異世界探求者の色探し

西木 草成

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第1章 赤の色

第31話 策の色

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「きサま、ナニモのダ?」

 えっ、いや・・・その・・・

「あっ、すみません。私ここで冒険者しております、今一色 翔です・・・」

 なんだろうか、ここは挨拶とか自己紹介をするべきなのか?やっぱり初対面だし、見た目怖いけどやっぱり初対面の印象は大z

「ナら、コろスっ」

 はい、戦闘準備です。もうダメです。

 見た目はなんかファンタジーで見るような、体は人型でその背中に翼が生えてるって感じだけど、異常なのはその体毛というべき羽毛がまるで血に染まってるかのように真っ赤なのだ。

 問題はその能力なのだが、果たしてどれくらいの火力なのか・・・

「し、ネッ!」

「!?」

 不意に俺に突き出された腕、その腕から真っ赤なオーラが溢れており、それは4本の魔力で出来た矢を形成してこっちに飛ばしてきた。

「っ!『スクトゥム!』」

 俺は衝突する直前、両腕をクロスさせ衝撃に備える。ついでに全身に魔力を集中させ吹っ飛ばないように備える・・・が

「っ・・・がっ!」

 ぶつかったその衝撃はガレアに食らわせられた剣の衝撃に比べれば少し劣るが、その少し劣る衝撃を四発連続で防ぎきるのだからとんでもないことだ。

 それだけならまだいい、問題なのはぶつかった瞬間その魔力が膨大に膨らみ、爆炎となって襲いかかってきたのである。

「ショウっ!」

 結果、全身に魔力を集中させていたにもかかわらず後方に大きく吹っ飛ばされた。遠くでガルシアさんの声が聞こえるが20メートルくらい飛ばされたみたいだ。

「だ、大丈夫です」

 しかし、これほど飛ばされたのに怪我一つしていない。これはパウルスさんの防具のおかげなんだろう。

「いいかっ、今度は魔法を正面で受けるなっ!まず避けることが先決だっ!」

「はいっ!」

 ふとあれほどの衝撃を受けた盾が心配になり確認をしてしまうが、どうやら無傷のようだ。

「次っ!来るぞっ!」

 我に帰り、首を敵の方へと向けると再び何かとんでもないものが飛んでくる気配を感じる。

「避けるぞっ!」
「はいっ!」

 互いがそれぞれ反対方向に逃げると次の瞬間、先ほどと同じ矢が着弾しその場に大きな火柱が立つ。

 ガルシアさんが逃げた向こう側を見ると、すでに体制を立て直しており槍を片手に敵へと突っ込んでいる。

 相手はガルシアに目がいっており、俺の方は見ていない。

 ならばっ!

 俺は反対側で走っているガルシアと同じように敵の背中の方へと回れるように走って行く。

 時折こちらに向けて矢を放ってくるが、二人同時に相手をしているせいか精度が悪い、結果少し進路変えるだけで簡単に避けられる。

 そして幸いにも相手はまだ地上にいる、ゆえにそれは勝機があることを意味する。

 前方で走っているガルシアはすでに槍の攻撃範囲に入っている、おそらく二人がかりだったらあいつに勝てる。見てる限り武器は持っていないし、奴が空を飛ぶ前に仕留めればいいだけの話だ。

「ウォおおおおぉっっっ!」

 そしてガルシアとあいつの一騎打ちが始まる、だが槍も射程が近すぎるとかなり使い勝手が悪い。そして相手も魔法で対抗、すなわち重火器みたいなものだがさすがに至近距離の相手にぶっ放すには強力すぎる上に自分の身が危ない。

 となると戦闘状態は自然と『中距離』と『長距離』を繰り返しながら行われるはずだが、問題なのは俺が『短距離』での戦闘しかできないということだ。

 当然相手の得意とする『長距離』での攻撃は相手の間合いに入らずとも攻撃ができる点と、相手の近く前に周りの敵を感知し殺傷できるという点だ。

 すなわち、今回はガルシアがどれだけ相手を引きつけられるかに勝機がかかっているっ!

 あいつは俺のことはすでに眼中にないらしい、ガルシアも俺が何を考えているかは理解しているようだ、必死に相手を引きつけている。

 俺の剣の間合いに入るまで残り約60メートルっ!

『レクソス』

 左腕に嵌めてあった盾を鞘の形状に戻し、走りながら剣に鞘を収める。


 ・・・スゥー


 ハァー・・・


 間合いに入るまで残り・・・0メートルっ!

