ツギハギドール

広茂実理

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黒髪ドール

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 芹沢煌は、自宅にいた。隣人による突然の訪問も、嫌な顔一つせず笑って受け入れた。
「枝のために、わざわざ来てくださったんですか? 美味しそうなクッキーまで……ありがとうございます」
 にこにこと沖田孟に微笑んでいるのは、奏と初の同級生である、芹沢煌。小柄で普段はグループ内にいても喋らないような、目立たない人物だ。
「貴方が、近藤さんですか? 私たちのことを助けてくださったと聞きました。ありがとうございました」
「いや。何事もなくて良かったよ」
 探偵一行は、現在芹沢煌に招かれて、リビングルームにお邪魔していた。幼なじみが手土産を持って現れたためと、近藤が学校で自身を助けてくれた人物だと知ったためだった。
「すまないね。ちょっと無事を確認したかっただけだったんだけど、こいつと家の前で鉢合ってさ」
「まさか、お二人が高校の同級生だなんて、びっくりです。世間は狭いですね。でも、近藤さんはどうして私たちの中学に? ご兄弟が通われているとか?」
 丁寧な所作で紅茶を淹れてくれる少女に礼を言って、敢はいつものにこにことした笑みを絶やさず口を開いた。
「実は、調査の一環でね。僕、探偵をやっているんだ」
「え、探偵、ですか?」
 ぴくりと煌の手が止まる。しかし、すかさず不思議そうな声を上げていた。
「探偵さんに会ったの、初めてです……ドラマみたい……」
「そう? 結構いるよ。探偵」
「そうなんですか? へえ……」
「まあ、何事もなく暮らしている中学生なら、あまり関わることはないかもしれないね」
「何だかすごいですね。高校生なのに、探偵なんて。それで、調査って、いったい何の調査なんですか?」
 敢の斜め前にあたるソファーに腰掛け、煌は興味津々と質問をする。だが、敢はもったいぶったように柔く首を横に振った。
「守秘義務があるからね……おいそれとは、話せないな」
「えー、そう言われると気になっちゃいます。ちょっとくらい、だめですか?」
 相変わらず、よく喋る――初は、彼女に対してそう思っていた。グループ内ではほぼ無口な彼女だったが、少人数、特に奏と二人きりになると、こうしてよく口が動いた。
 初は、その様子をいつも少し離れたところから眺めていたものだ。
「んー、じゃあ、内緒にできる? 誰にも言わないって、約束」
「します!」
 絶対に嘘だと初は思いながら、敢は何を考えているのかと、不思議だった。孟はずっと黙っているし、一向に黒髪ドールの捜索が始まる様子がない。最初は、自由に動き回れる自分が探し回るのかと思っていたのだが、芹沢宅に入る前に、敢から動かないようにと釘を刺されていたのだ。そのため初は、手持ち無沙汰でその辺を黙って漂っているしかなかったのである。
「じゃあ、ここだけの話……実は、今世間を騒がせているドール連続殺人事件を追ってるんだけど……」
「あの、テレビで話題になった?」
「そうそう……その事件、とある学生の呪いが関係してるって話になっててね」
「の、呪いですか……そんなもの、本当にあるんですか?」
「わからないよ。実際、被害者と同じ姿にされたドールが発見されているし、とある筋では、黒髪のドールの目撃情報が流れてる。しかもそのドール、陰鬱な表情をしていて、いつのまにか姿を消しているらしい。おまけに、君たちが通っているその中学の制服を着ているらしいからね……だから、何か情報が掴めないかと思って、学校に行ったんだよ」
「ああ、あの……黒髪のドール……でも、その調査に来られていたおかげで助けてもらえたなんて、私たちって、本当にラッキーでした」
「そうだね。偶然、君たちがそれぞれ危ない目に遭っていたなんて、僕も驚いたよ。助けられて良かった」
 にこにこしながら紅茶を口にする二人。しかし、敢の顔つきが神妙なものになる。
「……でも、ドールが学校にいるわけがないし、空振りだったよ。あーあ、誰か心当たりのある人、いないかなー……きっと、その黒髪ドールのが、犯人だと思うんだけどなあ」
 わざとらしく肩を落として、困ったという演技をする敢。初は終始半眼だったが、どうやら引っかかったようだ。煌が、考えるような仕草をしている。
「あの……」
「ん? どうかしたのかい?」
「私……いや、でも、そんな……」
 もったいぶったように口籠もる煌。敢は内心で、ほくそ笑んだ。
「何か知っているの? 何でも良いんだ。どんな些細なことでもいい。手がかりになりそうなことがあるのなら、僕に教えてほしい」
 綺麗な顔が、少女を見つめる。煌の頬は、やや朱に染まっていた。
「そ、その、違うかもしれないんですけど……呪いって聞いて、思い当たる子がいて……」
「思い当たる子? 誰?」
「……斉藤初……同じクラスの、斉藤初って子です。事故で死んじゃったし、黒髪だし、もしかしたらって思って……」
「斉藤初……その子が、呪いで事故を起こしたかもしれないのか……なるほど。調べてみるよ。ありがとう。もしも、これで捜査が進展して解決できたら、君のおかげだね。協力、感謝するよ」
「いえ……そんな……あ、そういえば……」
「ん? まだ何か思いついたことが?」
 煌は、頬を紅潮させている。美青年に頼りにされ、自分が役に立てていることに、瞳を輝かせていた。
「奏ちゃんの体、消えちゃったんですよね。きっとそれも、斉藤初の仕業かもしれませんよ。だってあの子、奏ちゃんのストーカーだったから――」
 言い終えないうちに、煌の体は床に押し倒されていた。やったのは、それまで黙って座っていた青年、沖田孟だ。
「え――」
 目を丸くする少女。のし掛かる高身長に、ただただ戸惑っている。
「どうして、知っている?」
「へ……?」
「どうして、奏の体が消えたことを知っている!」
「沖田、首は駄目だよ。喋れなくなるからね」
 やれやれと立ち上がる敢。怒りの瞳とは正反対の冷ややかな視線に曝されて、煌は放心状態から抜け出せないでいる。
「芹沢煌……教えてもらおうか。報道規制により、警察関係者の他には家族しか知らないはずの遺体消失事件――そのことを、何故君が知っているのか。しっかりと、わかるように説明してもらうよ」
「は……あ、あ……」
 みるみると青く染まっていく顔。自身が口を滑らせた情報に、体を震わせている。
「そんな……だって……こんな……こんなはずじゃ……どうして私だけ……」
 涙目の煌には悪いが、初はまったく彼女のことを可哀想だとは思わなかった。むしろ、奏の体に何をしたのかと、孟のように問い詰めてやりたかった。
「遺体はどこだ? 隠すなら、罪が増えるよ。どうせバレるんだ。自分で言った方が、後々のためだと思うけどね」
 冷たい声音に促され、中学生の少女はか細い声でぼそぼそと話した。
 その場所は、彼女の実験室と化した、この家の地下室だった。
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