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『生物研究部』活動記録 弐
その人を知りたければ 壱
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「『その人を知りたければその人が何に対して怒りを感じるかを知れ』という偉大なる至言があるのはご存知かい~?」
「……偉人の名言かなにかですか?」
「私の好きな漫画のセリフさ~。」
漫画かい。……いやしかし、あながち正鵠を得た言い回しである。
「例えば、佐々田くんはさっき『カレーが好き』と言ったね~? 私も好きだよ~。では、どのくらい好きなのかな~?」
「えっ……ん~……どのくらいと言われても……?」
「では、隣の煤牛くんとでは、どちらが好きだい~?」
「カレーです。」
「おいっっ!? アタシはカレー以下かっ!?」
「あっはっは! じゃあ、煤牛くんのことは好きかい~?」
「……ん~。」
俺は悩んだ。悩んだフリをした。隣に立つ煤牛は怪訝そうなのか、不安そうなのか、よく分からない顔をこちらに向けているようだが、横目からでは定かではない。
「嫌いではない、と言っておきます。」
「うん、模範回答だと思うよ~。」
俺はこの大人も信用できなくなった。またいつこうやってオモチャにされるか、たまったものではない。煤牛の顔は見えないが、どこからか『キッモ』と聞こえたのは確かだ。犯人は分かりきっているが。
「今のように、『好き』は『相対的』だ。好きは数値的だと思うんだよ~。コレはアレより好きだな、という順位づけが可能なようにね~。対して、『怒り』は『絶対的』なものだと私は思うんだ~。……
「怒りを感じるものには、どうしたって感じざるを得ない。『ちょっとだけ怒る』なんて、君たちにはできるかい~? ……だから、『その人が何に怒るかを知る』ということは、その人のどうしたって抑制できない感情を向けてしまうもの、『好き』よりも鋭く強い感情を向けてしまうものを知るということ。……
「それによって、『好き』という表面的な感情よりも一層に、その人の本質に近づくことができる。……と私は思うよ~。ま、これはすべて私なりの解釈なので悪しからず~。」
なにか、ひとつの講義を聴いてる感じだ。しかし、先生の解釈は、巧妙に論点がずらされている気がする。つまり、比較対象が違う。
彼女が『相対的』というのは『なんで好きなのか』についてだ。『好きなもの』についてではない。
対して、『絶対的』というのは『なにに怒りを感じるか』ということについてであって、『なんで怒りを感じるか』ということではない。
この『もの』と『理由』の巧妙なすり替えによって、それっぽく、うまく丸め込まれたのだ。
つまり、本質的にはどちらも変わらない。なにを好きでも嫌いでも、それはそれぞれ独立しており、絶対的である。一方で、なんで好きか嫌いかというのは相対的で、アレに比べてコレが好き嫌い、といった具合だ。
しかし、うまく丸め込まれた理由は、どこか想像がつく。つまり、『怒り』の『理由』が『相対的でない』と考えてしまう心理についてだ。
その心理はおそらく、それを『相対的である』とした場合『怒り』に関してわざわざ『理由』を考えて比較することに対する、忌避感情だ。
『好き』の理由を分析すれば、その人の人生は豊かになる。しかし、『怒り』の理由を分析し対策したところで、先生が言うところの、『感じざるを得ない怒り』は無情に、非情に、唐突にその人を襲うだろう。
だから、『絶対的』とし、比較をしない。したくない。それはそれとして割り切ってしまったほうが楽なのだ。……以上、俺の解釈では、だが。
「さて~、さっそく煤牛くんにはなにに『怒り』を感じるか、話してもらおうか~。」
「……偉人の名言かなにかですか?」
「私の好きな漫画のセリフさ~。」
漫画かい。……いやしかし、あながち正鵠を得た言い回しである。
「例えば、佐々田くんはさっき『カレーが好き』と言ったね~? 私も好きだよ~。では、どのくらい好きなのかな~?」
「えっ……ん~……どのくらいと言われても……?」
「では、隣の煤牛くんとでは、どちらが好きだい~?」
「カレーです。」
「おいっっ!? アタシはカレー以下かっ!?」
「あっはっは! じゃあ、煤牛くんのことは好きかい~?」
「……ん~。」
俺は悩んだ。悩んだフリをした。隣に立つ煤牛は怪訝そうなのか、不安そうなのか、よく分からない顔をこちらに向けているようだが、横目からでは定かではない。
「嫌いではない、と言っておきます。」
「うん、模範回答だと思うよ~。」
俺はこの大人も信用できなくなった。またいつこうやってオモチャにされるか、たまったものではない。煤牛の顔は見えないが、どこからか『キッモ』と聞こえたのは確かだ。犯人は分かりきっているが。
「今のように、『好き』は『相対的』だ。好きは数値的だと思うんだよ~。コレはアレより好きだな、という順位づけが可能なようにね~。対して、『怒り』は『絶対的』なものだと私は思うんだ~。……
「怒りを感じるものには、どうしたって感じざるを得ない。『ちょっとだけ怒る』なんて、君たちにはできるかい~? ……だから、『その人が何に怒るかを知る』ということは、その人のどうしたって抑制できない感情を向けてしまうもの、『好き』よりも鋭く強い感情を向けてしまうものを知るということ。……
「それによって、『好き』という表面的な感情よりも一層に、その人の本質に近づくことができる。……と私は思うよ~。ま、これはすべて私なりの解釈なので悪しからず~。」
なにか、ひとつの講義を聴いてる感じだ。しかし、先生の解釈は、巧妙に論点がずらされている気がする。つまり、比較対象が違う。
彼女が『相対的』というのは『なんで好きなのか』についてだ。『好きなもの』についてではない。
対して、『絶対的』というのは『なにに怒りを感じるか』ということについてであって、『なんで怒りを感じるか』ということではない。
この『もの』と『理由』の巧妙なすり替えによって、それっぽく、うまく丸め込まれたのだ。
つまり、本質的にはどちらも変わらない。なにを好きでも嫌いでも、それはそれぞれ独立しており、絶対的である。一方で、なんで好きか嫌いかというのは相対的で、アレに比べてコレが好き嫌い、といった具合だ。
しかし、うまく丸め込まれた理由は、どこか想像がつく。つまり、『怒り』の『理由』が『相対的でない』と考えてしまう心理についてだ。
その心理はおそらく、それを『相対的である』とした場合『怒り』に関してわざわざ『理由』を考えて比較することに対する、忌避感情だ。
『好き』の理由を分析すれば、その人の人生は豊かになる。しかし、『怒り』の理由を分析し対策したところで、先生が言うところの、『感じざるを得ない怒り』は無情に、非情に、唐突にその人を襲うだろう。
だから、『絶対的』とし、比較をしない。したくない。それはそれとして割り切ってしまったほうが楽なのだ。……以上、俺の解釈では、だが。
「さて~、さっそく煤牛くんにはなにに『怒り』を感じるか、話してもらおうか~。」
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