「はっ!・・・」

『今一色流 抜刀術 風滑りっ!』


 ・・・手応えはあった、そして自分自身最高速度の抜刀術を繰り出した。

「っ!」

「オしカッたナ」

 羽の生えた背中に向けて放たれた抜刀術は、その大きな羽に食い込んでいた。だが・・・これは・・・ただ羽じゃないっ!

「引けっ!ショウっ!」

「・・・ぐっ!」

 食い込んだ剣を引き抜き猛スピードでバックステップをするが、間に合わなかった。

「ガッ!・・・」

「ドうダ?だがオレノカらダにキずヲツケたノハホメてヤロう」

 なんで・・・斬れないっ!

 斬った時の感触は、最初は肉みたいでそこらへんの魔物と変わらないが振り抜こうとした瞬間、斬っているものがまるで鋼鉄に変わったかのような硬度になったのだ。

 そして現在、逃げ遅れた俺は首を締め上げられ体が宙に浮いているような状態である。

「さァ、シね」

「・・・ぐっ」

 段々と意識が遠くなって行き、体を動かそうにも力が徐々に入らなくなってゆくのを感じる。

 呼吸がしづらくなって行き、ここまでかと手に持った剣が地面に落ちそうになった


 その時だ。


(ここで死ぬのか・・・テメェ)


 え?


 誰だ?


(今から俺様の言うことをよく聞け)

(あの大男が槍もって突っ込んでくっから、そしたらこいつが豆鉄砲出した瞬間にこいつを斬りつけてみろ、いいな)

「ウォおおおおっっっ!ショオっっっっ!」

「シつコイっ!」

 ガルシアに向けてさらに矢を放つ時、すでに事切れたと勘違いしたこいつは首を絞めていた手を緩め俺を地面に投げ捨てる。

「くっ・・・はっ・・・!」

 何だったんだ今のは・・・?

 だが疑うよりはまずやってみろだ、俺の脳みそが酸欠で聞かせた幻聴かもしれないがやってみないことはないっ!

 そばにはさっき落とした剣、そいつを握り直しこいつが魔法を打ち終わるのを待つ。

 そして、ガルシアに向けて放った矢はすべて当たらず、再び魔法を発動をさせようとした時。

「ウォラッ!」

 うつ伏せになった状態で、目の前に見えているそいつの両足の腱に

 剣を打ち込む。

「グッ・・・っ!?」

「入ったっ」

 先ほどまでの打って変わり、魔物の肉同様すんなりと剣が通った。

 そして、足の腱を絶たれたことにより立っていられなくなり片膝をついて俺を睨みつける。

「キサま・・・っ!」

「こっちダァアアアアアアあっっ!」

 完全に気を取られたそいつは、目の前までやってきたガルシアの接近を許してしまう。

「シま・・・」

「ウラァアアアっっ!」

 ガルシアの槍はこの化け物の心臓辺りを貫く、そして背中にその槍の先端が見えた。

「っ!どうだっ!」


 貫かれ確実に死んだはずだろう、だがさすがは魔物だ、その生命力は凄まじかった。

「グググググううううっっっ!アァアアアあああああっっっっっ!」

「っな!」

 ガルシアも完全に仕留めたと思ったのか、反応が少し遅れる。再び槍を引き抜いて次は頭に狙いを定める。

 そして、放った槍はそいつに躱され、伸びきった槍の持ち手を掴まれてしまう。

「ガァアアアアアアあっっ!」


 持ち手を持たれそいつは思いっきり槍を殴りつけ始め、そして

 派手な音を立てて、槍が折れてしまった。

「グッ・・・っ!」

 動揺したガルシアに襲いかかったのは化け物の拳だった。

「くソガあアアアアアアっっっっ!」

 そんな雄叫びをあげ、ガルシアの顔面を殴りつけ後方へとぶっ飛ばした。

「ガルシアさんっっ!・・・ハァァアアっっ!」

 すぐさまに体勢を立て直し、剣を握り直す。

『今一色流 剣術 時雨 <豪>』

 連続して、剣を高速に打ち付けてゆくがそのどれもが全く通らない。

 そして、連続して打ち付けていると必ず隙ができる。

「ガァあああアッッッッ!」

「ガッ・・・ハッ!」

 既に回復しているのであろう足で、思いっきり胴を蹴りつけられる。

 後方に吹っ飛び、地面に倒れこんだ後、今まで経験したことのないような痛みが体の中から走る。

「グッ・・・ゲッハッ!」

 腹の奥から何かが出てくるのを感じ、それを思いっきり吐き出すとそれは地面を真っ赤に染め上げた。

「・・・く・・そ・・」

 手の指一つ一つが動かない、剣を握る握力もすでに残っていない。

 立ち上がろうにも、その度に口の中から血がこぼれ落ちる。

 終わった

 そう思ったその時だ。

「ガルシアさんっ!ショウさんっ!頑張ってくださいっ!」

 遠くの方で声がする、見ると岩陰に隠れていたリーフェさんが手をメガホンにして大声で叫んでいる。

「帰ったら、美味しいご飯待ってますからっ!ガルシアさんもっ!今日は一緒に飲みましょうっ!」

 化け物目線は確実にリーフェさんの方へと向いている。

 まずい、リーフェさんの魔力はもう空だっ!

