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『生物研究部』活動記録 弐
あなたはなにが『好き』ですか? 参
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「えっと、煤牛かんな、1年生です! 好きなものは……えと……
彼女はなにやらソワソワした様子で、言葉につかえていた。俺と同様、考えがまとまっていなかったのか、単に緊張しているのか。ただ、彼女に緊張感なんてものがあるとしたら、もっとやたらに持ってもらって構わないが。
「アタシは……『自分の強さ』が好きです!」
「お~。……良いね~。煤牛くんの『強さ』とはなにか、ぜひ聞かせておくれよ~。」
「はい……! まず、足が速いです! あと、手料理もできます!」
「へ~、料理もできるんだね~。水仙くんと同じじゃあないか~。」
「『同じ』って、料理なんて誰でもできるじゃない?」
「え~? 私はできないよ~?」
「私も得意ではないね。」
「……え?」
水仙が言葉を失うのも理解できる。俺も、まさか青蓮に不得手があるとは。それも家事で。しかしこうなると、どの程度不得意なのかが気になってくる。
「え、えっと……?」
「あ、ああ。ごめん。邪魔したわね。」
「い、いえ! あ、あとは……おっぱいが大きい!」
「……はァ?」
「おやおや。」
「う~む、確かに立派なものを持ってるね~。眼福だよ~。ね、佐々田くん?」
「……先生、男でもセクハラで訴えれるんですよ?」
ここでは肯定しても否定しても良い結果にはならないことが分かりきっている。質問を質問で打ち返すのが、もっもと生存率が高いのだ。
「アタシ……こんな見た目だし、いろいろと馬鹿にされたり、イジられたりしてきたけど、ぜーんぶひっくり返して、『強さ』なんだって思いました! だから、その『強さ』が好きです!」
「……うん、良いことを言うね~。」
『全部ひっくり返して』……彼女はつまり、物事に表があれば裏があり、光があれば影があるように、短所も裏返せば長所になる、ということを体現していた。
彼女の身体的特徴を揶揄していた過去の俺は、あまりにも軽率で軽薄で、愚かであった。何よりも、彼女がこうしてそれを言葉にするまで気づかなかった今の俺は、愚劣の極みである。
「よ~し。煤牛くんありがとう~。」
「は、はい! ありがとうございました!」
煤牛が着席することで、全員の自己紹介が完了……した、とそこにいた部員は思ったはずだ。
「お~っと、煤牛くんはまだ立っていてくれよ~? お次は懇親会と洒落込もうじゃあないか~。」
なにかが始まった。いや、曰く『懇親会』と言うが、それにしては華やかさがない。昨日と変わらない、変わり映えのない、味気ない空間で、それは始まった。
あいも変わらず沈着な青蓮は分からないが、動揺している水仙の様子からして、2年生の2人もこの展開は知らなかったようだ。
だから俺は、全部員の心情を代弁するように、先生に当然の疑問を投げかけた。少し、期待も込めて。
「『親交会』って、なにか用意してたりするんですか? パーティー的な……。」
「ちっちっち。佐々田く~ん、『懇親会』は必ずしも食卓を囲んで行う必要は無いのだよ~。会話をする上で食事というのはむしろノイズなのさ~。酒があれば別だがね~。」
「は、はあ。ということは……なんですか?」
「『雑談会』さ~。純粋に言葉を交わすことで、心を交わすことの純度もまた上がると思わないかい?」
それは確かに肯定できる部分もある。しかし、ならはじめから『雑談会』と称せば良いのに、なにかしらのサプライズを期待させるあたり、この先生もまた、青蓮と同じく、『人間遊び』を観察することが好きなのかもしれない。まさに、ケージの中の愛玩動物を観察するように。
「とても合理的だと思います。私も、新しく入った君たちのことをより深く知りたい。……もちろん、水仙のこともね。」
「……ま、悪くないかもね。やるならさっさとやりましょ。かんなちゃん立ちっぱだし。」
「全然大丈夫です!」
