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第1章 赤の色
第30話 一方の色
しおりを挟む正直なところ暇だった、特に何もすることはなくただ座っているだけの状況がすでに30分ほど続いているのではないのだろうか。
「はぁ~、暇だ」
地球にはこういう時にスマートフォンなんかのアプリゲームで暇が潰せたのだろうがあいにく手元にスマートフォンなんてなかったし、地球にいた頃も節約のため持ってはいたもののあまり使わないようにしていた。
さて、座りすぎて少々尻が痛くなってきたため椅子から立ち上がり、工房の中をいろいろ物色してみる、外見は以外と可愛らしいが中に入ってみると様々な武器が立てかけてあったり、壁から下がっていたりとなかなか物騒だ。地球で言うミリタリーグッツを扱う店と例えればいいんだろうか。
「・・・ん、これって・・・」
部屋の中を歩き回っていると扉から離れて一番奥の方にいくつもの同じ槍が立てかけられてある、そしてその槍は妙に見覚えのあるものだった。
「これ、ガルシアさんの槍か」
なんだかこう、よく柱なんかに自分の身長に合わせて傷をつけていくような親のような気持ちなんだろうか。
「おいっ、小僧」
「あっ、パルウスさん」
槍を眺めていると後ろの方に防具の入った箱を抱えてパルウスさんが立っていた、どうやら防具のサイズ調整が終わったらしい。
「パルウスさん、これは・・・」
「そんなこと気にするよりまず防具だろ、小僧」
「あっ、すみませんでした・・・」
そして工房の真ん中に行くとパルウスさんが次々と防具を机の上に並べてゆく。
「さぁ、防具をつけてくぞ。痛かったら言え」
「は、はい」
どうも目が怖い、職人気質というのかこういう場になると目が本当に真剣そのものだ。
まずは胸当て。ドラゴンの羽を使っているらしいが感覚としてレザーのようなものを当てられてる感触だ。
「あの槍はな、あのガルシアが自分とこの町を守るために何度も何度も試行錯誤して作り直した槍の試作品だ」
俺の胸当てを着けながら、ポツリポツリと話してゆく。
「あの野郎、長さが足りねぇだの切れ味が悪いだの、しまいには接近で役に立たないから槍のケツの方に鎖をつけろなんて無茶な注文してきやがった」
だがな。と次に俺の上腕当てをつけ始める
「あいつは武器を改造することでさらに自分を追い詰めることはわかってた。なのにどんどん使いこなしちまうから困ったもんさ。俺は100は超えてるってのに年寄りに無茶させやがる」
そう言っているパルウスさんはとても楽しそうだった、そして次々と防具が装着されてゆきそして全てが装着し終わる。
「どうだ?動かしづらいところとかあったら言いな」
試しにパレットソードを抜き、一振り二振りしてみる。
「全然大丈夫です、防具って言うからもうちょっと重いものだと思ってたんですが」
「まぁ、ドラゴンの羽を使ってるからな。値は張るが出世払いで勘弁してやる」
防具一つ一つはおそらく100グラムもしないんじゃないだろうか、これなら今までと同じくらいの疾さで剣が振れそうだ。
さて残るのは金の問題だが、うん。俺の普段の稼ぎの50倍だな、だいたい1日稼いだとして良くても1万くらいだがこの防具は全部合わせてだいたい4~50万するんじゃないか?