 そして、大きく羽を羽ばたかせて向かった先は当然リーフェさんだ、慌てて体を起こそうにも、すで言うことを聞いてない。

「くっ、そぉおおおおっっっ!」

 動けっ、動けっ、動けっ!

 うごけぇええええぇええっ!




「おい、テメェうちの看板受付嬢に何しようとしてんだ?あぁっ!!」



 リーフェさんの方から漢の声が聞こえてくる。

 重い頭を動かし、リーフェさんの方を見ると両手を突き出している化け物に対して同じく両手を突き出して押さえ込んでいるガルシアの姿があった。

「リーフェさんっ!言質とりましたからねっ!!」

「っ!はいっ!」

「ウォおおおおおおっっっ!」

 ガルシアが吠える、化け物は羽を使って対抗するが全くもってその意味をなしていない。化け物はガルシアに押し返されるように後退して行き、手を離したと思ったら空へ飛んだ。

 これはまずい。

 だが

 おかげで勝機はあるっ!


 なんとか動かせるようになった体で、剣を杖にガルシアとリーフェさんに近づく。

 ふと空を見れば傷口を押さえて空中で悶えており、おそらく回復を図っているのだろう。

「おいっ!大丈夫かっ!」

「え、えぇなんとか生きてます・・・」

 にしても冒険者をやってここまで死を身近に感じたのは初めてだ。

「ガルシアさん、作戦があります」

「なんだ、俺の槍も折れちまって使いもんにならんぞ」

「大丈夫です、そいつさえあれば十分なはずです」

「こいつか?」

 ガルシアが手にしていたのは、折れた槍の持ち手でその先は鋭く尖っている。

「はい、それでガルシアさん、身体強化術を使うための魔力は残っていますか?」

 そう、それが今回の作戦の鍵だ。

 だが

「すまん、さっきの戦闘でもう身体強化に使える魔力は残ってない」

「・・・っ!」

 まずい、だとしたら他に策を・・・っ!

 確かに今のガルシアの姿は正直言って俺よりもひどい、正直言って俺も今回の作戦を行うことができるかわからない。


 だが、その時だ


「ガルシアさん・・・こっちを向いてください」

「えっ・・・リーフェさん、何?・・・・っっ!」

 リーフェさんに呼ばれたガルシアが振り向く、俺もその姿を見る


 そして


 何でこの二人はキスをしてるんだ。

「・・・んっ・・・フゥ・・・ガルシアさん、どうですか?」

「・・・。ショウ、いけるぞ」

「・・・わかりました」

 何でこんなことを目の前でされたかわからない、おそらくだが口移しで魔力を流していたのだろう。そうであってほしい。

 そして俺もなんかできるような気がしてきた、正直に言えば怒りだ。

「コろスコロスこロスコロすコロスぅウうううっっっっっ!」

 決してこれは俺の心の声ではない、空を飛んでいる化け物が俺たちを見下ろしながらそう叫んでいるのである。

 決して俺の声ではない。

「ガルシアさん行きますよっ!」

「おうっ!」

『スクトゥム!』

 俺は右手に盾を装着させ、思いっきり地面を蹴るっ!


 その高さはあの化け物にまで届く、およそ40メートルっ!


「じ、ネっ!」


 手を突き出し、俺に向けてあの矢を放つその数三本っ!


「ハァアアアアアアアアッッッッッ!!」


 右手を抜刀術の構えみたいに左腰に剣を持ってくるっ!


 奴が矢を放つ、それはまっすぐ三本まとめて俺の方へ飛んでくるっ!



 ・・・スゥー


 ハァー・・・



『今一色流 抜刀術 円月斬<空>っ!』


 思いっきり剣を振り抜き、飛んでくる矢を右手に装着させた盾に当てさせるっ!


 右手の方で大きな爆発が起こり、俺は地面の方へと叩き落される。


 だが、


 本命は俺じゃない。


 落ちる瞬間


 俺の横を追い抜きながら吠えるガルシアを横目にどう受け身を取るかを考えていた。
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