きみにふれたい

広茂実理

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虚しさの11月

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「……はあー」
 また、知らず溜息を零してしまった。ケンカしてから数日。彼は、変わらずこの木の下に現れないままだ。
「あんなに、走って来ていたくせに……」
 思い浮かぶのは、チャイムが鳴ると同時に息を切らしてやってきて、目が合うと嬉しそうに笑う無邪気な顔。
 休み明けの月曜日は、気怠そうな生徒たちに交じって、とびきりの笑顔で私を見ること。
 帰り際の、特に金曜日は名残惜しそうなこと。
「あんなに、あんなに……」
 私のことが好きだって――言葉で、表情で、態度で、表現していたくせに……。
 なのに、君は平気だっていうの? こんなに会えなくて、私は寂しいのに。
 たった……あんなくだらない言い合いで。ただそれだけがきっかけで、もう会いには来てくれないの? 私のこと、嫌になったの? 謝ることさえ、そのチャンスさえもらえないの?
「うう……っ」
 考えれば考えるほど、胸がギュッと締め付けられた。
 これは、何だろう? 悔しさ? 辛さ? 寂しさ? 痛み? ――どれもそうだし、どれも違った。いろんな想いがぐちゃぐちゃになって、重りになって、ズシンと心に落ちている。それはそこに留まって、軽くもならず、消えてもくれなくて。ただ私を、無言で苛む。
 黒く暗いそれは、言葉になんかならなくて。私一人では、どうにもならないのだと知った。そして泣きたくもないのに、勝手に目尻から溢れ出てくるのだ。
「ははっ、変なの……私、いつからこんなにも泣き虫になったの?」
 空笑いをするけれど、余計に虚しくなった。それが更に、涙へと変わる。
「もう、最悪っ……こんなの、やだよ……」
 私はただ、知ろうとしただけなのに。
 単に過ぎ行く明日じゃなくて、未来を思い描くことができるようにしたかっただけなのに。
 空虚の十年じゃなくて、前に進むための足場になる過去が欲しかっただけなのに。
 自分のことなのに、手が届かない。
 これも知らない、いつかの私が犯したことへの罰だというのだろうか。
「レオくん……」
 彼の名を口にした途端、涙腺が決壊した。いつかくる別れは、想像以上に辛いのだと実感してしまったのだ。
 いつか――? いや、もう訪れてしまったのではないか?
 このまま私という存在は、彼の中でただの思い出になるの?
 そうして、忘れられていくの?
「嫌だ……」
 たくさんの後悔を残して、どうにもできない思いを抱えて、私はこれから生きていくの?
 いつまでも私ばかりが、彼を想っていくの?
 彼は、思い出してくれないかもしれないのに?
 こんなことなら、やっぱり……。
「付き合うんじゃ、なかっ――」
「――それだけは、言わないで……!」
 しばらくぶりに聞いた声は、初めて会った時と同じように震えていた。
 久々に見た目は、私をまっすぐに映していた。
「っ……あ――」
 会ったら言ってやりたいことが、それこそ今まさに溢れ出ようとする言葉たちがあるのに。それなのに、どれも全部、喉元で詰まって出てこない。
 私が呆然と彼を見ていると、罰の悪そうな顔で瞳を彷徨わせた後、一言「ごめん」と謝罪を向けられた。
 それは、何に対しての「ごめん」なの? また一筋、滴が伝った。
「あの時、イライラしてて……冷静じゃなかった、ごめん」
 私も、冷静じゃなかった。
「無言で帰って、ごめん」
 うん。
「避けてて、ごめん」
 あれ、結構堪えた。
「泣かせて、ごめん」
「……」
「俺と付き合ったこと、後悔させてごめん」
「っく……ううっ……」
「泣かないで……」
「ひっく、う……ああっ……」
 言いたいのに、言ってあげたのに、それは言葉にならずに嗚咽になっていく。
 苦しい。感情がいっぱいいっぱいで、胸の内で暴れている。
 また会えた。声が聞けた。目が合った。そんな嬉しさと、寂しさと辛さと苦しさが全部ごちゃ混ぜになって、洪水のように一気に襲ってくる。
 それでも落ち着いた頃には、あの重りはもうどこにも見当たらなかった。
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