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あこ

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番外編:本編完結後

可愛い猛獣:後編

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まったく、と言ってリトはベンチにドスンという勢いで座る。
「あんたね、もうウジウジうるさい!でもカイトを泣かせた事を思うと、絞め殺したい……!」
「リトの愛情って、いっつも思うが物騒だよなア」
「俊哉やカイトには向けやしないわよ!」
「俺限定っていう事か。愛されてるなァ、俺も。俺もお姉様は愛してるけどさあ。“家族”としてよぉ」
しみじみと言う巽を見下ろしたリトの顔には書いてる。
──────愛してるですって!?いけしゃあしゃあとッ!本当に許されるのなら一度この手で……!
この世界に、配管工兄弟の世界にあるようながあったりしたら、リトは無理やり巽に食べさせて現実にかねない眼光の鋭さだ。

このところ、いや、自分でけしかけておきながら、カイトが巽と寄りを戻すという選択をしてからのリトは巽に対して攻撃的である。
巽が攻撃的なリトの本音を理解しているから、また巽がリトに対して十分すぎる友情を向けているとリトが知っているから、過激な言葉とは裏腹にには発展しない。
(まあ、発展しても止めればいいだけだしね)
まさか二人を見守る俊哉がこんな事を考えているとは知らず、二人は今日ものだ。
俊哉はいつだって二人の喧嘩が二人にとっての愛情表現だと思っている。
二人は決して俊哉にはこんな愛情表現はしない。
してくれたって自分はそれを受け止めるんだけどな、と俊哉は思っているけど、二人がこんな方法で表現するのはお互いにだけで、だからこそ俊哉はいつだって可愛いなあと見守るのだ。
本来なら止めるべきなんだろうけれど、殴り合いの喧嘩に発展してもある程度までは見守っていよう。俊哉はこれくらいの気持ちで二人を見ている。
──────私は俊哉さんもある意味、猛獣寄りだと思いますけれどね。
巽の元世話役にそう言われた時は「え、どこが?俺が?」と真顔で聞き返してしまったけれど、確かに奥さんと友人の喧嘩腰の会話を微笑ましいと見守れるのはそういう人間なのかも知れないと、俊哉はひっそり、自分を見つめ直しているところだ。

「で、二人ともは終わったの?」

二人が沈黙し静かになったところで俊哉は聞いた。
三人はベンチに並んで座っている。俊哉を挟んでリトと巽は座っていた。
「藤は藤で、リトさんがいうようにもう少しシャキッとしてカイトくんとお付き合いしなよ」
「分かってるけどよォ。時々こう──────なあ?」
「はいはい。で、リトさんのその藤への暴力的な愛情はいつも素敵だと思うよ」
「……褒め言葉だと受け止めていいのかしら?」
「もちろん!リトさんは藤と兄弟のように仲良しなのは今に始まった事じゃないし俺は好きだよ。
爽やかな笑顔で言われ、リトと巽は顔を見合わせた。
(可愛いって、馬鹿な子ほど的な意味かしら?)
(いや、あれは弟や妹に向けるような、可愛いじゃねえか?)
二人は瞬時に目と目で会話をした。伝わっているからこそ頷き合う。
少しだけ納得していないけれど、なんとなく嬉しく思うから二人揃って顔を顰めた。仲がいい。
いつものようにその二人を可愛いなあと眺めた俊哉は
「で、仲良しの二人が大好きなカイトくんの事だけど」
と前置きをし
「リトさんが『可愛いからこそ旅なんかさせたくない!』なのは分かってるからいいとして」
「いいのかよ」
「いいの!当然でしょ!!」
突っ込んだ巽と瞬時に噛み付くリトを無視して
「カイトくんは素直だけど、やっぱり藤の鬼畜の所業は今も許せないだろうから」
「鬼畜って……お前」
「鬼畜でしょ!浮気したんだから!」
やっぱりこれも俊哉は無視する
「ここは藤が恥も外聞もなく俺に半泣きで懺悔して、同じように恥も外聞もなくカイトくんに縋ってよりを戻してもらったんだし」
「半泣き?泣いたの?泣くくらいなら浮気なんてしないで生きてなさいよ」
「だから、それは反省してるんだよ……後悔してるんだよ」
「……分かってるわよ」
「……リトが言いたくなる気持ちは分かるから、そんな顔すんなよ」
妙にシュンとした二人をまたしても無視して
「藤が勇気を出して、手を出したらどうかなあ」
「はあ!!?」
今度は二人揃ってすごい声を上げた。
ここは公園。今までの猛獣たちの言動は注目されていなかったのに、この大声は注目された。
笑う爽やかなイケメン、目をひん剥いているちょっと厳つい男前と美丈夫と言っていい女。
今までの行動で注目されなかったのは奇跡かもしれない。リトからすれば巽を転がしたなんてのを目撃されなくてホッとしているだろう。
リトは巽に対しての言動と容姿はあれだけれど、乙女である。
「いや、襲ってしまえとは言ってないからね?」
「当たり前だろう!」
「私は俊哉でも怒る時は怒るからね!」
バッと立ち上がって自分を見下ろしてくる二人に俊哉はヘラッと笑う。
「藤の事だから、『お前がキスしなくたって俺がする』みたいな事を言ってても──────ん?」
「言ったのね?」
「おう……」
ばつが悪そうな顔でベンチに座り直したのは巽、ジト目で巽を見ながらリトも座り直した。
「とにかく、藤は気にして遠慮してしようと思ったうち半分はやめてそうだし。カイトくんが勇気を持って『キスしてみようかな』と思って、でもやめたのに気がついても、見なかった事にしてそうだから、そう言う時は知らないふりで藤がやってみればいいのになって思っただけだよ。もう少し藤も勇気を持ちなさい。うじうじと、勿体無い。カイトくんの事を考えて行動するのはいい事だけど、でしょ。それと襲ってしまえなんて、俺は言いません」
邪魔されないようにか、俊哉は一気に言い終えた。
リトと巽はまたアイコンタクトをしている。
二人の視線だけの会話の内容を俊哉は知る手立てがないけれど、きっと「ガツガツするんじゃないわよ」「おう」「ずいぶん臆病になったのね」「おう」「カイトにした事は許せないし嫌いだけど、ウジウジしてるあんたも嫌いよ。俺について来いみたいな偉そうなあんたはどこ行ったのよ」「すまん、ありがとう」なんて言ってるんじゃないかと、俊哉は想像していた。
そしてほぼ当たっている。
俊哉は自分の左右に座っている二人を交互に見て
(二人とも、こんなに可愛いのに猛獣なんて見る目がないなあ)
なんて小さく、二人に気が付かれないように頷いた。