「まっ、俺が生きてるまでに払え。できなかったら化けて出てきてやる」
「はぁ、また帰ってくるときにまで稼がないと・・・」
リーフェさんの家に居候しているおかげで普段はそれほど金はかからないのだが、これからは自分の世話もしながら金を稼がなきゃいけないってんだから大変な話だ。
「というわけで、一応誓約書っと・・・」
「はい、ペンをお借りしてもいいですか?」
前にも話したと思うがリーフェさん直々に文字を習っているおかげで、少しは自分の名前も書けるようになった。
「ふぅ~ん、あいつが初めて来た時は字が書けなかったんだがな」
えぇ、あの人は今でも字が書けませんでした。
「それじゃ、ここでいいんですね」
内容自体は簡単なものだ、ただし完済期間が『俺が死ぬまで』っていうのが引っかかるが。
「ほぉ、お前リーフェちゃんの字にそっくりだな」
「まぁ、リーフェさんに教わっていますから」
そう、マンツーマンでな。
そして俺が誓約書にサインをしていた、その時である。
「ショウさんっ!!」
「っ!リーフェさんっ!?」
突如大きな音をたてて開いた工房の扉。流れ込んだ土ボコリに少し蒸せ返るが再び扉の方を見ると、そこに立ってるのはまぎれもないギルドの制服に身を包んだリーフェさんだ。
「ど、どうしたんですか。ガルシアさんと一緒に帰ったはずじゃ・・・」
そうだ、確かにガルシアさんの未来のためにリーフェさんと一緒に送り出したはずなんだが。
そこでリーフェさんの姿を改めて見て俺の思考は停止する。
服は土ボコリまみれ、綺麗な翡翠の髪は乱れまくり服の一部は縮れておりおそらく日に触れたのだろうか若干焦げている、そして何よりひどいのはリーフェさんのニキビひとつない顔に血が付いているということだっ!
「事情はわかりました、今すぐガルシアさんを私刑にしましょう。そんな人とは思いませんでした、まさか二人っきりになって無理矢理野外プレイに出るだなんて」
「なっ、ちがいますっ!何勘違いしてるんですかっ!」
何勘違い?何だ、今の俺だったらガルシアさんなんてこの世に血を流すことも許さない方法で地上から消し去ってやることもできたのに。
「とにかく、今ガルシアさんが大変なんですっ!魔術の扱えることのできる魔物に襲われててっ、ショウさんの力が必要なんですっ!」
「へ?魔術の使える魔物?」
俺も冒険者をして未だ見習い程度の知識しかないが、今まで魔術を扱うことのできる魔物なんて聞いたことがない、だってあいつら喋れないじゃん。
「今は急ぎですっ、とにかくショウさんの実力なら・・・いけますっ!」
「は、はぁ」
なんだ今の間は、そんな強敵なのかよ。
「わかりました、是非手伝わしてください」
「ありがとうございますっ!パルウスさん、ガルシアさんの槍はありますかっ!?」
「あぁ、ちぃっと待ってくれっ!」
慌ただしく工房の奥へと戻るパラウスさん、その間に今回の魔物についての説明を受ける。魔力は赤色、連射性の高い魔法を高度から放ち、物を喋る知能があるということだった、そしてその魔物は空も飛べるらしいが・・・詰んでるだろ。
例えるなら今の俺たちは剣と槍でB29を落とそうとしているようなものであり、どう考えても負けは必至、しかしそんな状況でガルシアさんを置いてくるって・・・よほど信頼してんだな
ならば取れる手段として街にいる遠距離攻撃魔術を行使できる人間を集めて参戦してもらう方法もあるが。
「街に助ければ必ず奴は街に行って、破壊行為を繰り返し住民にも大きな被害が出るでしょう。今はショウさんとガルシアさんでこの場を押さえてくださいっ!」
「ですが・・・」
こちらとしては最善の方法をとりたい、当然リーフェさんの言い分もわかるだが・・・
「負ける可能性も視野に入れてください、そうなったら次の策も考えておかなくてはいけまs
「今回。この魔物を討伐したら臨時報酬として、この防具の料金をギルドが肩代わりします」
「負けませんっ、絶対まけませんっ!その魔物とやらの首を必ずやギルドに持ち帰りますよっ!」
臨時報酬だと、こんなうまい話乗らないわけないじゃないかっ、剣と槍でB29を落とす?殺ってやろうじゃないかっ!
