオレという事で辞退した者がいた。曰く、子どもに教わることはない、とのこと。その程度の気概の者に付き合う義理はなく遠慮なく見送った。
所長は渋い顔をしていたけれどオレには関係のない話だ。
そんなわけで少人数での教導になったので仕事がスムーズになっている。
今日対面した魔獣はブルボと略されるブルーボア、青い猪。スレオン周辺で多く見られる危険な獣といえばこれ。体長は3~5メートルでかなりの筋肉量を持つため軽い突進で人を屠れる。
ちなみに雑食であるため作物だけではなく人間も食べる。特に人間が好きという訳ではなく食えると分かり食えれば食うというくらい。
農家の人でも使えるようなまともな兵器が広まっていないスレオン、というよりはロイシンではかなりの脅威ともいえる。
「オレとしては青猪程度で何を騒いでいるんだ、という気分だよ。申し訳ないけれどね。常識の違いだろうけれど戦士国、大陸の反対側の国で青猪は家畜だからな」
戦士国。
ロイシンとは反対の大陸の端に位置する地域。明確な国の名前ではないが争いを好む阿呆ばかりが集まるのでそう呼ばれている。
その地域において青猪の扱いは家畜。不注意を働けば怪我をするが制御できるという扱い。何より美味いという事が重要で管理が進められている。
家畜化が進んでいるのでどういった行動をとりやすい、どう扱えば上手く捌けるかの解明が行われている。その知識もあって今では最低限の力があれば安全に扱える動物であるという認識に落ち着いている。
オレが彼らに教えたのはその情報とそれの使い方。
といっても大したことではない。効率よく牙をへし折る方法や隙が出来やすい動きを教えただけ。青猪の雄は牙の大きさが自尊心になっているらしく、その牙をへし折るとある程度大人しくなる。
あとはそれを彼らが動きの中で使いこなせるように反復するだけ。
彼らもそれなりには真面目な冒険者なので数をこなせば身につく。なまじ自身や周囲の人の危険が身近な分やる気と気概が違うので短時間でもしっかりと身に着けてくれる。
「家畜とかふざけてるっす、とか思いましたが、これは分かるっすね。これだけうまい肉はいつでも食いたくなるっすね」
「確かに。食べ方もあるのだろうが、それにしても、これは……」
「そっすね。一先ず食べてからにしましょうっす」
青猪討伐訓練でかなりの量を屠ったので肉を酒場に持ち込みディナー。
師匠や大半の同窓は青猪を食材としてしか見ていなかったのだけれどスレオン周辺ではあまり食卓に並ばないという。それは青猪が人を襲い食すこともあることから間接的なカニバリズムを忌避している事や殆どの討伐において肉の状態が悪くなるので廃棄しているという。
多分戦士国の人が聞けば発狂するだろう。
青猪肉は高級とまでは言わないがかなり人気のある食材だ。
本日は師匠考案の挽肉玉焼き。
その名の通り肉を細かく球状に形成して焼き上げる肉料理。肉の細かさや繋ぎ、焼き方や形状で美味しくも不味くもなる歴とした料理。
本日は粗挽き。肉を細かくするための道具が揃っていないので仕方がない。家畜化された青猪は睾丸を潰され脂肪を蓄えさせられているためある程度柔らかいが天然物はかなり筋張っているので下ごしらえが大変。
それでも十分に美味しく頂けるのだから頑張って家畜化するのも分かる。
拳大に丸められた挽肉は上下こんがりと焼き目が入っている。そこにフォークを入れ分割するとふわっと湯気が上がりきらきらと光る透明の肉汁が流れ出る。
肉汁が流れ出る内部の肉にはほんのり赤身が残る程度。
汁が少しでも出てしまわないように素早くフォークで片方をさし口へと運ぶ。
口に入れた瞬間に広がるのは肉の香ばしさ。
そこから熱さと濃厚な肉汁。
上下の焼き面がこんがりサクサクとまで焼かれていたことで肉汁が内部に取り残された為口の中に広がるのは肉汁の圧倒的な暴力。
その油を嫌な気分にさせない香草と気分を揺らす香辛料。
噛めば噛むほど口に広がる憎々しさ。
それでも挽肉にしたことで噛むという行為に惑わされず肉の味を集中して感じられる。
改善する余地はあるがこれでも十分に美味しい。
初体験の2人は黙々と食べている。これで彼らはより精を出して活動するだろう。簡単に駆除出来て食料になるとなれば儲けが生まれる。
街も安全に危険生物が駆除出来て食料事情が改善できるとなれば嬉しいことだろう。
こうしてオレの仕事はあっさりと完了した。
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