Tally marks

あこ

文字の大きさ
3 / 39
本編

03

巽にとってカイトは自分に見合う容姿の、自慢の恋人だった。
巽は自分の容姿を解っているから、見目麗しいカイトと共にいると受ける視線一つ一つに「どうだ、いいだろう。こんなに綺麗な男が俺のオンナになってるんだ」と思っていたのだ。
そこにもちろん愛はある。なければこんな巽でも“恋人”にはしない。
愛を囁けば白い頬が桜色に染まって、少し間を置いてから「俺も」とか「好き」と言う薄い唇がたまらなかった。愛撫に応え快感に震える体も支配欲が誰より満たされる。
自分がこの体にしたのだ。
女なんて抱けない体にしてやるのだ。
なんて思って体に自分との快感を刻み続け、愛を囁いた。
(だがなぁ……俺はどうにも性に合わねぇ)
浮気相手もセフレも──似た様なものだが、巽の中で“セフレ”と“浮気相手”はまた少し違う様だ──本命になれない事に文句を言ったがリトを指差し『あれの弟』とカイトの写真を見せると誰もが悔しそうに唇を噛んで黙った。今まではそんな事はなかった。そこもカイトとの付き合いで楽な事だっただろう。

「くそったれ!」

ガン、と音がしゴミ箱が転がる。
幸いだったのは彼が意外にも綺麗好きで、今朝がゴミの回収日で、ゴミを出してからこのゴミ箱に入ったのがタバコの箱一つだけな事だ。転がっても出てくるのはそれだけである。
「くそッ」
灰色のカーテンが風に揺れる。ここは巽の自宅だ。一人暮らしの1LDKは親の持ち物である。
今までの恋人は飽きて捨ててきた。束縛が激しいとか、嫉妬深いとか、いろんな理由をつけて捨ててきた。正直理由なんて取って付けた様なものである。そんな付き合いをしてきて、捨てられるなんて巽の中では事だ。
もっといえば、あってはならないくらいの事と認識しているかもしれない。
風が頬に当たるのすら腹が立ち、巽は乱暴に窓を閉めた。
がしゃん、とガラスが悲鳴をあげる。

五回なんて言われたものだと巽は信じていた。
「巽さん、今日誰と歩いてたの?俺、見ちゃったんだ」
浮気を問いただす時、カイトはいつもこういって切り出す。ここで巽がだんまりを決め込むと「浮気相手?浮気したの?それとも、セフレ?」と聞き、巽の気分では巽から「セフレ」とか「ああ、浮気」と言う。
どちらにせよこの先はこれまたいつもカイトが「浮気はしないで、セフレも嫌だ」と白い肌を悲しみと怒りで赤く染めて、その赤い頬に綺麗な涙の筋を作る。
そんなカイトにごめんと言って、お前が一番だ、もうしない。と上辺だけの謝罪とキスでごまかしていた。
いつもそんなやり取りだから、五回目だろうが何回目だろうが、そうだと信じて疑わなかったのだ。

「──────荷物、荷物がねぇ!」

ふと、ガラステーブルの上に紙袋が置いてあるのをみ、中身を確認して慌ただしく家の中を確認した巽は叫ぶように言った。
紙袋の中身は少ないけれど巽がカイトの家に持ち込んだ荷物。そしてこの家からなくなったのはカイトの荷物だ。
(全て、すっかりなくなって……)
五回目の浮気をした自覚はあった。目が合ったからだ。五回目だと解ったのはあのメールが来てからだけれど、目撃されたのは知っている。
その浮気をした日から今の状態に気がつくまで十日もあった。十日目でようやく気がついたのだ。
それもカレンダーで確認するまで気が付かなかった。
カイトの性格はこれでも巽は解っているところはあると思っているし、そうだと信じている。
五回目の目撃の後、自宅でゆっくり考えて、行動に移したのだろうと。そして行動する時は無駄なく計算したようにきっちりとやったのではないか、と。
その通りでカイトは自分の家にある巽の荷物をまとめながら父親に鍵の変更したいと電話をし、荷物を巽の家に届けるついでに業者に電話をして約束を取り付け、怖いから急いで欲しいと訴え巽の家から荷物を持ち帰る頃に業者に来てもらって値段なんて二の次で交換してもらっている。あっという間に。
業者の仕事の早さはさすにそうして欲しいと頼んだカイトも驚いたけれど、業者はカイトの顔を見てこれは不安になるだろうとかわいそうな少年に心底同情したからだ。

よろよろとガラステーブルの前に座り込むと紙袋に腕が当たって荷物が溢れる。がしゃんと音を立てたのはこの家の鍵だ。オートロックだから出来た事だろう。
──────巽さんの愛は、何人に向ける事が出来るの?俺は一人にしか、恋人への愛は向けられないのに。
唐突に言われた事を巽は思い出した。
あの時は四回目の浮気を認めた後、カイトが前後不覚になるほどの快感におぼれたセックスをした後だ。
(俺はなんと答えた?)
考えて考えて巽は思い出した。
「『恋人に対しては、一つだろ』」
それは今も間違っていないと巽は思う。だったからだ。浮気相手は浮気相手、都合よく使うセフレはセフレ。浮気相手もセフレも、恋人よりも友人よりも“地位”は低くて下手したら知り合い程度だ。
付き合いが金で繋がってると言っても過言ではない親よりも“上の地位”の恋人。自分がそこに置くのだから、少しの摘み食いくらいなんだというのだと巽は未だって思う。
「許さねぇぞ、カイト」
吐き出した煙と共に、低い声が部屋に落ちる。
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

全速力の君と

yoyo
BL
親友への恋心に蓋をするために、離れることを決めたはずなのに

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。