「おい、リーフェちゃん持ってきたぞ」
「ありがとうございますっ」
見慣れたガルシアさんの槍、今は麻みたいな布で巻かれているがその長さとそれを持ったガルシアの強さはよくわかっている。
「パルウスさんっショウさんの防具はギルドが肩代わりしますっ!」
「・・・この小僧が死んだらどうする?」
「その時は・・・お茶をしましょう?」
「よしっ、ゆるすっ!」
この変態ドワーフっ!俺の命とこの防具はリーフェさんとのお茶一杯で許せるもの・・・だな。うん、俺もあんたの立場だったら許すわ。
「ほらっ、さっさと行け。自分の命が茶の一杯と同等と思われたくなかったら生きて帰ってくるんだな」
「っ、わかりました。防具、使わしてもらいます」
「あぁ、存分に使ってやれ、壊したらもってこい。あとこの槍、女に持たせるつもりか?」
「あっ、すみません受け取ります・・・っああっとっっっ!」
なんだこの重さっ、何に例えたらいいだろうか・・・そうだあれだ、よく体育でバレーボールで使うネットを張るためのポールだ、あれの重さと同じだっ!
「大丈夫ですかショウさんっ!」
「えぇ・・・すみません端を持ってもらえますか?」
これを一人で運ぶのは無理だ、少なからず二人の方が効率がいい、もうちょっと俺も鍛えようかガレアさん並みに。
「それではしつれいしますっ!ショウさんっ!」
「わかりましたっ、失礼しましたっ!」
「おう、終わったら防具の使い心地聞かせてくれよ」
そう言って工房をあとにした俺とリーフェさん、外に出ると相変わらずの晴天だが今はこれがうざったくてしょうがない、そして目の前を走るリーフェさんだが普段ギルドの受付嬢をしているにもかかわらずその走り方はまるで女子陸上の選手みたいに美しいフォームだ。
「ショウさん、おそらくこのままでは間に合いません、なので今から魔法を使いますので動かないでください」
「えっ、あっはいっ」
リーフェさんは手のひらを交差させ俺の方に向ける。
『其の風 我を取り巻く動の天秤よ 緑の名の下に その傾きを具象させたまえ レウィスっ!』
すると、リーフェさんの手のひらで発生させた緑色のオーラが俺の体に飛びそれは発光しながら俺の体を取り巻いている。
「あれ?体が軽いような」
「今ショウさんの体重は元にある体重の10分の1になっています、普段はコントロールが難しいのですがこの槍が重しになってくれそうなのでこのまま走りますよっ!」
そして同じ魔法をリーフェさん自身が自分にかけて、そのまま走り出す。
今の状態はリーフェさんが先頭に走っていて、その間を繋げるように槍があり後ろから俺がついてくるという状態なのだが、体重が軽くなった分その移動速度が以前にも増してかなり早くなっている、少なからず今の俺だったら軽くボルトを超える世界新記録を叩き出せるだろう。
そうこうしているうちに何やら騒がしい音が近づいてきているのがわかってきた、何やら爆発音だったり、雄叫びだったり、はたまたなんかの言いがかりだったりと、思ったよりも元気そうだな。
「そろそろ着きます、迎撃の準備をしてください」
「はいっ」
さて、魔法を使う魔物とはどんな奴なんだ?
そして見えてきたのは、明らかに地形が大きく変わっている見慣れたはずの緑に焦げてる原っぱ、そこに佇んでいるガルシアさん、そして真っ赤に染まった翼を持った鳥人ってあれ魔物じゃねぇだろ、化け物だろ。
「おいっ、それを投げろっ!」
向こうでガルシアさんが吠える。
「はいっ!」
リーフェさんが返事を俺と目を合わせアイコンタクトをする。
「せ~のっ!」
二人でガルシアさんに向って槍を投げる、その槍放物線を描きながら布が外れてゆき、あらわになった槍をつかみ、ガルシアはその切っ先を目の前の化け物に向ける。
「リーフェさん、俺も行ってきますっ」
「はいっ、気をつけてっ!」
俺もリーフェさんに送られて、気合いを入れる、よしっ、すべては臨時報酬のためっ
殺ってやるぞ、このバケモノッ!
応援ありがとうございます!
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