「がんばんのよ」
「別れてカイトの泣いてるの見て、すげぇこたえて……。前向いていこうって言われて、カイトは抱き締めてもキスしても、受け止めてくれっけどさァ……時々不安つーかまあ色々とな思うんだよなア。積極的っての?積極的って言うか、俺の思うように、伝わるように、大切に、カイトに伝えたいって行動もするんだけどよォ、やっぱどっかでこう……なあ?」
「夏は服装であれだけ騒いで、私の代わりにバイトした時は女性客を敵認定して騒いで、それでもカイトは笑ってるでしょ?カイトはともかく、藤は今まで持ってたどうでもいい自信を少し取り戻しなさいよ。あんた私に『俺もお前も肉食だよなあ』とか失礼な事を言ってたでしょ?あの藤はどこいったの?気持ちは分かるけどね、弱気になってるんじゃないわよ」
「おう」
「それで、私の可愛い弟を、私があんたをボッコボコにしたくなるくらい、幸せにしなさいよ。分かった?」
「ああ、そうだな。偉そうに色々言った俺がこれじゃダメだよなア」
「そりゃ藤も人間だし、たまには落ち込んだりもするでしょうけどね。でもネガティブな気持ちをいつまでも引き摺っててもいい事ないわよ。私はあんたみたいなのは特にそうなんじゃないかって思うけど?」
「そうだよな。落ち込んでもそうじゃなくても、俺は感情を綺麗にまとめて美しく片付けるなんて出来ねェしなア。もっと俺の好きなようにもっと積極的に俺らしく、カイトを愛して慈しむわ」
「愛して慈しむ……いい言葉なのになんで鳥肌が」
「なんでだよ」
「藤らしくない言葉だからじゃない?」
「お姉様、そりゃあ俺に対して失礼じゃないか?」
「まさか!」

自分を挟んでする二人の会話をニコニコと聞いていた俊哉は、遠くからこちらに向かってくるカイトを見つけて手を上げる。
そして二人は俊哉のその動きにハッとしてカイトに笑顔を向けた。
二人とも幸せそうで嬉しそうで、とにかく魅力的な笑顔を。
カイトがここまで来るのを待てないのか二人揃って立ち上がって、ちょっとの距離を早足で迎えに行く彼らの背中を見た俊哉は大きく頷いた。

「本当、あんなに可愛いのに猛獣なんて。失礼しちゃうよね。見る目がないよ、みんなして、ほんと。こんなに可愛いのに!」
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