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第1章 赤の色
第32話 血着の色
しおりを挟む横を見ると、先に攻撃を受けたショウが俺を横目に落下していくのが見えた。まったく、たいした男だ。あれほどの攻撃を受けておきながらあ俺の方を見て笑ってやがる。
このチャンス、無駄にできるか。
あいつが魔力で攻撃を行った時、その時がチャンスです。
お前の言葉、信じるぞっ!
「くらえっ!このバケモノっ!」
手に持った槍の残骸、折れてはいるがこれでも十分あいつの心臓を貫くには十分なはずだっ!
そいつを持つ手を目一杯伸ばし、奴の心臓に届くよう全力で向かう。
手には肉の感触、そしてこの手で何度も奪ってきた命の感触もした。
「ぐッ・・・ハっ!」
間違いない、奴の体は押し込まれた方向に吹っ飛んで行く、その羽根は飛ぶ力を失い徐々に下降してゆく。
そしてまだ意識は残っているのか肩に手をかけ必死に引き剥がそうとする。
「テメェとはゲヘナまで一緒に道連れにしてやらぁ!『其は火 我が目の前に苦しみを持って具現せよ 赤の名の下に 死を与えるまでその炎絶えんことを ゲヘナフランマッ!』」
体全体から赤いオーラが炎のように猛り、落下しながら二人を包み込み勢いよく燃え始める。
「ぎゃアァアァァッァッァアァッッッ!」
「グっ!くたばれこのドチクショウがっ!」
こいつを殺す、そのために冒険者になった
こいつを殺す、そのために技を磨いた。
こいつを殺す、そのために死ぬような思いをした。
そして・・・っ!
「テメェとは心中する気はねぇんだ!」
押し込んだ槍の残骸を手放し、目の前で火だるまになって燃えているそいつを足で蹴り飛ばし、自分自身も燃えながら地面に迫ってくるのを待つ。
あとは頼んだ、リーフェさんっ!
『其は風 羽の加護あれ 緑の名の下に そのものに翼を アーラっ!』
下から突き上げてくる風、その風は俺の炎を吹き消し地面へとやさしく下ろしてくれた。
「ガルシアさんっ!なんて無茶するんですかっ!」
「すまんすまん、こうするしか止めが刺せなかったもので・・・」
「本当に・・・っ本当に・・・っダメだと思ったんですから・・・っ!」
仰向けになって空を見上げているとリーフェさんが心配そうに顔を覗き込んでいて、急に怒ったと思ったら泣き出してしまった。
「本当に心配かけたな」
「・・・っ、今度こそ・・・今度こそ絶対に酒場出禁にしてやるんだから・・・っ」
すみません、それはマジで勘弁してもらえますか。
そう言って俺の胸に頭を乗せてきたリーフェさんに腕を回し頭を撫でてやる。
・・・殺気・・・っ!
