シュピーラドの恋情

あこ

文字の大きさ
13 / 30
第1章

13

しおりを挟む
ヴェヒテが「リネーとユスティへ領地の課題や問題を教えてやってくれませんか」と言い司祭を城へ招く様になった。
辺境へ帰ってきたニコライは、ドンの手足となって働く時間が多い。
ヘレナとカルロッテはハイルの勉強している部屋に時々現れて、エディトと共に彼の勉強を見る様になった。
マーサは相変わらず、ハイルの事を第一に考え支えている。
ユスティはハイルを守るには学力も必要だと思った様で、勉強をする様になった。


「ぼくも、ユスティさまみたいに魔法を使ってみたいな」
突然ハイルがそう言い出した。
ユスティは珍しく口籠ったが、エディトは「そうですね」と前向きだ。

ハイルの健康状態はずっとずっと良くなった。
栄養失調どころかミイラもいいところだった体は、痩せ気味、のところまで回復した。
食事、ポーション、そしてマーサの治癒魔法、リハビリ、これらの相乗効果だろう。
食事だけでの回復が難しくハイルにはポーションも必要だと知ったリネーが『甘くて美味しい』ポーションを作ったので、ハイルも飲んでいる。
これはハイルの回復を大いに助けた。
普通、ポーションの類いは基本的に「まずくもないけど、美味しいとは思わない」味。こればかりは仕方がない。だから。この「まずくもないけど、美味しいとは思わない」だってポーションが開発された頃を思えば格段になのだ。
しかしリネーは学園在籍中に「薬の大嫌いな弟が飲める風邪薬」を研究課題とし、薬草学の単位を取った。
その際彼が使用したのが『逓増ていぞう』という加護だ。
“大変苦い風邪薬”をほんのり甘い、というところまでに改善したリネーは、甘味を足すところで『逓増』の加護を使いそれを混ぜ製成する事に成功。
これにより『甘さを感じる事が出来る子供用風邪薬』が完成した。
『逓増』ではなくても『累増』の加護があれば十分、また『倍加』でもそれなりに『甘さを感じる事が出来る子供用風邪薬』が生成出来るので、彼はに対して無料でレシピを公開。今では辺境の子供用薬は「飲みやすい」と評判である。
と、まあそんなリネーがいるので『体のために頑張って飲む』ポーションよりも『美味しいから飲みたい』ポーションの方が、健康になるにも楽しみがあるだろうと『甘くて美味しいポーション』を作ったのだ。
ハイルが美味しい美味しいと飲むので、近々城下の薬師そして評判が良ければ領地で働く全ての薬師にこのレシピを無償公開する予定である。

リネーの甘いポーションのおかげで健康体を取り戻しているハイル。しかしあのミイラのようなハイルを知るユスティは不安だ。
精霊魔法だろうが、そうではない魔法を使うのであっても、そこにはがつきまとう。
もちろん魔法の威力によってその程度に差はあるが、魔力が足りない時に魔法を使うと、体力を魔力へ変換する。これは自分でそうするのではなく“そうなってしまう”ものだ。
体力のないハイルが魔法なんて使ったら、体力がごっそり削られて死ぬのではないかとユスティは心配しているのである。
加護については判定する方法があるのに、魔力の量については判定する方法がない。
魔法を使いだした時から、使いながら「自分はだな」と覚えていくもの。それがこの自身の魔力の量だ。
時には体力をごっそり削られながら。それこそ『身をもって知る』ものでもある。
成長と共に増える魔力量だが、一度魔力切れを起こせばなんとなく「あ、これ以上使うと危険」と体が覚えるため、一度は限界を知る必要があると言われていた。

それを知るからこそ絶対にハイルに魔法を教えないでほしい、と全身から伝えるユスティにエディトは微笑み、二人の使っている長机の、二人のちょうど間くらいに2本の瓶を置いた。
一つはピンク、もう一つはよく晴れた青空の様な色だ。
「あ!美味しいポーションだ」
「なにそれ?」
「リネーさまがぼくが元気になる様にって、美味しいポーションをつくってくれたの」
え、ずるい。という言葉をユスティはなんとか飲み込んだ。言ったと知れたらどうなるか。
リネー特製“ユスティ用”ポーションはである。恐ろしくマズイのである。
ポーションが必要になる様むちゃな事をした時の“お仕置き用”として生成されている、のポーション。
リネーが「効き目もいいが、仕置き用にも抜群の効果が期待される」と太鼓判を押したそれは、先の通り当初はユスティ用であったが今は辺境地のここ城下でも販売されている。
効き目は太鼓判を押した様にとてもいいので冒険者にもその“効き目”は好評であるが、やはり一度飲んだら二度と飲みたくないものの一つとして数えられていた。
(あれ以上マズくなったら飲める気がしない)
ユスティはそう思って口を閉じる。リネーが「ずるいというならユスティのも“改良”しないといけないな」なんて言うだろう事は、そっと胸の内に秘めておくに限るのだ。
「もう一つの方は、魔力回復用ポーションですよ。こちらの青い方ですね。『カレンジュース味』なんですって」
「あ、ぼくが今好きな果物の味だ!」
「……なにそれ、格差社会?」
「かくさしゃかい?」
「ううん、なんでもないよ。兄上はハイルを可愛がってるんだなって思っただけ」
なぜ実の弟なのに、と思うがきっとこれも口に出すべきではないと過去の事からユスティは勘づいている。
確かに言ったら「その、実弟が、こうしたものを必要とする時はお説教が必要な無茶をした時だからだな」とにこやかに言うのだ。
そして次の味はもっとひどくなる。悪循環しかない。
時には沈黙が身を守るのである。

「というわけで、ハイル様も簡単な魔法から使ってみましょう」
「はい」
嬉しそうに体を揺らすハイルを見て、格差について少し切なくなったユスティの気持ちがちょっと上がった。
嬉しいと体を揺らしてまで言うハイルが可愛くて仕方がない。
この単純さが、ハイルといる時のユスティである。
「ハイル様は以前お渡しした『まほうと』の絵本は読まれましたね?」
「はい!読みました。マーサに大丈夫って言ってもらっています」
「でしたら、気をつけないといけない事、自分の体に異変を感じたらどうするか、ちゃんと覚えていますね?」
「はい」
『まほうと』という絵本は、絵本の主人公のつもりになって考えながら読み進める絵本。
魔法について分かりやすく書いてあるもので、考えた事を大人と答え合わせしながら正しい知識に触れるきっかけ、そして魔法に触れる前に覚えておかないといけない事を覚える、まさにこれから魔法に触れ始めると言う子供に必要な入門書の様な役割がある。
文字が読める様になった子供の多くが触れる可能性がある本だが、実際触れる事が出来るのは『本を買う、もしくは借りる』余裕がある家だけだ。
この領地では、領地内の教会には必ず置いてあるので、勉強にくる子供には読ませている。

「簡単な魔法から使っていきましょう。初めから出来る人はいませんから、失敗しても、出来なくても大丈夫ですよ」
エディトの優しい声に大きく頷いているハイルだが、顔がこわばっている。
緊張してガチガチになっている姿は初心者そのもの。悪い意味の緊張や恐怖を感じていない様でユスティはホッとした。
「では、まず魔力を指先に集中させるところから始めましょう。これが一番難しい事です」
「え?」
不安しかない、とハイルの表情に書いてある。素直なハイルの表情にユスティの顔がだらしなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...