ツギハギドール

広茂実理

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黒髪ドール

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「原田さん。遺体、地下で発見しました。何か適当な理由をつけて、今すぐ入ってきてください。ちなみに現在、保護者は仕事のため不在だそうです。確認も取れてます」
 敢からの連絡を受けて、原田は芹沢宅へと足を踏み入れた。リビングには、孟に捕まり項垂れた様子の芹沢家の一人娘、煌の姿があった。
「貴方が、芹沢煌さんですね。警察の者です。お話を伺いたいので、お時間をいただいてもよろしいですか? もちろん、保護者の方にも連絡を――ん? おい、永倉はどこへ行った?」
 原田の声にのろのろと顔を上げた煌は、永倉という言葉に反応した。
「永倉さん! 永倉さんどこ? 私、きららだよ! ねえ、お願い! 近くにいないの? きららを助けて! 永倉さん、永倉さんってば!」
「永倉を確保しろ――!」
 敢から連絡があった際にこっそり逃げようとしていた永倉刑事。だが、まるで予期していたかのように、刑事たちが立ち塞がった。
「くそ!」
「残念だったな、永倉。逃げても無駄だ。お前には、とある容疑がかけられている――遺体消失事件に関与しているという、容疑がな……」
 逃亡は不可能と判断したのだろう。永倉は大人しく捕まり、そうして芹沢煌とともに連れて行かれたのだった。
「近藤くん、地下って?」
「こっちです」
 原田と敢は、何事もなかったかのように芹沢家の地下を目指して、廊下を進んでいく。その後を平然と孟もついていくので、戸惑いながらも初は、彼らの最後尾に連なった。
「これは、また……」
「さあ、白状してください原田さん。永倉さんは、いったいんですか?」
 地下に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。そこには、まるで等身大の人形でも作ろうとしていたのか――人らしきパーツが、ごろごろと転がっていたのだった。
「これは、剥製にしようとしたのか……中身は、樹脂、か? マネキンみたいになっている……」
「奏……」
 孟は、膝から崩れ落ちた。初も、言葉を失っていた。
 そこにあったのは、ものだった。彼女の体は、見事にすべての皮を剥ぎ取られていたのだ。作成途中のその人形は、皮や毛、爪は人間のものであった。
「髪は、奏……だけど、肌の色が違う……それに、目や鼻……後は、足?」
 孟の力のない呟きに、原田が答えるように頷いた。
「盗まれた遺体は、沖田奏、斉藤初、藤堂徳とうどうなる伊東祥いとうゆきまさる親子……以上五名だ」
「あの子、いったい何をしようとしていたんだ? これじゃあ、好みのパーツを集めて作り上げた、人形じゃないか」
「詳細は、本人から直接聞くとしよう。ここにも、捜査の手が入る。君たち、後で指紋やら毛髪やらの提供に協力願うよ。現場に立ち入ったんだからね」
「わかりました」
 彼女が何をしようとしていたかは、わからない。だけど、ここで人を人とも思わない、おぞましいことが行われていたことだけは、誰の目にも明らかだった。
「たくさんのドールだ……きっと、事件現場のドールたちは、この中から選ばれたんでしょうね」
 壁際に置かれた棚には、何体ものドールが並べられていた。すべて、彼女がカスタマイズしたコレクションだろう。
「その点も、調べないとならないな」
「そうか……ドールは、あの子の仕業だったのか……あの子のせいで、事故にならなくなったのか……」
「沖田、大丈夫か?」
 ぼーっとドールを見つめて何やらぶつぶつと呟いている孟へ、敢は声を掛ける。青年は、短く「ああ」と返したものの、その視線はドールに注がれたままだった。
「とにかくほら、今は一旦、ここを出るとしよう。いつまでもここにいたって、仕方がない。一秒でも早く、葬儀をしてやりたいのならね」
 項垂れる沖田青年を誘導して、原田は地下を出る。残された敢もその後を追う中で、初は一人、無残に皮を剥がされた肉塊だったものを眺めていた。
 それはきっと、自分の体。誰にも必要とされなくなった、腐敗が進み、捨てられる寸前だったもの。
 それらから目を逸らし、初は彼らの後を追う。
 芹沢煌が何をしたかったのか――それは、彼女にしかわからない。だけど、自分たちの尊厳は、ぐちゃぐちゃだった。
 何よりも、奏のことを守ることができなかった。それが、初は悔しかった。
「誓ったのに……それなのに……結局、何もできなかった……」
 悲しみの中で、初はふとあることに気付く。
「芹沢煌が、三人を殺した犯人……?」
 しかし、女刑事は言っていた。
「ひき逃げ犯は、大学生くらいの、男……?」
 この事件は、まだ終わらない。
 初は、慌てて敢の背中を追いかけた。
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