「・・・どうやら倒せたようですね」
「っ!・・・なぁんだびっくりさせんなよ、ショウか・・・」
「幸せそうなところ悪いんですけど・・・まだ動いてますよ?あいつ」
「なにっ!」
急いで体を起き上がらせ前の方を見ると、全身火だるまになって悶え苦しんでいるあいつが見えた。
「おいおい、マジか・・・」
「止め、指しますか?・・・今の俺だったら五秒であいつを殺れます」
そう言って剣を引き抜いてるが、何をそんなに怒ってるんだ?こいつ。
「いや、多分大丈夫だろう。ほっといたらそのうち死ぬさ」
「だったらいいんですが」
だが、どうも様子がおかしい。おそらくあともう少しで絶命すると思うが・・・
「きケっ!オロかナニんゲンよ!」
「っ!」
火だるまになりながらあいつ何しゃべてるんだっ。
「もうスグここにワがドウホウがセめコんでくるっ!」
「・・・何?」
「こノムラヲ、オレミたイニヤきツくスダロウっ!・・・・ぎゃははははアァアアアあああっっ!」
・・・くそっ、めんどくさいことに・・・っ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おい、ショウ。お前怪我は?」
「多分、右肩の骨が外れてますね」
「おいおい、どうして」
「俺、攻撃受けた後木の上に落ちたんで。多分そのせいです」
そう、あの時攻撃を受けた後、受身なんて考えていたのもつかの間木の上に落下したのである。その時の衝撃で右肩が脱臼してしまったらしい。
「そんじゃ、お前もメルトちゃんの治療受けるんだな」
「そうですね、ガルシアさんもですが?」
「え、いや・・・俺は・・・唾つけときゃ治るし・・・」
「こんな大やけどを負って何言ってるんですかっ!」
「ウゥ・・・だってメルトちゃんの治療って・・・」
そしてだ、この二人はいつまでイチャイチャしてるんだ?おい。
今現在、俺たちはギルドに戻るための道を歩いているのだが、状況として俺の前方にリーフェさんがガルシアさんに肩を貸しており。大男が女性に支えられているという実に奇妙な状況なのだが・・・なんだかおもしろくない。
そして歩くこと20分。
「お帰りなさい・・・ってニャーッ!なんでこんなに血だらけってえっ!何が起こったんですかっ!先輩っ!」
「メルちゃん、今すぐ治療の準備。二人分」
「はっ、はいいっ!」
ギルドに着くなり受付に座っていたメルトさんが悲鳴をあげ、リーフェさんが冷静に指示を出す。
そしてガルシアさんは床に寝かせられ、その隣に俺も寝ろと指示を出される。
「おい、お前今なんで男の隣に寝なきゃいけないんだろうって思ったろう」
「いえ、今回はハズレです。正解は隣に寝てるのがリーフェさんだったらよかったのにです」
「・・・お前、性格変わってないか?」
「お待たせしました~ッ!」
そんな話をしているとメルトさんがたらい一杯に水らしきものを持って現れた。この時にちらりとスカートの中身が見えたことは秘密だ。
「お、おい・・・痛くしないでね」
「無理です」
は?痛い?
ガルシアさんが気持ち悪く、そう言ったが一体何が起こるんだ?
するとリーフェさんがガルシアさんのを、メルトさんが俺の服を脱がして行き上半身裸になったところでメルトさんが呪文を唱え始める。
『其は水 癒しを求めんと欲す 青の名の下に 命に潤いを メディキーナ』
メルトさんがそう唱えた後、たらいの中の水がまるで生き物みたいにうねり、それは外に出たかと思うと・・・
俺の体の中に無理やり入り込んできやがったっ
「痛デデデでででっ!」
「痛てぇっぇぇぇぇぇぇっ!」
なんなんだこの皮膚を突き破るように入ってくるこの水はっ!
「すみません、後ほんの少しの我慢なんでっ!」
とは言ってもだっ!
この今まで体験したことない痛み・・・なんて表現したらいいんだっ!あっ、あれだまるで寄生生物が入り込んでくるような・・・そんな感じだっ!
しばらくすると痛みは治まり、起き上がってみると右肩は嘘のように治っていた。・・・まさか◯ギーみたいのが出たりしないよな・・・
隣を見るとあれほどまでひどい火傷を負っていたガルシアさんだったが跡も残らず消えていた。しかしなんとも言えない顔で気を失っていたが・・・
「肩はどうですか?」
「え、えぇ治ってます」
「ハァ~、よかった~。たまに失敗しちゃうんですよ。これ」
もう絶対に怪我なんかしない。
怪我が治り、他のことに思考が回せるようになったところで先ほどあの化けもが言っていたことを考えていた。
「リーフェさん、あいつが言っていたことって」
「おそらくですが本当でしょう。仮に嘘だったとしても警戒をしておくべきだと考えています」
となると、回答は決まったな。
「すみません、あと一週間宜しくお願いします」
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