また人に注目されながら喋らなければいけないのか。自己紹介3度目の失敗の最速記録を更新しないように、俺は必死に脳内のエンジンを温めるのだった。
彼女はなにやらソワソワした様子で、言葉につかえていた。俺と同様、考えがまとまっていなかったのか、単に緊張しているのか。ただ、彼女に緊張感なんてものがあるとしたら、もっとやたらに持ってもらって構わないが。
「アタシは……『自分の強さ』が好きです!」
「お~。……良いね~。煤牛くんの『強さ』とはなにか、ぜひ聞かせておくれよ~。」
「はい……! まず、足が速いです! あと、手料理もできます!」
「へ~、料理もできるんだね~。水仙くんと同じじゃあないか~。」
「『同じ』って、料理なんて誰でもできるじゃない?」
「え~? 私はできないよ~?」
「私も得意ではないね。」
「……え?」
水仙が言葉を失うのも理解できる。俺も、まさか青蓮に不得手があるとは。それも家事で。しかしこうなると、どの程度不得意なのかが気になってくる。
「え、えっと……?」
「あ、ああ。ごめん。邪魔したわね。」
「い、いえ! あ、あとは……おっぱいが大きい!」
「……はァ?」
「おやおや。」
「う~む、確かに立派なものを持ってるね~。眼福だよ~。ね、佐々田くん?」
「……先生、男でもセクハラで訴えれるんですよ?」
ここでは肯定しても否定しても良い結果にはならないことが分かりきっている。質問を質問で打ち返すのが、もっもと生存率が高いのだ。
「アタシ……こんな見た目だし、いろいろと馬鹿にされたり、イジられたりしてきたけど、ぜーんぶひっくり返して、『強さ』なんだって思いました! だから、その『強さ』が好きです!」
「……うん、良いことを言うね~。」
『全部ひっくり返して』……彼女はつまり、物事に表があれば裏があり、光があれば影があるように、短所も裏返せば長所になる、ということを体現していた。
彼女の身体的特徴を揶揄していた過去の俺は、あまりにも軽率で軽薄で、愚かであった。何よりも、彼女がこうしてそれを言葉にするまで気づかなかった今の俺は、愚劣の極みである。
「よ~し。煤牛くんありがとう~。」
「は、はい! ありがとうございました!」
煤牛が着席することで、全員の自己紹介が完了……した、とそこにいた部員は思ったはずだ。
「お~っと、煤牛くんはまだ立っていてくれよ~? お次は懇親会と洒落込もうじゃあないか~。」
なにかが始まった。いや、曰く『懇親会』と言うが、それにしては華やかさがない。昨日と変わらない、変わり映えのない、味気ない空間で、それは始まった。
あいも変わらず沈着な青蓮は分からないが、動揺している水仙の様子からして、2年生の2人もこの展開は知らなかったようだ。
だから俺は、全部員の心情を代弁するように、先生に当然の疑問を投げかけた。少し、期待も込めて。
「『親交会』って、なにか用意してたりするんですか? パーティー的な……。」
「ちっちっち。佐々田く~ん、『懇親会』は必ずしも食卓を囲んで行う必要は無いのだよ~。会話をする上で食事というのはむしろノイズなのさ~。酒があれば別だがね~。」
「は、はあ。ということは……なんですか?」
「『雑談会』さ~。純粋に言葉を交わすことで、心を交わすことの純度もまた上がると思わないかい?」
それは確かに肯定できる部分もある。しかし、ならはじめから『雑談会』と称せば良いのに、なにかしらのサプライズを期待させるあたり、この先生もまた、青蓮と同じく、『人間遊び』を観察することが好きなのかもしれない。まさに、ケージの中の愛玩動物を観察するように。
「とても合理的だと思います。私も、新しく入った君たちのことをより深く知りたい。……もちろん、水仙のこともね。」
「……ま、悪くないかもね。やるならさっさとやりましょ。かんなちゃん立ちっぱだし。」
「全然大丈夫です!」
また人に注目されながら喋らなければいけないのか。自己紹介3度目の失敗の最速記録を更新しないように、俺は必死に脳内のエンジンを温めるのだった。
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