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序章の色
第8話 裏の色
しおりを挟む「それでは質問しますね、お名前は?」
「今一色 翔です」
カウンターで行なわれ始めたここに勤めて100年ちかくなるベテランの受付嬢のリーフェと昨日来たばかりの謎の青年、イマイシキ ショウなる人物の会話を影で盗み聞きしているのは、ここに勤めて3年の獣人族のメルト=クラークである、そして隣にいるのは、ここイニティウム支部のギルドをまとめるギルド長の人種族、ロード=ガルシアである。
「なぁ、メルトちゃん」
「なんですか?ガルシアさん」
「昨日さぁ、あの二人一緒の屋根の下で寝泊まりしたんだよねぇ」
「そう・・ですね」
「先・・・越されちゃったよ?」
「にゃっ!」
そう、昨日リーフェは男と一つ屋根の下で生活したことになる、なにがあっても不思議ではない、むしろ私はそう睨んで彼女とあの男を二人きりにしたのだ。
「なぁ、やっぱり俺の睨んだ通りだったろう?」
「いい年してなにいってるんですか!そ、それにリーフェ大先輩は決してそんなことはしません!あなたの思い違いです!」
「ん~そうかなぁ~俺にはいいと思ったんだけどなぁ」
まだ私が駆け出しの冒険者だった頃、最初にこのギルドで話をしたのが彼女だったその時のことは40年経った今でも鮮明覚えている、そのあとはただひたすら生きていたらいつの間にかこんなに月日が経っていた、彼女は相変わらず美しい姿のままだ。
「まぁ、今更俺がどうこうできるとは思わねぇけどさ・・・」
「?ガルシアさん?」
「あの青年・・・冒険者になるつもりか?」
「ええ、そのつもりのようですが・・・どうしたんですか?」
そう言ってしばらくガルシアは顔にシワを寄せて考えると思いついた様にメルトを見る。
「よし、新人に質問!冒険者新人に取らなくてはならない措置は?」
「もう新人じゃありません!え、え~と、魔力適性検査と制度説明の座学です」
「ん~、70点かな~」
「えっ!、あとは・・・その・・そうだ!冒険経験者の同伴実践です!」
「ピンポーン!」
「・・・ということは!」
「その通り、この俺があの青年に同伴実践に付き合うかなと思ってるんだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それではこれで最後になりますが、本当に冒険者になることに同意しますね?」
「はい、同意します」
「それではこれにて冒険者の申請は終わりになります」
はあ~
ようやく終わった、危険な仕事というだけに記入欄が多い、病気の有無から身体的な特徴まで全部質問に答えたら20分くらいかかった。
「続いてなんですが、申請手数料として銀貨1枚を収めていただきます」
「はい・・・・はいぃ~~っ!!」
いや何言ってるんですかこの人、俺は無一文って言いましたよね!なんで申請なんてさせたんですか!
「いやっ、銀貨1枚って俺一文無しですよ!どうするんですかっ!」
「そうですか一文無しですか・・・それは困りましたねぇ」
絶対に言いました!『7話』を見てください絶対に言ってました!ってなんでニヤニヤしてるんですか!
「だとしたら方法は一つです!」
「おお!」
「私の家で一週間、朝、昼、晩、食事を作ってください!」
「・・・そんなに昨日の肉じゃが気に入りましたか?」
「はい!」
・・・俺、本当は冒険者じゃなくて料理人やった方が良かったんじゃないかと思ってきた・・・
「わかりました・・・」
「良かったです!」
「それでお金はいいとしてこの後はどうするんですか?」
「はい、この後は制度説明の座学で・・・」
「その必要はないぜ、リーフェさん」
声のした方へと向くとそこには顔に立派なあごひげを生やし、マントをしているのにも関わらず筋肉質な体つきをしているのは見てわかるし、何しろ目力がものすごい男性が立っていた。
「ガルシアさん!どうして」
「呼び捨てでいいって言ってるじゃんリーフェさん」
「でもギルド長に呼び捨てなんて・・・」
へ~、やっぱりギルド長って人もいるんだ、にしてもこの二人は知り合いみたいだな。
「あ、すみませんこのひとは昨日、ギルドでちょっと問題があった・・」
「イマイシキ ショウくんだっけ?」
「え、あっ、はい」
んぁ?なんでこの人は俺の名前知ってんだ?
「いや、さっきここで盗み聞きして・・・あっ」
いや、あっ、て・・・ていうかさりげなく心読みましたよね!?
「盗み聞きって、ということは・・・メルちゃん!」
「いやぁ、リーフェ先輩のこれっていうのが気になっちゃって」
舌を出しながら奥の部屋から出てきたのは最初にここに座っていた猫耳の受付嬢だ、にしてもこの世界でも親指立てるんだな。
「もぉ!後で書類整理やってもらいますからね!」
「へ?・・・い、いやぁ、許してくだしゃい~」
ブロンド、ショート、猫耳、猫目、尻尾、カワイイ系、巨乳、まさかそんなコラボな奇跡の光景を拝めるとは・・・
日本のオタクの皆様、ざまぁみろ~!
「とにかく!ガルシアさん、座学が必要ないってどういうことですか?」
「ああ、こいつは俺が面倒みっから」
「はい!?」
え~と・・・状況が読み込めない。
「あの・・・どういうことですか?」
「あっ、すみません実はこの後、制度やこの周辺についての座学がありまして、そしてその後に冒険経験者同伴による実践がありましてそれは後日の予定でしたが・・・」
「まあ、俺が座学兼実践をやってやるってことよ」
「あのそれってよくあることなんでs」
「ないです!ガルシアさんも仕事あるんじゃないんですか!?」
「ナンニモキコエマセン、ナンニモキコエマセン」
「ハァ~」
うん、なんかすごいことになっちゃてるけど、この人見かけによらず茶目っ気たっぷりだな。
「ということで、ショウでいいか?」
「ええ、かまいませんが」
「早速出るか!」
「早くないですか!?」
「鉄は熱いうちに打てだよ!」
そう言い放つと彼はマントを翻ひるがえして扉を開け放ち颯爽と出て行った。
「あの、僕はどうすれば・・・」
「と、とにかく後を追ってください!」
「はっ、はい!」
そうして俺は彼の後を追ってギルドを後にした。
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