屋烏の愛

あこ

文字の大きさ
25 / 36
番外編

掌の行方:後編

しおりを挟む
「なら、私も一緒に選ぼうか」

子供が苦手──どう接して良いか全く見当がつかないのだ──な兵馬にもおかまい無しに「わかさま」と笑顔を向ける純粋な千代は、兵馬がぎこちなく相手をするだけで至極喜ぶ。
そんな姿を何度も見れば兵馬もと思うわけで、だから兵馬はこうして提案しゆづかはそれにはにかんだ顔でこくんと頷く。
最近漸く、こういう“普段良く見るゆづか”以外の顔を兵馬は見れる様になった気がしていた。それだけ剥がせているのだ、と思うとなかなかどうしてもっともっとと欲が深くなる。
昔の兵馬ならまた違う事を思うだろうけれど、今の兵馬はそんな事も楽しくて仕方が無い様だ。

「そういえば、ゆづか。髪の結い方を変える気はないのかい?」
「え?」
「もったいじゃないか。もっと可愛い物ならいくらだってあるのに。ゆづかの歳の頃ならもっと色々と」

お香もだが兵馬も「もっと可愛らしい着物にしたら良いのに」とか大振りの飾りを選んだりしてゆづかを甘く困らせる。可愛い物は可愛い、綺麗な物は綺麗、という感覚をゆづかはしっかり持っているのに、ゆづかはその感覚で今も自分の物を選んだりしない。なんとなく、地味で個性的ではない、の方をゆづかは選ぶ。
それが今の自分を──────女としか生きられないように育てられた所為かもしれない。
しかし最近少しだけ、気持ちが違ってしまうからゆづかは困るのだ。困るだけだから強引にも思える勢いで渡されても、ゆづかはそれを身に着ける事が出来てしまう。
ゆづかがどう思うかは定かではないが、ゆづかはそんな自分も困惑しつつ受け入れようとしていた。
「困らせてしまったね──────うん、そうだね、お前が困るのは嫌だから、今度また、ゆづかが『うん』と言ってくれる様な何かを探しに行こうか」
「ぁ……兵馬様、私」
「あぁ、そんな顔をしないでおくれ?ほら、ゆづかが嫌じゃなくて、私がお前に着けて欲しい物。そうやって選ぶくらいは許してくれるだろう?」
口を閉じてしまったゆづかに兵馬は
(もっと強引にしてやる方が良い物なのか……この部分が今も難しい物だねえ。ああして困られると決意が鈍る自分が一番の問題なのだけれど……)
なんて独り言ちて、隣で自分へ視線を向けるゆづかの頭をゆるゆると撫でる。
ここでおしまいにして先に言った様に千代紙を選ぼうと思うのに兵馬の手は千代紙に移らず、結局頭からその細い肩に移動した手で自分の方へ引き寄せた。
体にもたれる様にして、肩よりちょっと下あたりにゆづかの頭が申し訳なさそうに当たる。遠慮されてると思うそれすら兵馬は愛おしい。
いつか──────仮に何年かかっても、ゆづかからこうした触れ合いを求められたいと兵馬は欲が出てきている。

「ゆづか、今度はこんな柄の飾りを買おうか。それかこちらの柄みたいな生地の鼻緒が付いた、のめりの下駄でも良いね。これならゆづかの好きそうな色合いだろう?」

兵馬が手を伸ばし、文机から取った千代紙をゆづかの前に数枚並べて指で示す。
男の指だが若旦那らしいと言うのか、どこか細いその指の影が真っ直ぐ愛らしい柄の千代紙に落ち、ゆづかの視線はその指から兵馬の横顔に移った。

「兵馬様、私の物の話ではなくて、千代ちゃんにあげる千代紙を選ぶって言って下さったのに」

ゆづかの稍困惑気味の声に、肩に置いた兵馬の手がピクリと少しだけ力がこもる。そして見上げた横顔はどこか困った様子だ。
(兵馬様が、なんだか珍しい表情……。でもこの肩を抱く手を今しばらく、千代紙の上ではなくてここに置いたままにして欲しいなんて、私……)
そう思ったゆづかはそっと兵馬の袂を握ってみせた。きゅっと、優しいけれどきちんと握っているのだと、自分の意思であるという事が分かってもらえる程度に。
それだけなのにゆづかは心にじんわりと、兵馬が自分へ向けてくれる好きだと言う気持ちが流れ込んでくる気がして、トクトクと心音が忙しくなる気がするから不思議だ。

「私はまだ不器用だから、お前とこうしているとどうして、お前に触れていたくなっていけないね。もう少しだけこうしたらきちんと選ぶから少しだけ、今しばらくはこのままでいさせておくれ」

だからそう言われたゆづかは頬を淡く桜色に染めて、小さく頷くだけで精一杯なのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...